パソコンの「。」のキーを威勢よく人差指で打つ。
やっと終わった。
何とか今日まで提出の「学力向上の取り組みに関する報告」を教育委員会に送ることができた。
職員室にはもう誰もいない。
ふと窓を見ると、かぼちゃの畑が目に入った。
何故だかわからないけれど急いで校舎を出てきた。
花壇を見ると晃(さん)がやっぱり座ってかぼちゃをみていた。
「見た。見た。あの雑誌。3位入賞おめでとう!」
私が大声で言うと、晃はただ静かに暗く振り返った。
「お前か。……俺のブレイクハートに塩を塗りやがって」
そう言い返してはきたものの、また晃さん(仮)は力なく下を向いた。
「……まさかあのランキング本気で気にしてた?!よっ嫌われ者!」
茶化してみたが余計下を向いてしまった。
「……あのランキングでCMとか、ドラマのキャスティングとか決められるんだ。当たり前だろう」
「でもまだ好きな俳優の2位にも入ってたからいいじゃん。2位じゃ駄目なんですか?」
私の微かなボケにも気がつかず俯いている。
「……俺のことみんな嫌いなんだろう?もう俺は外を歩けない」
晃が魂が抜けたような声でしゃべる。
「えっ?」
本当にこいつは大げさなやつだ。
「俺を許してくれるのはかぼちゃちゃんだけだ……」
腹が立って蹴飛ばしてやろうかと思ったけれど、かぼちゃを触ってる後ろ姿がなんか可哀そうでやめた。
「俺を許してくれるのはかぼちゃちゃんだけだ……」
とつぶやき俺はただかぼちゃちゃんを触っていた。
あいつはただ無言で立っている。
こんなときに「私だって晃さんを許してるよ」ぐらい言えよ。
本当にデリカシーのない女だ。
「……パンダって知ってる」
デリカシーのかけらもない女は優しい答えが必要な時に意味不明な質問をする。
「……馬鹿にするなよ」
俺が少しあいつを見ながら答える。
「パンダだって嫌いだって言う人がいるじゃん。あの全世界の人気者の。」
「……パンダ」
俺は全世界でどれだけパンダが人気者か考えた。
「だから全国民に好かれるなんて無理。何月何日何時何分、地球が何回回ったって無理。」
「……簡単にそういうけどさ」
反論しかけた俺の口を封じる。
「うるさい。黙れ。人がどういうかより、自分で自分のことほめてやれよ。そうしなきゃ誰が自分のことほめてくれんだよ」
こいつはいい女ではないけれど、いいことを言う。
「……お前、Fランクの女のわりにいいこというな」
お礼の代わりに出てきた俺の言葉は自分でもびっくりするものだった。
「人がせっかく励ましてやってんのに」
やべえ。あいつの拳が震えている。
俺とあいつの付き合いは短いがわかる。
相当怒ってる。逃げろ。
「今度こそ許さないから」
鬼の形相で追いかけてくる。
「うそうそ。こわっ」
俺は逃げ回ったが何故だかわからないが笑えた。