小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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エピローグ



 天気がすこぶる良い。

 波打ち際をキラキラと、白波がレースのカーテンのように煌めく。

「あっちぃなぁ……よく走り回ってられんなぁ……アイツら」

「鎌倉までわざわざ来たの、のぶじゃない。文句言わない!」

 ハリウッド映画の真似事のように、砂浜にパラソル立ててデッキチェアを並べて、トロピカルカクテルまで

は用意がないが、クーラーボックスに山と詰めた缶ビールを空けてゆく。

「明日は水族館行くんだろ?バテんじゃね?海乃」

「うーん……退院したばっかだもんねえ……でもヒロの誕生日だし、張り切れるでしょう!」

「もう5歳か……ヒロも。でかくなったよな」

 ヒロは5年前に私が産んだ、海乃の子だ。

 ちなみにのぶは公言通りに一発で決めてくれた。

 のぶと私の血を受け継いだお陰で、ヒロはムダに美少年に育ちつつある。ただ、主に海乃が育てているの

で、性格は、多少難アリな良い子に成長中。

 明日はヒロの5歳の誕生日で、オマケのように私たちの結婚記念日でもあるわけで、家族揃って鎌倉くんだ

りまでやって来た。

 浪漫ちすと板前・暢志パパさんの、想い出の海とか何とかお抜かし頂いての小旅行。

 そんなわけで、この晴れた9月の空の下、海乃とヒロは波間で遊ぶ海鳥のように、飽きもせず先ほどからず

っと、波を追いかけては追われる事を繰り返して笑い転げているのだ。のぶも私も、一緒にやってはいたんだ

けど……すぐに飽きてビールの追いかけっこへと身を投じたのだ。

「あれだけ元気なんだから……大丈夫だよね」

「当たり前だろ?今時、がんくらいじゃアイツは死なねえって。かめはアイツなんだし」

 海乃は三人で暮らし始めて、程なくして乳がんが見つかった。

 海乃自身は病気をモノともしないところがあるが、のぶと私がおたついた。大袈裟なほど泣いたりもした

が、母は強し。さっさとハザマ病院で治療を始めて、頃合いを見て先日、さっさと手術した。でも綾は少しだ

け渋い顔をする。それは、十年先の命の保証が出来ないという、先の話だっただけに、のぶと私は楽天的に構

えた。

「でも、のぶは調子に乗ってすぐヤりすぎるかならな……寿命縮めるっての!このサル!!」

「な……!!……アイツが言ってんのかよ?」

 コソコソと耳打ちしてくる。……全く、いくつになっても変わりゃしない!海乃にはからきし弱い。

「だって。妻ですもん。何でも話してくれるよん♪でもよかったね、許してもらって。気にしてたからな

ぁ……ソレまで私に委ねようとするから、私からものぶをゴリ押ししといたんだから感謝してよね」

「それを言うか!?そんなの全然問題なかったぞ!ちゃんと信頼の許でコトに及んでんだ!!それよりお前だ!俺

の居ない隙にお前の事だ、手籠めにしてんだろ!?」

「まあ!何て人聞きの悪い!妻を手籠めにして何が悪い!」

 ……って、のぶに内緒の初夜以来、チュウ以外はしてません。と言うか、また出来なくなりました……勿体

なくて、申し訳なくて……もうお腹いっぱいです。

「……と言いたいところですが、そっちは綾とよろしくさせてもらってますので」

 のぶの顔が不意に優しくなった。

「……何?綾は永遠の間男なんだけど、何か文句でも?」

「あ……いや、それなら……七恵に不満がないならいいんだけどさ……俺は三人、ヒロも交ぜて四人で、旨く

いってると思ってるよ。だけど世間は違うだろ?俺と海乃とヒロは普通に夫婦だ家族だって、思われるけ

ど……七恵はさ、兄弟とか友達とか、受け入れられてるにしても、家庭の中では他人に見られるんだろうか

ら……心配なんだよ。傷ついてやしないかってさ……」

 いつになく、のぶが真面目に話してくれちゃうから、私はつい可笑しくなってしまう。

「やだ、のぶ。私はさ、身も心も生粋のビアンで生きてきてるんだけど?」

「あ……」と、のぶは今更思い出したって顔をした。


 

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