小説『ソードアート・オンライン〜Another story〜』
作者:じーく()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

34話 白銀と漆黒・4




























確かに、年一のBOSSと言っただけのことはある。

……その何度も変わった攻撃パターン。

リュウキは何度も“視て”そして修正した。

そして、ウィークポイントをすかさず見抜き、

キリトの正確さと何よりかなりの反応速度。

それは最早全プレイヤー中NO1だとも思える。

全てを見透かす【眼】を持つリュウキと、何よりも早い反応、【反射】を持つキリト。

それらを最大に活かし、

かなり……ダメージは受けたが、討伐には成功した。





そして……。




……まるでそうなる様に読んでいたように、

その≪アイテム≫はリュウキではなく、キリトにドロップしたようだ。

……拍子抜けするほどあっけなく現れた。






≪還魂の聖晶石≫。






と言う名だった。

「キリト……。」

リュウキは、キリトを見ると……。

キリトは頷いた。

そして……その宝石をワンクリック。

ポップアップメニューからヘルプを選択する。

そこには解説が書かれているからだ。




「テツオ……ササマル……ダッカー……。」




キリトは呟く。



これで助けられる事ができるなら……。

何年かけてでも、



……≪全員≫を助け出す。



初めてのギルド。

そのアットホームな暖かさをくれた、

直ぐに仲間と迎えてくれたみんなを……。




「ッ……!」




次の瞬間……

キリトの表情に絶望が写された。



















そのヘルプのところには……馴染んだフォントで簡素な解説が記されている。



「………とってつけた……後付……だろ。これ。」



リュウキも……思わず、そのアイテムを解説ごとぶった斬りたい衝動に苛まれた。

その書かれていた説明とは……、


≪このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して【蘇生:プレイヤー名】と発生する事で、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ10秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生することができます。≫


その、リュウキがいっていた後付……という言葉、

もう、わかるだろう……。



(およそ10秒間)と言う一文。



その10秒間がアバターが四散してからナーヴギアがマイクロウェーブを発して生身のプレイヤーの脳を破壊するまでの時間……と考えられる。


「かやば………あきひこっ……!」


オレが……誰かに憎しみを……殺意を……。

ここまで感じたのは初めてかもしれない。

人の命の尊厳を踏みにじるようなこの一文。


あたかも、助けられる、そう匂わせ この文章を見せた時の絶望……。


お前は……どこかで見ているというのか?

ほくそへんでいる……というのか?

なら……出て来い。

あの時に言っただろ……?

良いライバルになれるかもしれない。



【だが】あの時言ったよな。





―――……良い思い出になるかどうかは保障できないと。





この世界のどこか……。



絶対にお前はいるはずだ。


そう……恐らくはこの城の最上階。


その玉座に座して待っているんだろ……?




「………必ず行く。……待ってろ。」




ギリギリッ……と握る手に不自然に力が込もる。

体全体に……。

熱が篭る。

































そして……キリトの方を見る。


キリトは、足元が……覚束無いようだ。




「行こう……キリト。」


リュウキは……かろうじて怒りを収めると、

キリトの肩に触れた。

「………………ああ。」

キリトは、頷くと……

共にその場を離れた。





















そして……クラインたちのいる場所へと戻った。

森の中……そこには聖竜連合のメンバーはいなかった。

クラインたち風林火山のみだ。

そのリーダークラインのみがHPをオレ達に劣らずほどに減っている様に見えた。

かなり、疲弊もしているようだ。

どうやら……仲間を背負い、1対1のデュエルで決着をつけたんだと推察された。

クラインは、リュウキとキリトの帰還に……心底ほっとしたように一瞬顔を緩めていたが……

2人の表情を見たんだろう……。

直ぐに口元をこわばらせた。



「おまえら………。」



割れたような声で囁く。

キリトは、クラインの膝の上に聖晶石を放った。

「……それが蘇生アイテムだ。過去に死んだ奴には使えなかった。次にお前の目の前で死んだ奴に使ってやってくれ。」


まるで、1人で決めているかのような口ぶりだが……。


「………オレも依存は無い。ギルドを背負うお前にこそ、それは相応しいアイテムだ……。助けれえる奴を助けてくれ。」


リュウキも……同じ思いだったようだ。

そんな2人を見て……。

クラインはこらえ切れなかった。

希望が打ち砕かれた……。

そんな表情をしているのだ。




「ッ……お前ら……リュウキっ キリトよぉ……!絶対……絶対生きろよ……。最後まで……生きてくれェェ……ッ!」




泣きながら何度も生きろと繰り返すクライン。

膝から崩れ落ち……その場で蹲る。





リュウキは……今の……滾る心情で……クラインの事を考える余裕はなかった。



キリトも……同じだったようだ。



2人はクラインに返事をせず……そのまま、街へと戻っていった。






























そして……街へと帰ったキリトとリュウキの前に人影があった。

「……何処に行っていたの?」

小柄なその体。

その表情は険しく、キリトとリュウキを真っ直ぐ見つめていた。

「サチ……。」

キリトは思わず声が出る。

今の今まで、一言も発せず ただ無言だったキリトだが、サチを目の前にしガラリと表情を変えた。

「……行ってたんだ。あのイベントボスのとこ……。」

サチは確信したようにいっていた。

「それは……っ。」

キリトは何も言えないようだ。

「……キリト。それにリュウキ君も。2人とも、私に生きろっていってくれたよね?…だから私にも言わせて。」

2人の前に来て……

「お願い……。もう苦しまないで、……黒猫団が……その、皆が死んでしまったのは、キリトのせいじゃない。……私達にだって……責任はあるんだから。」

サチは、キリトの裾を握り締める。

「自分を、追い詰めないで。お願い……。」

その体は……震えていた。

あの時のように……。

「リュウキ君も教えてくれた……じゃん。生き抜くことが弔いになるって……。それは、キリトにも言える事だよね……?」

サチは、至近距離でキリトの目を見つめた。









「そう……だ。」

その時……後ろの木陰から誰かが出てきた。

「……あっ。」

キリトはその姿を見て、驚く。

それは……今は亡きギルドのリーダー……。

≪月夜の黒猫団≫リーダー ケイタだ。

キリトに呪われた言葉をはき捨てたと言う。

「メンバーが………死んだのは、お前のせいじゃない……」

搾り出すようなかすれた声でそう言う。

「すまなかった……。   あと……。あの時、言えなかったが……。」

ケイタは、涙を流すような表情になり……。



「サチを……助けてくれてありがとう……。」



そこから先、

キリトは何を感じていたのか……?

はっきりとはわからない……。

だが、救われた。

そんな気がした……。





「………。」

リュウキは、その場から立ち去ろうとする。

「リュウキ君。」

サチは呼び止めようとするが……。

「ありがとな……。」

そう呟く。

(キリトを助けてくれて。)

リュウキは自身に今だ渦巻いていた憎しみが……殺意が納まってゆく。

サチの心配する心や優しさに救われた。

心が軽くなった。







そして、リュウキは手を上げながら振り向かずそのまま離れていった。

キリトは、小刻みに体が震えてはいるが……。

きっと、オレと同じように軽くなった。

……心が……軽くなった。

……そう思いたい。
























-36-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える