小説『Eine Geschichte』
作者:pikuto()

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あれから、何日も時間が過ぎたように感じる。

行くあてなどなく、とにかく適当に歩いた。
夜通し歩き続けることもあった。

途中でいくつか町に行きあたり、そこであの人を探しまわった。もちろん人にも尋ねたが、あの人を知っている人も、町にもいる様子はない。
疲れもあり、私はしばらく宿屋で休ませてもらい、またどこかわからないところを目指して歩く。
私はここしばらくずっとそんな事を繰り返していた。
どこかにあの人がいるのではと信じて。


今も、夜通し歩き続けてようやく早朝に到着した町で、半日ずっとあの人を探している。
人にも尋ねまわり、町も歩きまわったが誰もあの人を知らず町にいる様子もなかった。

正直、私は人に尋ねるというのがいまいち得意ではないと言うか、苦手というか、何故かかなり疲れが溜まる。体力とともに精神も消耗していくのがよくわかる。
夜通し歩きつづけてようやく到着したということもあってか、かなり疲れるのだ。
私はため息をつき、近くにあったベンチへと腰掛けた。


それにしてもなんて広い町なんだろう。
ここに来るまでにいくつか町に行きあたったが、この町はそんな中でも一番広い。
歩きまわってはみたがおそらくまだ行けていないところがあるような気がする。


そんな事をぼんやり考えていると、突然誰かの叫び声が町に響いた。
私は驚きあわててその叫び声のする方へと目を向けた。



だが、町の人々の反応は変わったものだった。





「おいおいまたやってるよ」
「飽きないねぇ、あの男も」
「ほんといつもおっかない娘だな、あれは」






見慣れた光景、といった感じだった。
驚きあわてていたのは私だけだった。

よくよく聞いてみると、叫び声というより怒号のようだ。
しかも女の人の声だ。
一体何があったのか。
何をそんなに怒り狂っているのだろうか。



正直、煩わしい声だ。
放置していれば落ち着くだろうと思ったが落ち着く様子はない。
いい加減やめて欲しいのだが、ここまで怒っているのはただ事ではない。
私はため息まじりでベンチから重い腰を上げ、怒号の聞こえる方へ行ってみる事にした。



そこでは、一人の女の人が男に向かってなにやら叫んでいた。







「あんなすました顔でいつも本読んでるような子のどこがいいのよ!」

「い、いやそんな、ちょっと挨拶しようと思っただけで」

「声もかけずにじっと見つめてるのが挨拶なの?!」

「え、えと、その」

「もういい!知らない!!」








見なければよかった。



正直そう思った。


よく知らないのだが、これは世に言う痴話喧嘩とか言うものなのではないだろうか。
だが怒っているのは女の方で、男の方はその勢いに負けている。
いつだったかあの人が「くだらないとりとめのない理由で手に負えなくなるおかしな喧嘩」だと教えてくれたが、会話からして女の嫉妬からくるもののように見える。
余計性質が悪い。

ふと見ると、男の方がひどく落ち込んだ顔でとぼとぼどこかへ行ってしまうのが見えた。
女の方はと言うと、そっぽを向いてかなりご立腹の様子だ。
だがちらりと男の方を見ては心配そうに見たり、男が振り返るとぷいとそっぽを向く。
一体何がしたいんだこの女は。


これ以上こんなものを見ていたって何か面白いわけでもないので、私はその場を去ろうとした。



だが、去ろうとしたときにふと、目に止まるものがあった。



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