小説『とある魔術と科学の理論解析(セオリーアウト)』
作者:Android()

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「よぉ、初めまして。幻想殺し(イマジンブレイカー)

「アンタが第二位の垣根帝督か?」

「そうだ、まぁ座れよ」

上条は椅子に腰掛けた。

「上条当麻、その組織が襲撃してくるのは予測でまだ一週間以上も後の話だ。それまで準備も何もできねぇ」

垣根帝督の意図がわからない。
何故一週間以上の後だというのが分かるのか。何故準備が出来ないのか。
それが分からない。

「硬くなるなよ。それよりお前、スクール・シティって知ってるか?」

「どっかできいた事……あ!」

上条は思い出した。スクール・シティ。
スクール・シティというのは10人の女の子で結成された大人気アイドルグループで、リーダーが倉島越南くらしまえつな。
学園都市のどこかのアイドル部が発祥で、他の学校からもメンバーを募集しここまで成り上がったとか。
青髪ピアスが言っていたのを思い出す。
しかしこの垣根帝督からアイドルの話を聞けるとは、と上条はあまり人物像も知らないのにイメージ的に意外だと驚いていた。

「ホント、あなたは……仮にも第二位なのに……」

「うるせぇ!俺の勝手だろーがよ」

「?」

「この人、この中学生の子にお熱なのよ」

と、心理定規が雑誌を取り出して指さしたのが未澤微涼みさわびりょうという子。
この雑誌が、制服で撮ったのか殆どのメンバーが名門校という事が分かる。
この未澤微涼という子、棚機中等学園の制服を着ていてそれなりに可愛い……ような気がする。
しかし意外だ、と上条は始終驚いていた。

「上条はどれがいい?」

「全部おんなじ顔に見えるんだが」

「はぁ?んな訳ねーだろ」

「強いて言うなら……阪田菜花(さかだなばな)?かな」

「へぇ、人気はねぇけど可愛いと思うぜ」

こんな談義をする上条と垣根を冷たい目でみる心理定規。
しかしこんな友人同士のような会話も、好感度UPの為だったり警戒の為だったりと裏があるとすれば悲しい。
だから上条は未だに、この垣根帝督を信じることが出来ない。
こうやって気さくに話しかけてくる人間じゃないのは、人物像を知らなくても分かる。
警戒と、疑心暗鬼が上条の中で渦巻いた。

「どうした、そんなに警戒して」

「……」

「まぁ疑うのも無理はねぇ。一時期だけの仲だ、別に仲良ししてくれなくてもいい。
が、一応『仲間』だ。俺はお前を使って第一候補になりたい、お前は俺を使って学園都市を守りたい。
互いが互いを利用しあう事が、俺達の関係なんだ。それまでは裏切らねぇよ」

「……そうか、その言葉を聞けて安心した」

利害が一致しただけに過ぎない関係。そして利害関係は意外と強固な絆が有る。
自分の得、という最もな欲望という絆が。
これが上条も垣根も裏切ることは出来なくなり、互いが互いにレールの通りに動くだけの話。
上条がここで首を穫られる心配はなくなった。

「それより、アイテムはどうなったの?」

「アイテムには逃げられた。麦野沈利は負傷したフレンダ=セイヴェルンと絹旗最愛を回収した後に滝壺理后と共に逃亡。麦野沈利をもう少しで殺せたんだが」

「麦野沈利……?」

「学園都市の第四位だ」

                        *

ここはAIM拡散力場研究センター。上条が務める研究所で上条の後輩、木原円周が昨日も一昨日も来なかった先輩に対し非常に怒っていた。

「当麻お兄ちゃん……」

寂しいのと、上司から上条がやるはずの仕事を押し付けられる二重苦で円周の思考回路は既にパンク寸前だ。
またどうせ、何かやらかしたのだろうと思うがそれを確認する手立ては無いし、それを探そうにも手一杯なので不可能だ。
目の前には上条が提唱したAIM拡散力場のベクトルについてのレポートを今、纏めている所だった。
しかし、面倒くさい。文系理系も関係は無いが、文章を考えるのが苦手な円周は叫びたくなるくらい面倒くさかった。

「絶対、当麻お兄ちゃんをぶっ殺す」

低い声で言った円周はシャーペンを机に投げ捨て、研究所を飛び出していった。
宛はないが、手掛かりなら三日くらい前になんとかの地獄ラザニアを食べたいといっていたのを思い出す。
その地獄ラザニアがあるのは第七学区のファミレスしか無い。
ファミレスの前には例の地獄ラザニアが大々的に宣伝されており、円周はうえ、と気持ち悪そうに言う。

(こんなの食べる人って味覚がおかしいよ)

と思いながら、円周は店の中に入った。
いらっしゃいませー、という元気な声がきこえ店員が『何名様ですか?』と見たら分かるような事を訊いたので、円周は要件だけをはっきりと伝えた。

「ああ、あの。そのお客様なら、確かスキルアウトと喧嘩をして風紀委員に連れて行かれましたけど……」

「……当麻お兄ちゃん、出かけ先でトラブルは日常茶飯事って事……?」

「お客様……?」

「じゃあ、風紀委員の詰所を当たってみます」

「そ、そうですか。あ、ありがとうございました……」

手掛かりは掴めた。第七学区に風紀委員の詰所は三つしか無い。
その中でも勢力が強いのが常盤台の生徒が所属している第一七七支部。
ここからだったらそう遠くはないし、円周はその第一七七支部へ向かった。
第一七七支部の前では、常盤台の生徒が二人で談笑しており、片方が腕章を付けている事から容易にこの詰所のメンバーだという事が分かる。

「あのー」

「はい、どうしました?」

「上条当麻って人……知ってますか?」

その瞬間、二人の顔色が変わった。
華やかな雰囲気を纏っていた少女は怪訝な表情に変わり、ツインテールの風紀委員はなんだか嫌そうな顔に変化する。

「上条当麻さんなら、昨日の夜頃には釈放しておりますわよ」

「そうですか……」

「アイツに何か用があったの?」

「……同じ職場に勤めていて、三日くらい音信不通で。研究職だからある程度の自由はきくんだけど……」

「アイツって研究職だったの!?」

「うん、『木原数式』って聴いたこと無い?」

「木原……数式?」

その話に、同じ風紀委員である眼鏡の女が話に割り込んでくる。

「木原数式、AIM拡散力場と能力者の関係性を数式で表した能力開発研究内での期待のホープ」

「よく知っていますわね、固法先輩」

「その筋では有名よ。まだ青い高校生に能力開発で最も重要な部門の足掛かりと作った人だってね」
 
固法先輩と呼ばれた女が言ったその時、電話がかかってきた。
ツインテールの風紀委員がそれを取り、『もしもし』と言った。

「……爆発事故の現場検証?」

「……!」

-4-
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