36話 シリカとピナ
2024年2月23日 第35層・迷いの森
ある5人組のパーティがその森へ来ていた。
目的はアイテムの採取とレベリング。
だが……
険悪なムードが流れていた。
「何言ってんだか……。アンタはそのトカゲが回復してくれるんだから、回復結晶は分配しなくて良いでしょ?」
いや……一方的につっかかっている様に見える。
赤髪の女性プレイヤー。
その真っ赤な髪を派手にカールさせている。
片目が髪で隠れて見えない。
名前はロザリアと言う名のプレイヤー。
そして、その挑発相手は、幼い愛くるしい容姿。
この世界では、珍しい女性プレイヤーの中でも更に珍しい年齢の少女。
セミロングの髪をツインテールにしている少女。
その可愛らしい顔は今怒っている。
その表情も可愛いのだが…… 苦笑
そして、その頭の上には≪フェザーヒドラ≫と呼ばれている小さなドラゴンが頭に乗っている。
彼女はこの世界には珍しい≪ビーストテイマー≫なのだ。
「そう言うあなたこそ!ろくに前衛に出ないのに回復結晶が必要なんですか!?」
不快な物言いに頭にきてそう返す。
“きゅる〜〜!!”
そして、その頭の上のドラゴンも主人と同じように威嚇!
「勿論よ〜。お子ちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに、男達が回復してくれるわけじゃないもの〜?」
本当に鼻につく!
「むっ!」
“きゅっ!”
そんな2人のやり取りを見ていられなかったのか、周りの他の【男】プレイヤーは。
「おおぃ……2人とも……。」
必死に宥めようとするが……。
「わかりました!!アイテムなんていりません!」
シリカはアイテムメニューを消すと、
「あなたとは絶対もう組まない!私を欲しいって言うパーティは他にも山ほどあるんですからねっ!」
そう叫びつけると、
1人……森の方へと歩いていった。
「ちょっ……シリカちゃ〜〜ん……。」
男達の情けない声が響き渡る……。
やっとの事で、同じパーティになれたのに……と。
そんな言葉には耳を貸さず、シリカはそのまま、森を突破しようと奥へと入っていった。
シリカは、たとえソロであったとしても、この森を突破、35層のモンスターくらい撃破する事など造作も無いと考えていた。
フェザーヒドラ≪ピナ≫の存在。ビーストテイマーならではの、そのアシストもあり.
そして短剣スキルも7割近くマスターしている。
労せず……主街区まで到達できる―――はずだったんだ。
そう……道にさえ迷わなければ。
≪迷いの森≫
その森林ダンジョンの名前はダテではなかったのだ。
巨大な樹々がうっそうと立ち並ぶ森は碁盤状に数百のエリアへと分割され、ひとつのエリアに踏み込んでから1分経つと東西南北の隣接エリアへの凍結がランダムに入れ替わってしまうと言う設定になっていた。
だから、この森を抜けるには1分以内に各エリアを走破していくか、街で買える高価な地図を確認し、四方の連結を確認しながら歩くしかないのだ。
地図は高価ゆえに、もっているのはリーダーの盾剣士だけだった。
そして、何よりこの森で厄介なところが転移結晶の使用についてだ。
この≪迷いの森≫での使用は、街に飛ぶことはできない。
ランダムで森の何処かに飛ばされる仕様になっているのだ。
だから、シリカはやむなく奪取で突破を試みなければならなくなったのだ。
だが、曲がりくねった森の小道を、巨木の根っこをを かわしながら走り抜けるのは予想以上に困難だった。
まっすぐに北へと走っているつもりが……エリアの端に達する直前で1分たってしまい、何処とも知れぬエリアへ転送される事を繰り返してしまったのだ。
だから、徐々に彼女は疲労困憊してき……さらに日もしずみ……。
夜の闇がこの森を支配してしまった。
シリカは……走る事を諦め、運よくエリアの端に転送される事を願いながら歩き始めた。
……当然、モンスターとの遭遇率も格段にあがる。
夜と言う状態も更に不運だった。
視界が悪く……敵の不意打ちも受けやすくなる。
ピナのお陰で、始めこそは大丈夫だったのだが……、時間がたつにつれてポーション、回復結晶が徐々に底をついてきたのだ。
……シリカに更に不運が襲う。
「ッ……。ドラゴンエイプっ!」
この層で最強である猿人のモンスターが現れたのだ。
それも……3体も同時にだ。
いつものシリカならば、問題ないが……。
回復アイテムが尽きている今は
“ガァァァァッ!!”
「きゃあっ!!」
ドラゴンエイプの一撃がシリカを襲う!
その一撃はHPゲージを半分にまで削る。
“きゅーーーっ!!”
ピナは回復ブレスで、シリカを癒す。
だが、それは一割ほどの回復でそうはもたないのだ。
だから……回復アイテムが必要なのだが……。
「ッ!!(回復アイテムが!)」
シリカはこの時、アイテムが尽きている事に気が付いた。
そして……。
3匹のドラゴンエイプが……目の前に。
その巨大な棍棒が迫ってきた……。
死が……迫ってきたのだ。
「っ………」
動く事ができない……。
圧倒的な恐怖……。
これまで、死を感じたことが無いから……。
動けなかった……。
その棍棒が振り下ろされるその寸前。
目の前に影が間に……。
……自分を守ってくれたのは。
最愛の……。