つかの間の休憩時間、スタジオの外に出てみると雨が降っている。
一週間前の雨の日を思い出した。
スタジオから出て、急いで車に乗った。
大通りに出た途端に、すぐに渋滞に詰まってしまった。
「さっきまで雨が降ってたみたいで、混んでますね」
義信が運転しながら言った。
新興住宅街の駅の近くの小さな喫茶店であいつは待っていた。
ドアを開けると、マスターがコーヒーの豆を焙煎しながら静かに「いらっしゃい」と言った。
一か月ぶりに見る美香はジャージを着ていない以外は何も変わっておらず、ただ静かに奥の席で本を読んでいた。
「悪い、待たせたな。」
後ろから声をかけるとあいつが振り向いた。
「……3時間も待たせて」
やばい結構怒っている。叩かれる危険性を感じ、防御の姿勢をとった。
「顔だけはやめてくれ、体はどこ叩いてもいいから」
美香は意外なセリフを口にした。
「いいよ、別に大丈夫、忙しいんでしょ?」
慌てて防御の姿勢を、手で頭を押さえ具合の悪い風にした。
「ろくに睡眠もとれてなくて、頭も痛いんだよね。この間なんかさ」
あいつが俺の話を遮った。
「今日は何時までいられるの?」
「ええっと4時からリハだって言ってたから」
自分の時計を見るともうすでに3時を回っていた。
美香と目を見合わせる。
「……俺が呼んだのに、ごめん」
「いいよ。仕事だから仕方がないよ」
美香はそう言うと、窓の外を見ながらコーヒーに口をつけた。
「この朝ドラが終わるまでは……終わったら時間もとれるから」
「……わかったよ」
あいつはにこやかに笑った。
「お前が一番行きたい場所に連れていってやる。日本国内どこでもいや、海外だっていい。俺にできないことはない!」
その時、静かだった店内に悲鳴が響き渡った。
どこからともなく女子高生がわらわら集まってきた。
携帯で写真をバンバン撮られている。
「かっこいい!」
「ねぇ、晃、あっ、あそこに何もなかったやって」
「やって、見たい見たい」
俺の長年の苦労で生み出した、何もなかったを……
女子高生ではなく、主犯のインターネットがとても憎くなってきた。
「同じ手を使い続けてたら、やっぱりばれるよね」
美香までも呟いた。
その時、義信の声が聞こえた。
「晃さん、こっちです」
義信が店に入ってきて、俺達を連れ出し大急ぎで車に乗った。
「まずいですね、美香先生までネットにでたら、どうしよう……」
美香は外を見ながら吐き捨てるように言った。
「大丈夫じゃない。どうせまたマネージャーだと思われるだけだし」
思わず声を荒げた。
「そんなわけねえだろう!」
車内にFM放送のパーソナリティの甲高い声だけが響いている。
「……じゃあ、晃さんスタジオにおろしてから美香先生駅まで送っていくので心配しないで下さい」
スタジオまでの道すがら、一言も口をきかなかったけれど、俺はずっと美香の手を握っていた。
こんな時に限って渋滞せずに、車が水を跳ねながらスムーズに走っていた