ロケが終わり、部屋に一人でいると自然にあの子のことを考えてしまう。
必然的に俺の足はあの子がいる場所へ向かう。
いた。夜も遅いのに君はどうしてこんなに美しいんだ。
この艶っぽさ。なんとも言えない。
君に出会えて、初めてこんな気持ちになったよ。
「またかぼちゃ見に来てる。よっぽど暇なんでしょ」
振り向くとあいつが半ばあきれた顔で立っていた。
「俺のマイスイートハニーに会いに来たんだよ。悪いか?!」
「はいはい」
「ほら見ろ、この葉っぱの艶、月の光が一番美しく反射してる。俺が植えたやつは違う」
「子ども達が植えたやつとかわんねえっつうの」
あいつがまた馬鹿なことを言う
「わかってねえな。ここをよく見ろ」
「わかったわかったって。疲れてるんだから帰らせろよ」
段々腹が立ってきた、意地でもわからせてやる。
ああ疲れた。晃(さん)って暇なんだな。
結局1時間もあいつの相手してやる羽目になった。
ようやく家に帰ってきた。
「本当に暇な奴め」
思い出し笑いをしながらアパートの部屋のドアの鍵をあけようとする。
「おい、美香」
という声がし、振り向くと哲ちゃんがいた。
「あれ、どうしたの?」
「待たせやがって。仕事か」
哲ちゃんが穏やかな顔で言う。
「仕事よりたち悪いよ。普通のかぼちゃだって言ってんのにさ」
またあいつのことを思い出して、笑ってしまった。
「よくわかんねえけど、大変だな。そういえば、また、たまたまささ虫もらったんだけど、食うか?」
哲ちゃんが、ささ虫の缶詰を持ちあげる。
「本当に?やった!おいしそう。いつもありがとう」
哲ちゃんって本当にいいやつだ。
「旅館のお客さんからよく貰うからさ、処分に困っちゃってさ」
「ちょっと上がっていっぱいやってく?」
お決まりのポーズをする。
「いいねえ」
哲ちゃんが笑顔で答えた。
ああ頭が痛い。飲みすぎた.
千鳥足で家にたどり着き、コップに水道の水を入れ、一気に飲む。
時計を見る午前2時か。
今日こそはと思ったが、結局何も言えなかった。
しかしよくよく考えると、美香だって馬鹿じゃないんだから、何とも思ってない男を家に上げ、2人で酒を飲むわけはない。
俺達はプラトニックラブっていうやつかな。
なんとなく気分がよくなってきた。
おっと忘れないように俺にはやらなければならないことがある。
パソコンを起動させ、インターネットを開く。
「ざざ虫の缶詰あと10個位注文しておこうっと」
注文完了。
よし、寝よう。