園都市には七人の超能力者が居る。
その中でも第二位の未元物質と呼ばれる男がいる。名前は垣根帝督。
暗部という学園都市の治安維持部隊『スクール』に所属しており、今回の依頼は学園都市に侵入した男の排除だ。
しかし男を尾行していた部下は何らかの爆発に巻き込まれ重傷。自爆したと思われる男は死亡。
一緒に戦っていたとおもわれる『木原数式』はその爆発に巻き込まれ現在、病院へ入院中らしい。
「こりゃあ、相当な威力だったみたいだな」
「そうね」
垣根の呟きに同意したのは『心理定規』というスクールの構成員の一人。
爆心地は半径200メートル。それ程範囲が大きい訳ではないが、威力はその周辺の廃ビルが物語っていた。
もともとこの辺は再開発事業地域で、10年前に開発が失敗した場所の一つだ。
表向きはガス爆発事故だと報道されているが、闇に精通するものなら今回の事件は故意だという事を知っている筈だ。
実際、今回の事件の調査を『アイテム』も行なっているらしいが、それも気になる。
『木原数式』に接触する可能性があるのだが、それは避けたい。
「ったく」
「どうしたの?」
「なんでもねぇよ。それより、あの女はどうした」
「あの女?」
「阪田衛里だよ」
重要参考人の一人ではあるが、死亡報告は聴いていない。
阪田衛里の経営する居酒屋がこの近辺に有るはずだが、爆発で吹っ飛んだ。
しかし死体は見つかっていないし、そもそも200メートル以上も離れていた。
店の原型は残っているし、そもそも物陰に居れば火傷程度で済むくらいなのだが……。
「ん、ちょっと待って。電話」
心理定規が電話を取った。
携帯電話のディスプレイには下部組織と表示されていて、何かの報告の可能性がある。
「もしもし」
『心理定規さん、阪田衛里の死体が見つかりました。焼死体です』
「ん?聴いたことがない声ね」
『ああ、先日配属されました璃衛多藩です!』
「そう、ご苦労様」
心理定規は携帯電話をポケットの中に突っ込んだ。
垣根は心理定規の携帯電話の声を聞いていたのか、報告はいいと断った。
これで重要参考人は木原数式しかいなくなった。
アイテムとの直接戦闘の可能性もあるし、まずは下部組織に攻撃に行かせてもいいのだが目標は公共の建物の中だ。
そんな所でドンパチやらかす訳にはいかないし、向こうもやってこないだろう。
それなら道中にぶっ飛ばす。
そう決めた垣根は下部組織に、アイテム殲滅を言い渡した。
「大丈夫なの?原子崩しは死ななそうだけど」
「俺が直々に殺す。奴らには足止めになって貰いたいだけだ」
「そう、私は何をすればいいの?」
「木原数式……上条当麻へと接触しろ。スクールに引きずり込むぞ」
「どうして?木原数式に利用価値はないと思うけど」
「『木原数式』としての上条当麻は必要ない。幻想殺しとしての上条当麻が必要……今回の任務には上条当麻が必要不可欠っつー事だ」
「成程、じゃあ陽動と殲滅は任せたわ」
魔術オカルトを使う連中を叩きのめすには幻想殺しイマジンブレイカーが必要となる。
まだ右も左も分からないこの状況と相手の異能と渡り合うには……だ。
それにこの事件は|第一候補になる為には絶好過ぎる事件だ。
その為には幻想殺しイマジンブレイカーを使い潰すしかない。
「ムカついたぞ。『アイテム』」
*
「うっ」
上条当麻は目を覚ました。真っ白な壁紙に真っ白な床。ここは病室だった。
体中が痛い。ずきんずきん、ひりひりと体の至る所にダメージがあるらしい。
最後に見た光景は、男が『六芒星の紋章』を使い自爆した所。
あれからどうなったのか。どれぐらい経ったのか。
そんな事を考えていると、病室のドアがノックされた。
「はい?」
入ってきたのは、キャバクラのお姉さんみたいな格好の少女。
こんな人と知り合いだったか?と思い出すが、記憶には無い。
「あのーどちら様でせうかー」
「私はね、心理定規っていうの。よろしく『木原数式』」
「……アンタ、闇の者か?」
「木原数式って呼ばれるのは慣れてないようね。まぁ上条当麻でも幻想殺しでもなんでもいいんだけど」
「要件はなんですかー?上条さん今怪我してるので早めにしてくれると嬉しいんですけど」
「アナタと戦った男は死んだ。外部の組織から派遣された捨て駒だったらしいんだけど、その組織の人間が近々学園都市へやってくる」
「それで?」
「悪いんだけど、アナタにはこの組織と戦うグループに入って貰いたいの」
「……なんで俺が入る必要が有るんだ?」
心理定規は一息置いて答えた。
「簡単な話、その組織は超能力とはまた違う『異能』を使ってくる」
「成程、それで俺の幻想殺しを使うって訳か」
しかし上条は素直に返答する事が出来ない。
自分も十分『闇』の人間に近いだろうが、彼女の言う『グループ』とは暗部の事だろう。
一時的とはいえ、暗部堕ちという事だ。
『夕暮れを覆う暗闇』の目的が学園都市崩壊だとすれば、上条が彼らに手伝う理由は十分にある。
しかし友好目的で、それが学園都市にとって不利益となるから撃退する、なんて理由なら手伝えない。
が、あの男は明らかに学園都市を壊していた。自分の身を投げ捨ててでも、上条の怪我をさせた。
だから、答えは。
「アンタ達の為に戦うんじゃない。俺は俺の理由でやらせてもらう」
「そう、交渉設立ね」