小説『短編集』
作者:tetsuya()

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 横山太一は加藤健二、万代みさお、半蔵啓太、弐打靖史と一緒にババ抜きをはじめるところだった。

 カードケースからトランプを取り出す。長らく使っていなかったので、ケースにほこりがたまっている。彼の記憶が正しければ、五年間くらい机の引き出しに眠っていたままになっていた。

 五人が凄く懐かしいものを見るような目で、トランプに視線を注いでいた。テレビゲームやインターネットが遊びの主流になった現代、トランプで遊ぶことはめったにない。トランプと作っている業界の方には失礼かもしれないが、一昔前の遊びだ。
 
 横山はトランプを手に持ってみた。幼い頃に遊んだ道具に少し感慨深さを覚える。懐かしい感触は五年立っても変わらない。

 ババ抜きをはじめる前に、トランプの感触を確かめてみたいと全員がいったので、一人ずつ順番にトランプを回していく。

 それぞれに胸に秘めたものがあるようだ。カードを大切そうに撫でたり、シャッフルする感覚を思い出そうとしたり、ハート、ダイア、クローバー、スペードのマークを横に一つずつ並べてみたりしていた。

 一瞬であっても、すごく大切に扱われているトランプは大喜びしているだろう。久しぶりに雪化粧していた埃を払ってもらい、ケースの封印から解いてもらったことにきっと感謝している。カード自ら跳躍しているように太一の目には映った。
 
 五人がそれぞれにトランプへの想いを語ることとなった。

 まずは太一からだ。彼は、ポーカーでフォーカードをそろえて勝利したのが一番印象深い。ルールがあまり分かってなくて適当やった初回で、周囲を唖然とさせるフォーカードをそろえたことに、大人たちが本気で驚いていたのは忘れられない。

 加藤健二は大富豪で大貧民という階級で、初手階段上がりというのを成し遂げたのが一番印象に残っているらしい。偶然にも三から十三までのマークが全部同じだったらしく、一度で全部出した時に、大富豪を含めたまわり全員が目を点にしていたとのこと。なるほどそれは凄いな。

 万代みさおは神経衰弱でワンペアも取れずに敗北したことらしい。相手が強すぎるのか、万台が弱すぎたのかは今となっては定かではないが、完敗したことに悔しさを覚え、毎日のように神経衰弱の練習をしたらしい。彼の話を訊いていると、テストの点がとても悪くてこのままでは話にならないと奮起したのを思い出す。

 半蔵のエピソードはちょっと恥ずかしい。ババ抜きの兄弟とも呼べるジジ抜きで、ババをそろえたから一番だとみんなの前で主張して、周囲に大笑いされたらしい。太一もこの話を訊いて、無意識のうちに笑ってしまった。ルール分かってないにもほどがある。

 弐打は七並べで、初手のカードがエースやキングなどの端にばかりおくカードが初手に来て、何もできずに敗退したことのようだ。出せるカードが来ないなんてあまりにも運がなさすぎる。

 いろいろ話をしていて、トランプは凄いなと改めて感じた。五百円そこらでいろいろ楽しめる。他のカードゲームにはない魅力だ。

 最近のカードゲームはレアカードなどの出現によって、数十万出費しても揃わず、多額の出費を覚悟しなければならないものが数多く実在する。エコだったトランプを、収集するという形で金儲けの道具に企業が利用するようになってしまったのはちょっと残念。お金がなくても遊べるトランプを見習って欲しい。

 一通りトランプについて語り合ったところで、一回かぎりの真剣勝負に入ることとなった。皆真剣な表情をしている。太一も負けられない。数年ぶりのトランプを楽しむだけでなく是が非にも勝ちたい。

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