小説『短編集』
作者:tetsuya()

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吉野敬三は、総勢七人のみのバレーボール部においてたった一人だけの補欠だった。七分の六の確率でレギュラーになれるのにふるい落とされてしまった。

 補欠になった敬三の役割は指導する監督にボールを渡しながら、余裕がうまれたときはボールを拾いに行くことだ。両立はかなり難しかったが、彼なりに頑張った。

 たかがボール拾い、されどボール拾い。彼の働きぶりがレギュラーの練習時間に大きな影響をもたらすのだ。レギュラーよりもある意味重要だった。

 ボール拾いをしながら、どうして自分だけレギュラーになれないのかという悔しさもあった。だけどその気持ちをひたすら蚊帳の外においてひたすらボール拾いにいそしむ。チームのために奮起せねばなるまい。

 七人しかいないチームの初の対外試合がやってきた。たったひとりでボール拾いをする姿はどのように思われているのだろうか。こいつは下手くそだからレギュラーになれないと見下されているのだろうか。周りの視線がやけに気になる。

 チームが六人だったり、もしくは八人以上だったらよかったなと思える。前者なら確実にレギュラー、後者ならベンチ入りはひとりではない。七人という部員数が、彼の心に大きな闇を与えてくる。

 心理を見透かされたのか、監督が声をかけてきた。

「おまえはいつも通りやったらいい。周りの視線は気にするな」

 ちょっとだけ気持ちが楽になり、彼はいつも通りボール拾いを行った。どんなふうに思われようが、自分は自分のやることだけに集中すればいい。

 試合が始まった。弱小チームはどんどん点を取られていき、第一セットを二十五対八で落とす。口には出さないが、地方大会なのに月とすっぽんほどの差がある。

 第二セット、弱小チームは再び点を取られ続ける。前半ですでに敗北が確実といえるくらいの差がついていく。

 ベンチでひとりポツンと試合の様子を見つめていた。七人しかいないチームで試合にも出してもらえないのはすごく寂しくて惨めだった。自分はいくら頑張ってもボール拾いでしか役に立たないんだ。自分という存在が空気に思えてきた。

 二十三対六という場面でサーブ権が回ってきた。同時に監督からピンチサーバーとしていくようにいわれた。

 試合に出れないと決め付けていたので、ちょっぴり嬉しかった。ほんの少しの間、あちら側と一緒になれる。胸がジーンとした。

 交代する選手からも温かい声をかけられる。自分は必要ないと感じていた敬三に、その言葉が強く印象に残った。

 彼はボールを大切に持った。日頃の苦労がちょっぴりだけ報われてしみじみとしてしまった。
 
 気持ちを切り替えられないまま打とうとしたため、ボールにまともに当たらず相手のコードまでボールが届くことはなかった。
 
 彼のサーブは失敗に終わり、すぐに交代させられた。ほんのわずかの試合出場はコートに入ることなく終わった。スパイクを止められないにしても、せめてコートに入りたかったな。

 その後、チームは一点を返したものの、二十五対七で破れてしまった。七人で挑んだ大会はここで幕を閉じることとなる。

 来年には新しい部員も入ってくるだろうから、ひとりだけでボール拾いをする大会は最後になるだろう。寂しいような嬉しいような、色々な感情が複雑に入り組んでいた。

 

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