小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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「全部聞いちゃったよ、ハルカから」

 真っ昼間から、ご機嫌な綾が不気味で……されるがままにベッドで寝てる私ですが……

「怒ってるよね?」

「怒んないよ。逆に七恵の気持ちがわかった。あー、なるほど、悪いなーって思うよね。抗生物質欲しくなっち

ゃうよね。あー俺、愛されてんじゃんって気分良くなっちゃったよ」

「……彼女泊まったんだ」

「だから、ごめんって言ってるでしょ。呼びたくなっちゃった……妬いてる?」

 ……ここでもか。

「……妬いてる」

「素直じゃん!」

「でも、私、のぶにも妬いてるみたいで……よくわかんないんだ」

「それは、ハルカにうーちゃんを重ねるからでしょ。他の誰かと、のぶでも俺でも寝たとして、果たして七恵が

妬くか?」

 痛いところを突くなー……

「というより、ハルカに訊かれたからサラッとは話したけど……あの娘、うーちゃんと似てるか?俺ン中のうー

ちゃんは白とピンクと赤で出来てるから、とてもじゃないが極彩色豊かなハルカとは似てないが?」

「うん。まず、体つきが違う。肉付きがいい……こう、ふにゅふにゅして……」

 私は手元で宙を揉みしだいて、枕に顔を埋めた。

「話したんだ……笑ってたでしょ」

「そりゃもうケタケタとね。まあ俺は、似てるかバカッ!って言っといたけど……で、何落ち込んでんの」

「……ヤりてー……のぶや綾ばっかズルいよ」

「あ、ソレで妬いてんの。ヤッちゃえばよかったじゃん」

「違うよ!そうだけどそうじゃなくてさ!……晴香が言ってた……ビアンじゃ未来がないって。結婚出来ない、

子供も産めない、周りに嘘ついて、自分の気持ちも隠して……だからのぶとも付き合ってんだろって言われて、

私は悔しかった!」

 涙が出そうだった。あの時、私のしてる事を全否定されたみたいだった。

「未来なんて自分で作りゃいいじゃない。結婚したきゃすればいい」

「誰と!?どうやって!?のぶとは嫌だよ!ヤられてばっかでヤらせてくんないし!」

「……お前の結婚は『ヤる』が基本なのか?男子中坊か?」

 ああっ!また否定された。泣きたい。

「結婚すんのは、俺と。養子縁組すんの。兄弟か親子になれば、少なくとも一緒の墓に入れる」

「それしかないのは解るけど、それじゃ……愛し合うのに抵抗感が出来ない?」

「近親相愛の禁忌か?真面目な石頭だな。そしたら同性愛も禁忌だろう?」

 禁忌……タブーを恐れて来たつもりはない。

「家庭やら子供やらを持つことを女の幸せだと思うヤツは沢山いる。普通っぽくしたいならいくらでも抜け道は

ある。いいよ、七恵が何を幸せに思ってもさ。俺にしてみりゃ、女に惚れて惚れさせるのが普通だから、ハルカ

や七恵の悩み所はわからないんだけどね。ただ自分の愛だけ信じてる。周りがどう見たって禁忌だっていいわけ

よ。……七恵は今、誰が好きでどうしたいよ?」

「……綾ものぶも好きだし大事だけど……海乃が好き。結婚とかじゃなくて、ただ一緒に居たい、逢いたい、触

れたい……隣にいてくれたらそれだけで幸せだよ……」

 零れた涙は脱ぐってもらった。もたげた頭は抱えてもらった。崩れそうな想いは支えてもらった。

「わかってんじゃん。七恵がうーちゃんにフラレたら結婚してやる」

「やだ。綾が兄ちゃんでも父ちゃんでもやだ。綾のままがいい」

「だから、わかってんじゃんて」

 私は普通の恋はしてないけど、常識にも規則にも縛られない分、そこには愛しか無いんだって解った。

 私は何より自由で純粋な愛だけしかない恋愛をえらんだんだ。私は私を、誇ってもいいと信じた。




 愛だけ信じて生きてゆこう!

 そう思えば、嘘も障害も、へでもなかった。


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