小説『Eine Geschichte』
作者:pikuto()

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私があの人と一緒に暮らし始めたのはいつだろう。

実はあまり覚えていない。

曖昧ながらも覚えているのは、確か私は古びた孤児院にいて、そこにある日突然あの人がきて、突然私を引き取るといって連れだした事。
確かまだ私が小さい子どもの頃だったはず。
そもそも、なんで私は孤児院にいたのか。それすら忘れてしまった。
とにかく覚えているのは、ある日孤児院から突然連れだされ、それから今に至るまで私はあの人とこれからを生きる事になった事だ。

だがあの人との日々の生活は、決していい生活ではなかった。
でもそれなりに楽しかった。
なんでもあの人は、本当かどうか知らないが有名な作家だか魔術師だからしく、決して広いとは言えない薄暗い家の中、毎日ずっとぼろぼろの机に向かいながら、私にいろんな話をしてくれた。


遠い昔に滅んだ国の美しいお姫様の話。
魔女にいたずらして呪いをかけられた少年の話。
自分の不注意で恋人を死なせてしまった青年の悲しい話。


他にもたくさん話してくれた。よく覚えている。
他にも魔術とは何か、歴史や色んな博識なことも話してくれた。こっちはややこしくて小さい頃はあまり理解できなかった覚えがある。
あの人の話は本当にあったのか、自身の創作なのかまでは知らないが、作家と言うだけあって話に引き込まれるものはあった。
もしかしたら、まだ小さかった私の退屈を紛れさせようとしてくれていたのかもしれない。

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