人には誰しも野望がある。
お金もちになりたい。
夢を叶えたい。
人それぞれだ。
俺にだって、野望はある。
いや夢、と言ってもいいかな。
俺の夢とは――
世界征服!
「ぬわっはっはっはっはっ!!」
そして俺こそ、世界で初めて世界征服を成し遂げた唯一の存在!
魔王――天月 怜(アマツキ リョウ)様だ!
尋常ではない高さの階段の最上に天蓋つきの巨大ソファを置き、そこでハーレムと共にゆったりと世界を見つめる俺。
「あぁー最高だ! 世界を自分の手中に収めるってのは気分が良いぜ!!」
最高な世界!
最高なハーレム!
最高の気分!
俺は、立ち上がりながら自らのものである世界を見下す。その世界に住む人間たちも。
「世界も! 人間も! 全部全部全部!! 魔王である俺のも――のぉ!?」
と、そこまで言いかけた俺の足が何かに躓き、前のめりに一歩、二歩。そして、倒れそうになる。
が、目の前には階段。
「な、な、な!?」
俺は、物理法則に抗えず、長い長い階段から容赦なく転げ落ちた。
「そ、そんな馬鹿なあああああ――」
*
「――あ?」
気がつくと、俺は学生寮の部屋のベットから転がり落ちていた。セットしておいた携帯のアラームが鳴り、朝らしい爽やかな日差しがカーテンの隙間から差し込む。
ぼう、っとする視界を巡らせて、俺は、自分の部屋に天蓋つきのソファもハーレム達もいないことを悟る。
いやそもそもそんなものは最初からいない。
「我ながら……アホだな」
体を起こしてアラームを止め、俺はそう呟いた。
夢……そう夢だ。なんであんな夢を見たのだろう、と俺は自分の煩悩にとりあえずは呆れてみる。
それと同時に、俺の視界の隅に入る、先祖代々から受け継がれてきた黒光りするネックレスを見て、まんざらでもないことを思ってみる。
「世界征服、か……」
カーテンを開け、その宝石を太陽に透かしながら俺は思う。
今日見た夢は、確かに夢……だった。
「ふぁ――アホくせぇ」