小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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――のぶと一緒に居たのは海乃だった。

 それなら、私は言うことはないんだ……言うことは……けど……

「ねぇ、のぶ、ぶっちゃけ聞きたいんだけど、海乃と寝た?」

「……」

 何でそこで、そっぽ向くわけ?

「アンタが寝ないわけないよね?」

「……寝たけど……抱いたけど……ヤってない……」
「何で?そこまでしといて最後の貞操は婚約者の為に守るとでも?……じゃなくて、無理矢理連れ込んだ

の?」

「何だよ!お前、俺の話聞く気あんのかよ!?」

「ある」

 いや、ない。私が聞きたいのは、のぶの話じゃなくて海乃の話だ!



 帰さないって決めたから……俺、アイツの男に会いに行くつもりで送ってたんだけど、アイツ途中で車停めや

がった、ハンドブレーキ引いて。

「帰りたくない」って言ったんだよ。帰さないでくれって言われて帰すかよ!

 だから、その辺のホテル入って……おい待てよ、七恵……そのファイティングポーズは止めろ。ただでさえま

だデコ痛えんだから……

 だけどな……だけど、俺とは寝れないって。男に操立ててんじゃなくて……



――のぶがボロリと涙をこぼした。私は……聞くのが怖かった。

 私は知っていたんだ……それが海乃と知らずに聞いて、ありきたりに同情した。



 ……海乃な、最後にあの家で遊んだ夜、腹痛いって言ってたんだよ。アレ腹膜炎だったんだってよ……アッチ

の貸別荘から病院まで車出した途中の事故で、アイツ腹潰して子宮とか取っちまったって……その後遺症で感じ

ないしよろしくないって……そんなの関係ないのにな……でも腹にでかい傷あってさ、スゲー痛かったと思う

し、スゲー辛いんだと思う……抱きしめんので精一杯……



――私も泣いていた……海乃のつるりと白いお腹を思い出していた。

 それから、ちかちゃんの話していた、死にそうだった恋人の婚約者さんが海乃に一気に重なった……だから世

話をした。だから結婚する……

 昔、海乃は生理も来なくて妊娠だって危ぶまれて身体だった。やっと普通に女の身体になれた時、のぶにフラ

レた海乃は「意味ないじゃん」と諦めた……今更求められても、子宮までなくした海乃には……辛いだけだ……

それは誰にもきっと理解は出来ない。



 しかもさ……その結婚するって男には、恋人がいるんだよ。ずっと前から結婚前提で付き合ってる女が、海乃

と結婚するって決めてもまだ切れていない。アイツがそれを許してんだ……自分の世話をしてくれた人だからっ

て……それ許せるか?幸せか?……わあってるよ!そいつがアイツを支えて来たことくらい!でも……



――それは知っている。のぶだって、その愛人みたいな娘を知っているんだよ……でもそれは今は黙っていよ

う……こいつかなりヤンチャだから。ああ嫌な偶然……。

 のぶの言いたい事はわかるよ……何故、自分じゃなかったのかって……私だってそう思う。でもさ、の

ぶ……



 ……アイツ、胸、でかくなってた……チクショー……



――とりあえず後で一度殺しておくとして……



 初めてわかった。愛し合うって……めっちゃイイな……頭の先から全身痺れるみたいで……



――取材なんかで、女の子からはよく聞くけど……男も思うのか。

 生憎私はそれを知らない。知り得ない……たぶん、ずっと。

 ……じゃなくて、のぶ……



 俺、プロポーズしてきた。お前には悪いかと思ったけど。だけど、海乃は頷かな……



――撲……ッ!!

 話の途中で悪いんだけど、のぶっ!

 私の右手が炸裂しちゃってたよ!

「だからっ!何でアンタは……海乃が辛いもん背負ってるって、そこまでわかった上で一人で帰って来てんだっ

て訊いてんのよ!!昨日だって今日だって!!何センチメンタルにフラレ顔引っさげて帰って来てんだよ!!このヘタ

レ犬!!」


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