小説『ソードアート・オンライン〜Another story〜』
作者:じーく()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

37話 蘇生への道




























「………これは、どう言う事だ?」



リュウキは、キリトに聞いていた。


リュウキとキリトはある情報を手にした。

だから、この森に入り……そして、この迷いの森はその設定+広大な為、二手に分かれていたのだ。

1分たって、別のエリアに入った時。

キリトに合流した。

そこには、キリトだけではなかった。

涙を流している少女がいたのだ。

「あ……リュウキ。その……。」

キリトの表情も暗い……。

「まさか……」

リュウキは歩み寄ると、少女の方を見る。

「仲間が……やられてしまったのか……?」

こういうとき、どう言う言葉を言えば良いのかわからない。

だが……声はかけなければいけないと感じる。

……気持ちをしっかりともたなければ……自分自身も危険なのだから。



「うっ……ゴメン……ゴメンね……“ピナ”……」



その少女は、答えることは無く……。

ずっと涙を流していた。



―――……ピナ?



「……彼女はビーストテイマーみたいなんだ。その……彼女の友達を助ける事ができなかった。」

キリトは悲しそうにそう話した。

「いえ……私が、馬鹿だったんです……1人でこの森を抜けれるって思い上がってたから……私のせいで……私を庇って……ピナが……。」

「ビーストテイマー……。」

リュウキはシリカの方をじっと見つめた。

この世界では珍しいものだ。

それはスキルやクラスではなく、通称なのだ。

極稀に通常は好戦的なモンスターがプレイヤーに友好的な興味を示してくれると言うイベントが発生する。

その機を逃さず餌などを与え、飼い慣らし……≪テイミング≫に成功すると使い魔として様々な手助けをしてくれる貴重な存在となるのだ。

(だが……モンスター、使い魔のシステムAIプログラムはそんなに高度じゃない、単純な動作、そして約10種類の命令を解するにすぎない。その中に、身を挺して守る。何て項目はない筈だが……。)

リュウキはそう考えていた……。

アルゴリズムから明らかに外れた行動をとる……。

意図的に手を加えたはずはなさそうだ。

なら、どうやって……?












「落ち着いて、その羽根だけど アイテム名が何か設定されているか?」

キリトが取り乱し……涙で顔を覆われているシリカにそう聞く。

シリカは……キリトに言われるまま、確認する。

思えばおかしいのだ……1枚だけ羽根が残っているなんて……。

これまでで プレイヤーにしろモンスターにしろ、死ねば全てが四散する。

装備も何もかも残らず消え去るのだが……。

シリカは……恐る恐るウィンドウに手を伸ばした。

そして、表示されている羽根をタッチすると……

重量とアイテム名が浮かび上がった。


「ッ……。」


その羽根の名は……。



≪ピナの心≫



「ピナっ……ピナぁぁッ………。」

シリカに再び……悲しみと後悔が押し寄せてくる……。

「あっ 待った待った!落ち着いて、ピナの心が残っているのならまだ蘇生の余地があるから。」

泣き出す寸前のシリカに慌ててキリトがそう答える。

「え!?」

その言葉を聞き、シリカは慌てて顔を上げた、半ば口を開けたままぽかんと男の顔を見つめる。

「最近わかったことだから、まだあんまり知られてないんだ。47層の南に、≪思い出の丘≫って言うフィールドダンジョンがある。名前の割りに難易度が高いんだけどな……。そこのてっぺんで咲く花が、使い魔蘇生のアイテムらしい。」

「ほっ ほんとうですか!?」

シリカは腰を浮かせて、叫んでいた。

悲しみにふさがれた胸の奥から希望の光が差し込むのが自分自身にもよくわかる。

だが……。

「……47層……。」

再び……肩を落とした。

今いるこの35層より12も上の層なのだ。

……安全圏とは到底言えるものではない。

悄然と視線を地面に落としかけたその時だ、




“ガアアアアアアッ!!!”




背後より、モンスターの雄叫びが響き渡った!

「ッ!!」

シリカは、再び身を固くした。

この叫び……

忘れるはずも無い。

私の……大切な存在、お友達を奪った……。

ドラゴンエイプのものだったから。

今度は直ぐに動く事ができた。

まだやらねばならない事があるからだ。

幾ら12も上の層とはいっても、諦めないから!








そんなシリカの動きをキリトが制した。

「大丈夫。落ち着いて、」

耳元でそうささやく……

普段なら、男の人のそんな事されたら……それこそパニックになるのだが……。

背後を見てみると、もう1人の男性が、ドラゴンエイプの群を造作も無く、なぎ払っているのが見えた。


「……ふぅ。話が済めばとりあえずは町へと戻った方がいいな。」

剣を鞘にしまうと、再び戻ってきた。

「あっ……あなたたちはっ………。」

シリカは驚きを今回は隠せない。

先ほども助けてもらった。

だけど……気をしっかりもてなかったから、はっきりと覚えていないのだが……

今回ははっきり見えた。

この層でも最強クラスのモンスターをいともたやすく、葬っていたその実力を……。


「な……何度もありがとうございます。」

シリカは再び頭を下げた。



「構わない。」



リュウキはそう言うと、再びあたりを視渡していた。

どうやら……この人が見ていてくれているから、安心してと言ったんだとシリカは理解した。

「話を戻すけれど……。」

キリトがシリカにそう言う。

シリカの考えは正しい。

リュウキがあたりを視ているから、キリトは安心してシリカと話が出来るのだ。

本来ならダンジョンのど真ん中で、悠長に会話などするようなものではないのだ。

特に今は、目の前にシリカがいるからだ。


「実費をもらえれば、オレが行ってきても良いんだけどなぁ……。使い魔の主人が行かないと肝心の花が咲かないんだ。」

シリカはその優しい言葉にちょっとだけ微笑むと、



「いえ……情報だけでもありがたいです。ほんとにとても。がんばってレベルを上げればいつかは……。」

「それは駄目なんだ。」



リュウキが、そばにまで来ていた。

どうやら、もう気配は無いようだ。

「蘇生が可能なのは死亡から3日以内。それ以降は≪心≫が浄化……変化し≪形見≫に変わる。」

「っ……そ……そんなっ……。」

シリカは思わず叫んでしまう。

彼女のレベルは44.

仮にこのSAOが通常のRPGだった場合……

各層の適正レベルはその数字と同じだとわかりやすいのだが……。

初日、リュウキがクラインに言っていた言葉。

層の数字+10の数字。

それは確信はない事だったが、強ち間違いでもないのだ。

これまでの経験からも判明したのだ。

その情報はアルゴから各プレイヤーに渡った。





だから、シリカも知っていたのだ。

つまり、47層に行こうと思ったら、最低でもレベル55に達さなくてはならない。

それも……攻略をも含めてたった3日……。

どう考えても不可能だ。

1年かけて……頑張って今の数字にした。

それも……ピナという大切な友達がいたから……これた。

シリカは再び絶望に囚われて項垂れた。

「ピナ……ッごめんね……。」

シリカは……ピナの羽根をそっと胸に抱き……そう呟いた。

自分の愚かさ……無力さ……全てが悔しくて自然と涙が流れてくる。

その時だ。

「大丈夫。まだ、≪3日も≫ある。」

目の前の男の人が……そう告げると。

不意に目の前に半透明に光るシステム窓が表示された。

トレードウインドウだ。見上げると、男が操作をしていたのだ。

トレード覧に次々とアイテム名が表示されて行く……。



≪シルバースレッド・アーマー≫≪イーボン・ダガー≫………。



どれひとつとして見たことのある物が無いものばかり。


「47層なら……これも使えるな。」

そこに別の男も入ってきた。

そして、トレード欄に新たに追加された。




それは≪エメラルド・リング≫。




見たことは無いが……名前だけは……聞いたことがあるような気がする。

だけど……今は。

「あの……」

戸惑いを隠せない。

だけど、片方の銀色の髪の男の人は、別の方を向いていて……

黒い髪の男の人がぶっきらぼうな口調で答えていた。

「この装備で4、5は底上げできる。それにさっきリュウキがくれた装飾装備。それがあれば君が47層で死ぬ事は無いといってもいい。オレ達も一緒に行けば何とかなるだろう。」

「え……っ?」

シリカは、口を小さく開きかけたまま、男の真意を測りかねていた。

片方のリュウキと呼ばれた人はあたりを警戒しているのか、別の方を見ているから、前の黒い髪の男の人をみる。

視線がフォーカスされた事をシステムが検地し、男の顔の右上にグリーンのカーソルが浮かび上がるが、そこにはHPバーが1本そっけなく表示されているだけで名前もレベルもわからない。

年齢も察しにくい人たちだった。

黒ずくめの全身から発散する圧力と落ち着いた物腰は金成年上の様に思えるのだが

眺めの前髪に隠れた眼はナイーブそうで、どこか女性的な線の細さがある少年めいた印象を受ける。

「……そりゃそうか。」

リュウキは、徐にシリカの方を視た。

始めこそは、シリカが思ったとおり周囲を少なからず警戒していた。

だが、会話が止まった事で再び彼女とキリトを見ていたのだ。

「思い切り、警戒しているな。当然だ。」

「あ……。そうだよな……。」

「あっ……いえっそんなっ……。……ッ!」

シリカは見透かされた事を驚いていたが……

それより、驚いたのがリュウキと呼ばれている人の顔

威圧感は同じようなのに……

圧倒的な力を感じるものこの人と同じなのに……。

その素顔は自分とそう変わらないんじゃないか?と思えるほどの顔立ちでとても綺麗なのだ。

いや歳は……僅かに上かな?とも思える。

そんな人が悪い人なんて想いたくない……。

でも、シリカは聞かずにはいられなかった。

「ごめんなさい……あなたの言うとおりです。聞かせてください。どうして……そこまでしてくれるんですか……?」

意を決し、シリカは聞いた。

その顔立ちから同年代のプレイヤーであることに少しは安心感を覚えたがそれでも……

彼女は今まで自分より遥かに年上の男性プレイヤーに言い寄られた事が何度かあったし、一度は求婚までされた。

13歳のシリカにとって、それは恐怖体験でしかなかった。現実世界では同級生にすら告白された事が無かったのだ。

そもそも……これは現実でも同じ、≪甘い話にはウラがある≫のが常識。

それは、この剣の世界。≪アインクラッド≫では尚更だった。

「………ん〜〜リュウキは?」

キリトは困った様に頭を掻いていた。

「……キリトが言えば言う。」

「うわっ…・・・ずっる………。」

再びキリトはため息をした。

そんな姿を見てシリカは少し笑みがこぼれていた。

「マンガじゃあるまいしなぁ……笑わないって言うのなら言う。」

だけど、そのキリトと言われた人の言葉を聞いて再び表情を引き締め、

「笑いません。」

そうはっきりと答えた。

キリトは……。

「君が……その、妹に似ているから……。」

……シリカはあまりにもベタベタなその答えに思わず噴出してしまった。

慌てて片手で口を押さえるがこみ上げてくる笑いをこらえる事ができない。

「わっ 笑わないって言ったのに……。」

キリトは傷ついた表情で肩を落とす……。

「……?それは、笑うところなのか?」

リュウキは逆に不思議そうだった。

その2人のやり取りにも再び笑いを呼ぶ。

「む〜……そうだッ!リュウキはどうなんだよ!」

リュウキの方をキリトが向くと、リュウキは少し懐かしむような表情をして……。

「……大切な人に言われた。紳士なら≪女性は守るものだ≫とな。さじ加減は変わると思うが、この子は問題ないだろ?」

そう答えた。

シリカは、その表情ははっきりしているのがわかって、凄く恥かしくなってくる。

キリトは、リュウキがそんな事露とも思っていないは、当然の様に言っているから始末に終えない。

こういう奴なんだ……と改めてシリカに耳打ちした。

そんな珍妙なやり取りで再び笑う。

そして、心底思った。





――……悪い人たちなんかじゃ決してないと。






シリカは、2人の善意を信じてみよう。

そう思った。

それに、自分は……一度は死を覚悟した。

ピナを生き返らせられるためなら惜しむものなんてもう何も無い。

ぺこりと頭を下げるとシリカは言った。

「よろしくお願いします。助けてもらったのに、その上こんな事まで……。」

トレードウインドウを目にやり、自分のトレード欄に所持しているコルの全額を入力する。

「あの……こんなんじゃ、全然足らないと思うんですけど……。」

「いや、お金は良いよ。余っていたものだし、オレ達がここに来た目的と被らなくも無いから。」

「……右に同じだ。」

2人はそう返す。

シリカにとってそれは謎めいた事だったが、それを知らない2人は何も受け取らずにOKボタンを押していた。

「あの……ほんとにすみません。何から何まで……わたし、シリカっていいます。」

2人は、軽く頷くと、




「オレはキリト。」
「……リュウキだ。」




キリトが代わりに手を差し出した。


「暫くの間よろしくな。」


シリカとキリトが握手を交わす。

だが、リュウキはしなかった……。

シャイだと聞いたが。

「リュウキさんも、よろしくお願いします!」

シリカは、ここで、そんな男の子に会ったのは初めてだったから……。

少し、嬉しそうな表情をして握手を求めた。

「ッ……ああ。こちらこそ。」

リュウキは少し気圧されそうになっていたが……

最後にはシリカと握手を交わしていた。

















-39-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ソードアート・オンライン ランべントライト (アスナ) イヤホンジャック
新品 \3590
中古 \
(参考価格:\1890)