昔、病気のために寝込んでしまったじいちゃんから聞いたことがある。
「お前も、わしと同じご先祖様の子孫なら……野望の1つぐらい持つのが、お前の役目じゃ」
俺が小さい頃の話だったから、よく覚えてはいないんだけど……ていうか今思い返してみても意味がわからん。確か、これには続きがあって……
「わしにも野望があった……バインバインのねーちゃん達とあんなことやこんなことやそんなことやどんなことや――ウェゲッホゲホッ!?」
「じいちゃん!?」
小さい頃だったからよくわかんなくて、咳込んだじいちゃんを心配したけど、今思い返してみればあの時、じいちゃんの禿げ頭を叩いてやればよかった。
まぁ、しばらくしてじいちゃんは亡くなって、その言葉の真意を確かめられないままになってしまったけど、今日見た夢は、なんとなくそのじいちゃんの言葉を思い出させる夢だった。
「野望、か……」
俺は、寝ぼけた頭を起こすために洗面台で顔を洗い、水が滴るその顔のまま鏡を見つめていた。
『世界も! 人間も! 全部全部全部!! 魔王である俺のも――のぉ!?』
別に、もう少し夢の続きを見たかったわけでも、この夢に対してツッコミを入れたいわけでもない。
どうしてあんな夢を見たのかが、ただ気になっていただけだ。
「……バカバカしい」
なんであんなアホな夢にここまで考え込まなきゃいけないんだ。時間の無駄――と俺が顔をタオルで拭きながらリビングに入り、時計を確認すると……
「うわ……」
本当に時間の無駄だった。
気がつけば、本来であれば家を出る時間をとうに過ぎていた。だけど、焦ったり、戸惑ったりしないのが俺の性分。首から下げたネックレスを手で弄りながら俺は鞄を取って学生寮の自室を出た。
よくもっと感情を表に出した方がいい、と人に言われるが。俺はそんなこと気にしない。元からこういう感じだった、はずだから。
「ふぁ……だりぃ」
俺は悠々と遅刻を堪能するんだ。