小説『ソードアート・オンライン〜Another story〜』
作者:じーく()

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7話 難易度変更してます





























広場の上空を吹き過ぎる風鳴り、NPCの楽団が演奏する市街地のBGMが遠くから近づいて来る。

そう……はじまったときと同じ状態に戻ったのだ。

だが……あの時とは違う。

幾つかのルールを……大幅に変えて……。


“パキャァァァァンッ”


そして、何かが落ち、

砕け散る音が聞こえた。茅場からのプレゼント…手鏡を落とした音だ。

それは、もう耐久値が残ってなかったのだろうか……?

その場にある手鏡全てが連立しているように割れた。そして、それがスイッチだったのか……?

何かのような声がかすかに聞こえた。



「ぃ…いやぁ!」



その言葉で、ようやく、1万のプレイヤーが然しかるべき反応を見せる。

ただの一般人ならば……誰しもが感じるものだ。

それは強大な圧力となり周囲に響き渡る。

そう……すなわち…圧倒的音量で放たれた多重の音声が広大な広場を震わせたのだ。





「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!嘘なんだろ!!」

「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」

「こんなの困る!この後大事な約束があるのよ!」

「嫌ああ!帰して!うちに帰してよおおお!」





それは、悲鳴、怒号、絶叫、罵声……そして何より帰りたいと言う懇願。

その場にいた人間の慟哭が響き渡る。無理もない。たった数10分でゲームプレイヤーから……。

生きるか死ぬか……?

日本は平和な国だ。

それがまるで映画の世界へと

現実味の無い世界へ……強制的につれてこられたんだ。

………無理は無かった。




「……………。」

リュウキは辺りを見渡した。

不穏な気配が感じるのだ。

そして、それは街の外から感じていた……。

(……違う。明らかにさっきまでと別物だ。)

それはこの世界の異変を感じていた。

以前にも彼について少し説明をしたが、



【所詮はデジタル】



常日頃……とは行かなくとも、

彼は事あるごとに使う言葉だ。

そこまで言える彼の力。

デジタル・データであれば、彼は見通せることが出来る。

それは、システム外の力。

それがエネミー・データであれば行動パターンの即時解析、敵の弱点判明であったり。

特に……本当に本気で集中した時の彼の目には まるで世界の全てが数字で出来ているかのように……。

上から淀みなく流れていくように見えているのだ。

それは空だったり、建物……果てはNPCとプレイヤーの区別もアイコンを確認するまでもない。

エネミー・データならば……より明確に相手の弱点を見つけることが出来る。

そして、破壊対象の物体を破壊する効率も上げられる。

集中するがゆえに、神経を使う為、乱用は出来そうには無いが、短時間ならばわけはない。

だからこそ……。

その流れに異常が来たしていること。

それが直ぐに分った。



(この感じは……恐らく……。)



結論は直ぐに出た。

そして……その時。












「おい!こい!クライン!リュウキ!!」

キリトが2人の手をとり走り出す!

場の混乱は極限状態だった。

今動き出すものはいない。

ただただ、その場で叫ぶだけ。

それは咆哮のように……。

それ程のものだった……。





裏路地……。




「クラインは特によく聞いてほしい。オレの提案だ。俺はすぐに次の村へ行く。お前達も来い。」

「えっ?」

クラインはキリトの言う事が理解できなかった。

「………。」

リュウキはただ、腕を組んで考えていた。

「アイツの言う事が本当なら、この世界で生き残るのにはひたすら自分自身を強化しなくちゃならない。VRMMOが共通する理想。つまり……オレ達が得られる金や経験値は限られている。」

「……オンラインゲームならではのものだ。簡単に強化できないように、……簡単に終わらないように。尚且つ公平である為に……な。運営側からすれば、少しでも長く大勢にプレイしてもらいたいんだ。……当然の措置だ……。」


リュウキも目を瞑ったままそう答えた。

「……そして、この異常時。今は混乱しているから誰も動かないが、キリトと同じ考えに至り、すぐさま行動開始するだろう。その勢いで狩りを行えば、POP率も異常に下がる。……レベルを上げる効率は悪くなるだろう。」

続けて……そう言う。

「なら……つまりどういうこった?」

クラインは聞き返した。

「つまりはこうだ。はじまりの街周辺のモンスターは……経験値・金は全て狩り尽くされるだろうと言う事。だからこそ、今のうちに拠点を次の村にした方がいいんだ。オレは、道も危険なポイントも全部知っているから、レベル1でも安全にいける。」

………。

リュウキはまだ、目を瞑っていた。

「で……でもよ。オレは、前のゲームでつるんでいた奴らと徹夜で並んでこのゲームを買ったんだ。あいつら……広場にいるはずなんだ。……置いてはいけねえ。」

……友達を見捨てれない……か。

非常時には人間性がむき出しになるものなのだが……。

こんな状況じゃなかったら……こいつ等とプレイして…………。

楽しかったかもしれないな。


「ッ……。」

キリトは……悩んでいた。

3人でも本来は多すぎる。

だが、1人は超一流であり 腕は自分を遥かに凌駕している。

そして、情報も同等以上に持っている。

だから、3人でもとりあえず問題ない。

だが……。


「悪りぃ……お前らにこれ以上世話になるわけにはいかねぇな。オレの事は気にせずに、次の村へいってくれ。」

クラインはキリトの表情から全て悟った。

自分たちで超えるのはきびしいんだと。

「……忠告する。クライン。」

リュウキは目を開いてクラインを見る。

「ん?何だ……。リュウキ。」

「RPGの有効な攻略は、何をおいても時間とレベリング。この世界においてのスキルの熟練度。そして、その場に見合った装備だ。腕に自信がなくとも体力さえ減らなきゃいいんだ。……じっくりといけ。しっかりと足元を見ろ。……ここ、アインクラッドのフィールド及び迷宮区の安全マージンは層の数字+10のレベルはいる。……分らない以上は慎重を志せよ。」

リュウキは真剣な表情でそういった。

普段のリュウキからは想像がつきにくいが……。

ここまで言ってくれる以上は……心配してくれている。

と言う事だろう。

「へっ……へへへっ!大丈夫だっ!オレはこう見えて前のゲームじゃギルドの頭張ってたんだ!その点はしっかりしてみせらぁ!それにお前らに教わったテクだって今日だけで大量にある。何とかしてみせらぁ!」

「ギルドの頭……か。愚問だったな。」

仲間の命を背負っている以上は、そのくらいは分けなくするのだろう。

「そうでもねぇさ。ありがとうよ。2人とも。……オレぁもう行く。あいつ等が待っているからな。」

クラインは、名残惜しそうだが……背を向ける。

「ああ……何かあったら、メッセージをくれよ?」

キリトはまだ、表情が暗かった。

見捨てなければならないと……感じているからだろう。

「ああ、わかった。……キリトよ。おめーほんとは案外可愛い顔してんな?まぁっオレはリュウキの方が好みだけどな。」

そう言って相互の顔を見比べた。

「……ホモか。やはり。」

「ちげーーよ!俺なりのあれだよ!気遣いってヤツだ!わかれって!」

少しだが……キリトにも笑みが見え始めた。

「はは……。お前もその野武士面の方が10倍似合ってるよ!」

「言ったな?このやろうがっ!」

「……まあ、キリトの言い方だったら、間違えられないだろうな。」

「っておい!リュウキ!だから言ってるだろう!オレはノーマルだ!!」

その時……3人は笑っていた。

あんな事があって、笑えると言うのは幸運な事なのだと。

後に知ることになる……。



そうして……。


その場からクラインが姿を消した。

「……リュウキはどうする?」

キリトが聞く。

だが、もう結論はわかっていた気がした。

なぜなら、β出身者なら経験者ならば この状況で今の方法が最適だと判断するはずだ。

だが、リュウキは違う。

普通のプレイヤーには程遠いものをもっている。

この状況でこれ以上無いほどの技量なのだ。

だが……。

「オレは、とりあえずは別行動だ。……確認したい事があるからな。」

そう答えていた。

「そうか……。わかった。リュウキも何かあればメッセーをくれ……。」

「ああ…。」

リュウキはそう返した。

「そんな顔するな。それにオレに勝つんだろ?なら、オレと行動を共にして、勝てると思うのか?」

にやりと笑う。

今の状況での言葉じゃないが……。

初めて、他人に気が利くような言葉を言えた。

「そうだったな。オレはお前に勝つ。βん時にも思っていた事だ。」

「望むところだ。……でも、本来は競うジャンルじゃないんだがな。」

そう言って苦笑いをしていた。

「オレ、お前が笑うのはじめて見た気がするよ。」

「………ッ。」

リュウキは顔を背けた。

どうやら、相当なシャイなのだあろうと……。

キリトはこの時そう思った。






「キリト。1つ言っておく事がある。」

リュウキは顔をそむけたまま続けた。

「……このゲーム。βの時と同じものだと思うな。」

「……どう言う事だ。」

キリトは言っていることが分らなかった。

「内容は殆ど同じだろう。β期間から正式サービスまで、その間の時間を考えても大幅に改良するのは仕事量も勿論、時間もたりない。だが……数字を変えるだけで容易に変えられるものはあるんだ。」

キリトはそこまで言えばわかったようだ。

「ゲーム難易度の……上方修正……か?」

「……そう言うことだ。お前がオレを信じれるなら……次の街へ行ってそこを拠点にする時も気をつけろ。一瞬のミスが命取りになる……。死ぬなよ。」

「……お前が言うと、心底震えるよ。……わかった。」

そして、互いに見合って。

「また会おう。キリト。」

「ああ……死ぬなよ。リュウキ。」

「誰に言っているつもりだ?問題ない。」

そう言っていた。


それは時間にして数分。

クラインと一緒にいた時を含めても。

本当は名残惜しかった。

リュウキも……キリトも。

リュウキは心では本当にそう思っていたようだ。

そして、2人は別れた。































「………やはり違う。」

リュウキは東フィールドで感じたモンスター。

オレは何百何千と戦ってきた。

だからこそ、余計に分る。


パターンが違うし、何よりも……HPや攻撃力・敏捷性。

全てにおいて違う。

最悪な修正だ。

パニックになっている今は特に……。


「まずい………な。」

大多数は感じないだろうこの感じ。

まして、他のMMO出身者なら……。

デスゲームとわかっても、暫くでもすれば第1層、即ち初めのエリアは甘く見ることは、間違いない。

「………今日だけでも何人死ぬかわからない。」

このゲームを攻略しようと動き出す者達。

動かないでいてくれた方が……この際良いのかもしれない。

「………オレができる事なんてたかが知れてるが。」

誰とも関わりあわずに、過ごしてきた。

ネット上では勿論。

現実世界でだって。

ただ……1人を除いてだ。

「ははっ……ちょっとでも、現実世界に戻りたいよって、思ったの初めてかもしれないよ。爺や。」

空を見上げる。

親の事を思い出して。

「でも……多分厳しそうだよ。爺や。今回は……。βテストの時以上の期間は会えない……。」

リュウキは……寂しそうな顔をしてた……。

そして……。



「心配かけちゃうよね……。爺や、ごめんなさい……。」



……そう言っていた。






“パリィィィィンッ!”







その表情のまま……ボアを攻撃し、撃退していった。










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