小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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カウンターのいつもの席に座り、野球中継を見ていた。

シャイアンツが完封されかかっていて、おもしろくない試合だ。

麦酒を飲み干し、天井をみて考えごとをした。

「何考え事してるの」

声をかけられた方を見ると佐和子が立っていた。

「佐和子か……いや、別に」

「また恋の悩みでも抱えてたんでしょ」

佐和子は俺の隣に座った。

「哲也、まだ美香ちゃんのこと諦めてなかったのかい?」

おばちゃんが会話に参加してくる。

「……諦めたよ。その方が幸せになると思ってな。けれど今のあいつ見てみろよ」

「まあね、晃さん今忙しいみたいだし……」

「忙しくたって、相手のことちゃんと考えてたらできることあるだろ」

佐和子が珍しく困った顔をしている。

「もっとこまめにメールするとか、電話するとか、会いにくるとか俺だったら……」

おばちゃんが麦酒の瓶を机の上に置いた。

「他人がとやかく言っても仕方がない。2人で乗り越えなきゃね」

そう言うと、おばちゃんはコップに麦酒を注いだ。


珍しくシャイアンツファンの地元のおっちゃん達が奥の席におらず店内は静まりかえっている。

俺は何も言い返せなくて、野球中継を見た。

もうペナントレースも終了目前だ。

我がシャイアンツはもう優勝の可能性はないことが一週間前に決定している。

それでも俺はシャイアンツを応援している。

何故かって、それはファンだからだ。

最後のバッターがふわふわと一塁側に打ち上げ、相手チームの4番打者がキャッチした。

「試合終了、シャイアンツ2連敗です」

アナウンサーの無念な声が店内に響いた。

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