小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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カーテンを閉めても入り込んでく日差しがまぶしくて、目が覚めた。

「……やばい。今何時?」

あわてて跳び起き、携帯を見ると、今日は土曜日だった。

またベッドに横になり、目をつぶる。

そういば明日でロケ撤収って言ってたっけ……

考えたくないのに考えてしまう。

胸の奥が大きく疼いた。

今まで散々馬鹿にしていた恋に溺れる馬鹿女の気分がわかった。

そうだよ。私はもう馬鹿女だ。

もっと雰囲気を出すために、傍に置いてあったぬいぐるみに話しかけてみる。

「本当にもう会えないかもしれないね」

その時、部屋のチャイムの激しい連打音が鳴り響く。

驚いて思わずぬいぐるみを隠した。

「まさか……」

何故だかわからないけど、そういう予感がした。



美香の部屋のチャイムを押そうとする手が震える。

けど押すしかない。

「いけ、俺!」

一回押してしまうと後は勢い余って連打する。

しばらくするとドアが少し開いた。

あいつが不機嫌そうにこっちを見ている。

「なに?」

「早く着替えてこい。下で待ってるから」

「どういうこと?」

俺は敢えて答えずに階段を降りていった。



車の中で待っていると、割合すぐに美香が助手席に乗り込んできた。

すっぴんで髪の毛も寝癖のままだし、ご丁寧に服もジャージからまたジャージに着替えてやがる。

おまけに激しく機嫌が悪い。

「一体何なの!?」

俺は車を走らせ、聞こえるか聞こえないかの小声で呟いた。

「……今から東京に行こう」

美香の絶叫が車内に響いた。

「はぁーーーーーーーーーーーー!!絶対行かねーから!!!!!!」
   




「すごい!高い!東京が全部見える!一回来たかったんだよね!」

車内であれだけ文句言ってたわりに、スカイツリーについた途端それまでの悪態はなかったことになった。

「あっちからも見ちゃおう!ちょっと早く来てよ!」

東京出身の俺ははしゃぐ美香を見て、なんだか優越感に浸った。

「わかったって。東京がそんなに嬉しいか?まさか初めて……?」

美香がギョッとしながら振り向いた。

「……大学4年間東京に住んでたんだけど」

俺は奈落の底に突き落とされた気がした。

「騙された……純粋な田舎者かと思ってたのに……」

ショックで思わず座り込んだ。

今日の計画は名付けて、東京の魅力を借りて、告白しよう大作戦だったからだ……

けれどもあいつは座り込んだ俺を無視してどんどん先に進んでいく。

「5分100円か。富士山見えるかな」



落ち込んでばかりはいられない。やるしかない。

「あぁ暑いな」

そう独り言を言いながら、サングラスと帽子をとった。

一気に通行人に気付かれた。

「晃じゃない?」

「かっこいい!」

俺はわざと大声で美香を呼ぶ。

「美香!ちょっと待てよ!」

通行人達が一斉に俺の声の先を確認する。

「あの女の人って晃の彼女かな?」

「まさか!付き人だろう?だって見ろよ。あの髪形と服装見ればわかるだろう。

「そうだよね」

通行人の噂話は聞こえないようで、聞こえるんだ。

案の定、美香が5分過ぎてもずっと双眼鏡を覗いているふりをしている。

美香にそっと耳打ちした。

「たかが一般人の言葉に落ち込むなよ。確かにこの格好じゃあな。あっ俺のスタイリストの店、近くにあるから行く?」

さすがのあいつも素直にうなづいた。



白を基調とした店内でとても明るい。

お店の人もみんなオシャレなひとばっかりだった。

晃と店長らしき人が親しげに話ししている。

ソファに腰かけ目を閉じる。

あの村に居て、感覚が狂っていた。

大学生の頃はオシャレ魔人って呼ばれるほど、服装に気をつかってたのに……

あの村が……この職業が……私をこんなに変わらせてしまった。

ショックでただぼうっと店内を眺めていた。

晃が勝手に服を選んでいる。

「これとこれ着て、頭とメイクはマミっちにおまかせするから」

私は反論する気力もなく、力なく頷き、マミッチさんに奥の部屋の連れていかれた。

マミッチんに色々やってもらってる間、あいつと店の女の子達の楽しそうな話し声が聞こえてきた。

……別にどうでもいいんだけどさ。



30分後満足げなマミッチさんに連れられて、あいつが雑誌を読んでた所に行く。

「晃くん!どう?綺麗になったでしょ?」

「久々にワンピースなんか着ちゃった。はははっおかしいよね」

あいつは少しこっちを見た後、雑誌にまた目を通しはじめたと思ったら小さく呟いた。

「……別に悪くないんじゃない?」

……もしかして……照れてるの?

傍にあった飴を晃に向かって投げつけた。

「いつも通り、綺麗だねとか調子いいこと言いなさいよ!!」

晃は雑誌を閉じて立ちあがった。

「よし、次行くぞ」

一体どういうつもりなんだろう……




人でごったがえしてる表参道を見ながらベンチに座り、クレープを食べていた。

さっきからずっと気になってたことを聞く。

「東京に住んでたって、まさかクラブ通いしてたんじゃねえだろうな」

あいつが呆れた顔で答えた。

「あんたと一緒にしないでよ」

「でも大学生って合コンとかしまくって遊ぶんだろう」

「……テレビの見すぎじゃない?」

あいつはそういって笑った。

「大学の頃はね、ずっと弓道やってて結構有名な選手だったんだからね。」

「本当?」

「暇さえあれば、練習してたからね」

「どうしてやめたの?」

「4年生の時に国体の最終候補まで行ったんだけどさ、最後の最後に選ばれなかったんだよね」

「そう……俺、そんな話し始めて聞いた」

あいつがまた表参道の人ごみを見た。

「会うたびに愛しのかぼちゃちゃんが……とか俺のこと好きだろうとかわけわかんないことしか言ってないじゃん」

俺はここで確かめる計画ではなかったのに、口が勝手に喋った。

「……本当のことだろう?」

俺はあいつの顔を見つめた。

あいつも、俺の顔を見て何か言おうとした瞬間

叫び声が聞こえた。

「あっ、晃!!」

一瞬にして20人位の若者に取り囲まれた。



20人くらいの若者に取り囲まれ、携帯でパシャパシャやられている。

ギョッとしながらも晃を見ると、晃は平然としていた。

晃が突然明治神の方を指さした。

「あっ。あそこに」

若者が皆、晃の指す方を見る。

「何?何?」

晃にいきなり手を握られた。

一目散に駆け出し、晃は嬉しそうに言う。

「何もなかった!」

若者たちはすぐに気付く。

「あっ、晃待って!サインちょうだい!」

「写真撮って」


けれどもやっぱり晃の方が一枚上手だった。

手を握られたまましばらく走る。

私は不謹慎にも、もっと街中の人が晃に気がつけばいいのにと思った。

この温かい手のぬくもりを一生忘れないでおこう。





太陽がビルの間に沈んで行き、急に道を歩く人が中高生からサラリーマンになって来た。

お互いの顔をやっと確認できる位の真っ暗な公園を二人で歩く。

空には星はなく、代わりに高層ビルの明かりが輝いている。

「お前、なんだかんだ言って一番楽しそうだったな」

「別にいいでしょう。たまにしか来ないんだから。っていうかあんたが勝手に連れてきたんでしょうが!」

「車に乗ってきたのはそっちだぞ。俺は別に誰でもよかったのにな」

「……じゃあ優海ちゃんでも誘えばよかったのに。あっ優海ちゃんとじゃ目立つもんね」

そう吐き捨てると、晃が急に私の手を握る。

「俺はお前と来たかったんだ」

ジェットコースター並みに急な展開に動揺しながら、私は必死に口から言葉を出す。

「……あー楽だからね。気使わなくていいし」

あいつは叫ぶ。

「そうじゃないよ。見ろよ!」
   
私が後ろを振り向くと、後ろの高層ビルの明かりが一斉に消え、ハート型につき直した。

どこからか軽快な音楽がな流れてきて、次から次へと通行人がダンスに参加してくる。

どこからかクレーンが現れ、中に乗った人が照明器具を操作している。

気付いたらカメラマンが横に来て私を撮影している。

これってもしかして……

音楽が終わり、人々が私と晃を取り囲むようにダンスを終えた。

次の瞬間、私の足元に一斉に小さな電球がつき、光の道ができた。

光の道の先には、シンデレラ城みたいなイルミネーションが輝いていて、中心にはガラスの靴が光っている。

間違いない、私は確信した。


晃はそのガラスの靴を持ってきた。

「俺はようやく気づいたよ。お前が俺のシンデレラだったんだな。さぁシンデレラ、ガラスの靴をお履きください」
   
自分でも驚くほど冷静だった。

「……これ、いつ放送されんの?」

「放送?何だそれ?だから俺はお前が好きなんだ。ようやく気づいたんだよ」

「……昨日、お前なんか相手にしないって言ってなかったけ」

「……勢い余って言っただけで、俺はお前が好きなんだって」

「……いや、だからもういいって。これ素人ドッキリでしょ?あれでしょ?急に晃に告白されたら……みたいな」

晃は肩を落とした。

「火曜日の8時からのやつでしょ?大げさに喜んだ方がいい?ねぇ?」

そう簡単に騙されてたまるかって!!

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