遊園地の便所の裏の、陰になっている暗い所にクマは居た。便所の苔の生えたじめじめした壁に寄りかかって、文庫本を読んでいた。
僕と目があうとクマは慌てて文庫本を閉じ、おなかの辺りのポケットにしまった。そしてどうすることもできずにただその場に立ちつくして、僕の顔をじっと見つめていた。
正確に言うとそれは、クマの縫いぐるみを着た人間だった。この遊園地で縫いぐるみを着て客を楽しませているアルバイトの人かなんかだろう。
僕はなんだか見てはいけないものを見てしまった様な気分になり、僕とクマの間にはなんとも気まずい風が漂った。
何かを言った方が良いのか僕は迷い、その間しばらく僕とクマは無言のまま見つめ合っていた。