第0002話
『(10年前の)妖精の尻尾』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〜Side in…ヴァッシュ
ヴァッシュとギルダーツは手分けして負傷している武装集団を木に括り付け拘束し、山の麓の軍隊に引き渡そうと山を下ろうとした。だがギルダーツは武装集団を見張ると言い、その場に残ったのでヴァッシュ一人で行く事になった。そしてヴァッシュが皆の前から姿を消した為、スキル『情報抹消』が発動してしまい、全員の記憶からヴァッシュの事が綺麗さっぱり消えてしまった。
その事を知らないまま山を下って行ったヴァッシュは山の麓で警備している軍隊に、山の中で負傷している怪しい武装集団を拘束していると報告し、その場所まで案内した。案の定ギルダーツはヴァッシュの事を忘れており直ぐには思い出せなかったが、山を下っている時にギルダーツは思い出す事が出来た。
因みに軍隊に引き渡した彼等の正体は小鬼の騎士と呼ばれている闇ギルドの一つだった。
ギルダーツとヴァッシュが帰ろうとすると軍隊の人から、事情聴取をするから待っててくれと言われ、直ぐに帰る事が出来なかった。だがヴァッシュとギルダーツは面倒な事は嫌いな為、軍隊の事情聴取を待たずに妖精の尻尾のギルドへ歩いて向かっている。
ギルダーツ
「ところで、何でオマエはオレの名前を知ってたんだ? オレとは初対面の筈だろ?」
ヴァッシュ
「えっ!!? あ、いや、その〜……え〜っと……。」
ギルダーツの突然の質問に驚いたヴァッシュは、大量の汗をかきシドロモドロしながら適当な事を言いその場を凌いだ。
ヴァッシュ
「か、風の噂で聴いたんだよ。妖精の尻尾最強の男ギルダーツ……僕の育った場所では有名だよ?」
ギルダーツ
「ふ〜ん……風の噂でねぇ〜。」
ギルダーツがヴァッシュの嘘の事に浮かれて、頬が緩んでニヤニヤしていた。ギルダーツは暫くの間ヴァッシュに質問攻めをされてアタフタしてたが、カルディア大聖堂の横を通り過ぎた辺りで妖精の尻尾の紋章が書かれている旗が見えて来た。するとギルダーツは質問するのを止めて、ある事を話し始めた。
ギルダーツ
「そういえばヴァッシュ、妖精の尻尾に入るには、ある掟を絶対に守らなきゃいけねぇんだ。」
ヴァッシュ
「どんな掟なんだい?」
ギルダーツは、その質問を待っていましたと言わんばかりにニンマリと笑顔になり答えた。
ギルダーツ
「『仲間や家族、愛する人を大切にしろ。』だ。コレだけは死んでも守れよ。」
ヴァッシュ
「あぁ、必ず約束する。」
ギルダーツは適当な事を言ったのだが、ヴァッシュはその約束を必ず守る事を誓った。暫く歩いていると、二人は妖精の尻尾の玄関前の扉に着いた。
ヴァッシュ
「へぇ〜ココがギルダーツの入ってる妖精の尻尾なんだ……随分と大きな建物だね。」
ギルダーツ
「そうか? あんまり気にしてねぇから分からなかったけど……結構デカイ方なんだな。」
ヴァッシュは妖精の尻尾のギルドの事にたいして褒めたのだが、何故かギルダーツが照れ臭そうに頭を掻きながら呟いた。ギルダーツはヴァッシュにギルドの玄関で待っていて欲しいと言い、先に妖精の尻尾のギルドの中へ入って行った。
ヴァッシュは玄関で待ってるように言われたのだが、ヴァッシュはギルダーツの言った事を守ろうとはせず中へ勝手に入って行った。
ヴァッシュ
「こんにちは〜、ギルドに入りに来ましたんですけど〜……ギルダーツは居ますか?」
ギルダーツ
「ちょっ、オマエ……オレが言った事ちゃんと覚えてる?」
ヴァッシュがギルドに入って行くと正面のカウンター席で、ギルダーツはマカロフと話しながら酒を飲んでいた。ヴァッシュは数分も経たずに玄関から入って来たのだが、その数分でギルダーツとマカロフの二人の近くに空のグラスが大量に並べられていた。
最初からマカロフが大量に飲んでいてグラスを空にしていたのではなく、ギルダーツが横に座ってから量が増えたそうだ。その証拠にカウンター席の向かいには、グラスを片付けている人と持ってくる人が慌ただしくしていた。
マカロフ
「おぉ〜お前さんがギルダーツの言っとった……え〜っと……ザッシュだったかの? ようこそ妖精の尻尾へ。ワシはギルドのマスターを勤めておるマカロフじゃ。以後よろしくの〜。」
カウンター席のテーブルに座っているマカロフはだいぶ酔っているのか目が据わっており、上機嫌そうな顔でヴァッシュを出迎え手に持っていた飲み掛けの酒を差し出した。
ギルダーツ
「マスター、コイツの名前はダッシュだって言っただろ? 直ぐに忘れるとは……そろそろマスターを交代する年なんじゃねぇのかァ?」
マカロフ
「バカな事を言うんじゃない!! ワシはまだ元気じゃから交代なんかするもんか!!! あ、お酒のオカワリ宜しくね〜。」
ヴァッシュ
「ア、アハハハハハ……。」
ギルダーツとマカロフは酔いが回っているのが、少しの事で喧嘩をしたり盛り上がったりもするのだが、一人寂しく取り残されているヴァッシュは作り笑いと苦笑いをするしかなかった。
ヴァッシュ
「あの〜マカロフさんでしたっけ? 僕の名前はヴァッシュですので……てか、何であの一瞬でギルダーツは酔えるのさ。」
ギルダーツ
「あん? 何で酔えるって……この席に酒が置いてあったから、飲まないのは失礼だと思って飲んだんだよ。」
ヴァッシュ
「ワァオ、言ってる事は分かるけど、別の事の方が意味不明で僕の頭がパンク寸前だよギルダーツ……。」
ヴァッシュが額に指を立てて悩んでいる様子を見てギルダーツは突然、椅子から立ち上がった。立ち上がった衝撃でギルダーツは椅子から転げ落ちて酒を頭から浴びたのだが、そんな事はお構いなしにギルダーツはヴァッシュに向かって命令した。
ギルダーツ
「頭が痛いのは風邪が原因だ!!! 今直ぐ医務室へ行っで薬でも飲んでベットで寝れば治る!! と、言う訳で……医務室はあっちだ。進んで行けば始めての人でも分かる。」
酒が入ってるギルダーツが指で示す方向には、看板の様な物が壁に貼ってあり確かに『医務室』をイメージさせる様な絵が描かれていた。ギルダーツは何故か満足そうな顔をして倒れていた椅子を元に戻し、再びカウンター席へ座り目の前にある残りの酒を飲み始めた。
ヴァッシュ
「……え? ギルダーツが案内してくれるんじゃないの!!?」
ギルダーツ
「オレがする訳ないだろ? オレは今、酒を飲む事の方が忙しいんだからな……今はオマエよりも酒の方が大事だ。」
ヴァッシュ
「ウワァ……最悪な人だな。」
ヴァッシュがギルダーツの台詞に呆れて残念がっていると、誰かに足の裾を何回も引っ張られている事にヴァッシュは気が付いた。
ヴァッシュ
「ん? 何だ、何だ?」
気が付いたヴァッシュがそちらの方へ顔を向けると、カナが両手で裾を握って引っ張っていた。カナはヴァッシュと目が合うと、裾を握っていた手に更に力が入り頬を少し赤くして、シドロモドロしながら喋り出した。
カナ
「あ、あの……医務室まで……案内しましょうか……///(何でこの人の顔を見てると顔が熱くなるんだろう……///)」
ヴァッシュ
「本当!!? お嬢ちゃん、ありがとね〜♪」
カナ
「あぅぅぅ……///」
嬉しさのあまりヴァッシュがカナの頭を感謝のつもりで撫でたのだが、カナは異常に照れて頬だけ赤かく染まっていたが顔全体が赤くなり、次第に真っ赤なリンゴの様になった。その原因はヴァッシュの左目の下にある泣き黒子『愛の黒子』のスキルが発動した事だ。カナは勿論の事だが、妖精の尻尾にいるヴァッシュを見たギルドの異性の全ての人がヴァッシュに意識し始めた。
ヴァッシュとカナのやりとりを見ているギルドの人達は「年の離れた兄と妹が仲良くしてる。」と感じて、見ている人達はニヤニヤしていた。そんな妙な視線を感じたカナは我に戻り、ヴァッシュの手を引き医務室まで連れて行った。
カナ
「コ、ココが医務室です……お薬は棚から取って使って下さい。」
ヴァッシュ
「ありがと〜。え〜っと……僕の名前はヴァッシュ、ヨロシクね。」
カナ
「あ、私はカナ……よろしくお願いします……。」
ヴァッシュは棚に仕舞ってある薬瓶の中から適当に数粒を取り出し、口の中へ放り込み飲み込んだ。だがヴァッシュは何の気なしに飲み込んだ薬を、元の場所へ戻している最中にある事に気がついてしまい焦っていた。それは、妖精の尻尾の世界に元々ある『文字』が自分の知っている文字と違う為、何が書いてあるのか分からない事だ。
ヴァッシュ
「どうしょう……全く字が読めないのに飲んじゃった……。」
取り敢えずヴァッシュは怪しまれない様にと思い、飲んだ薬の効果は分からないままカナの方へ向に直し適当な話を始めた。
ヴァッシュ
「カナちゃんだっけ? ココまで案内してくれてありがとね。」
カナ
「あ、あの……その……いえ///(又だ……何だろう、この気持ち?)」
ヴァッシュ
「? 顔が赤いけど、カナちゃんも調子悪いの?」
ヴァッシュのスキルの所為でカナの顔が赤くなってしまっている事を、勿論の事だがヴァッシュは知らない。だから不意にカナのおデコに自分のおデコを押し当てる事は、爆薬に火を付ける様なをするのと同じだ。
カナ
「」
ヴァッシュ
「……あれ? 何で気絶しちゃったんだ……取り敢えずベットに運んどこう。」
気絶して倒れそうになったカナを咄嗟に抱き抱えたヴァッシュは、カナをベットに寝かせた。そしてカナをベットに寝かせてから暫くすると、ヴァッシュは眠気に襲われカナの上へ覆い被さる様に一緒に寝てしまった。突然、次の日には妖精の尻尾のギルドで噂になったのは言うまでもない。
〜Side out…ヴァッシュ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆