小説『短編集』
作者:tetsuya()

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 江川健二は、会社の付き合いがなければ仕事終了後すぐ家に帰る、ギャンブルなどの無駄遣いになるものは一切やらない、男のほとんどがやっているアダルトDVDを鑑賞しない、休日は一日六時間は勉強する、毎月五万円以上貯金するといった具合に。
 
 何の面白みのない生活だと言われるけど、習慣づいてしまえばどうってことない。これが当たり前だと思える。ギャンブルをしたり、アダルトDVDをみて興奮する奴がどうかしている。人の裸を見てどうしてあそこまで興奮できるのか分からない。自分の身体を売ってお金を稼ごうとする女の教育はどうなっているのかと目の前で説教してやりたくなる

 友達は一人もいないけど、寂しくない。自分は自分の生き方で生きていく。信念を曲げるつもりもない。

 彼女もいない。別に作りたいとも思わない。女に割く時間が勿体無い。成長を妨げるだけ。女の裸を見て興奮するようになったら人生終了だ。低次元の奴らと同じになるのは許容できない。 
 
 友達も彼女もいないのは他人を信用していないからである。利用するだけ利用してポイ捨てする。人間とはそういうものだ。

 レベルの低い人間と付き合ってもしょうがない。屑は屑同士引っ付いていればいいのだとも思っている。

 出社前、新聞を読んでいた。国の争い、政治の不毛な対決、殺人事件の速報など暗いニュースばかりだ。馬鹿を記事にするんじゃなくて、もっといいことを記事にすればいいのに。新聞記者もネタに尽きてきたのかな。

 アイロンをかけたスーツを着て、昨日一時間以上かけて磨いたばかりの靴を履く。髭は一本の剃り残しすらないようにしている。髪の毛は三十分以上かけて整え、眉毛やまつげも無駄な部分は抜くなどして調節する。
外見にかなり気を遣っている。

 出社した。いつものように周りに白い目で見られる。ひそひそ話も聞こえる。だけどどうってことない。いわせておけばいいし、勝手に見るなら見ろ。 

 仕事が開始する。いつものように俺流でひとつずつこなしていく。仕事していく上で、俺が見つけた最善の方法だ。このやり方を使えば誰よりも早く仕事ができ、間違いも少ない。

 部下の質問は全く受け付けない。一回、説明を聞けば分かって当たり前。失敗すれば能力が低いがための自業自得だ。役立たずなどやめてしまえばいい。

 昼食の時間。いつものように一人で食べる。俺から誘うつもりもないし、向こうからも誘ってはこない。どっちも一緒にいたくないんだから、成り行きとしてはそうなるわな。

 仕事が終了した。俺は今日もミスなく仕事を終えることができた。成果にも満足している。部下はいろいろミスがあったようだが、俺の教え方は間違っていなかった。理解できない猿並みの脳しかもっていないからこうなるんだ。

 そいつらをたくさん怒鳴ってやった。頭ごなしに批判したり、人格を否定したり、やる気がないならやめろなどと好き放題罵った。

 これは社員教育であってパワハラでは断じてない。駄目な奴を教育するのは、上司として当たり前のことである。俺の正当な権利だ。

 本日は仕事終了後に、社長に来るようにいわれている。

 社長は人事の権限を握っている。くれぐれも機嫌を損ねないようにしなければならない。俺の努力が水の泡と課してしまう。 

「失礼します」

 社長は瞬きを数回してから、思いもよらぬことを通告してきた。

「君には今日付けでやめてもらう」 

 突然の解雇通告に、頭が真っ白になった。いつもは機械のように冷静に対応する江川の声も自然と昂ぶってしまった。

「どうして僕が解雇されなければならないのですか。何か悪いことをしたんですか」

 社長は一つ息を吐いた。出来の悪い子供を嘲笑するようなニュアンスを含んでいた。。

「部下をきちんと教育しないし、いるだけで社員のテンションもがた落ちする。君がいくら優秀であっても、会社に必要ない人材だ」

 江川はすかさず反論する。

「それは・・・」

 社長は言葉を遮り、目も合わせずに、感情のない声で穿き捨てた。

「もう決まったことだ。君には割増の退職金と一か月分の給料を余分に支払うので、二度と出社しないでくれ」

 社長は社員でなくなった、江川の前をすっと通り過ぎていこうとした。

 わからずやの爺を殴りつけてやりたい。俺は何も悪いことはしていない。悪いのは全部まわりの奴らだ。

 何かを思い出したように、爺が立ち止まる。解雇通告のほかにまだ何かあるのかよ。うざいから早く消えてくれ。

「君に損失を払ってもらわなければならない。社員の意気の低下によるものなど、複数の項目にわたるから。退職金と一ヶ月の給料だけで足りなくなるかもしれないから」

 俺に金を払えだと。何を抜かしているんだ爺は。堪忍袋の尾が切れた江川は爺を何度も殴りつけた。会社だというのも忘れるくらいに冷静さを失っていた。

 社員に取り押さえられた俺は、すぐに駆けつけた警察に逮捕された。

 まさか刑務所生活を送ることになろうとは。何も悪いことはしていないのに、理不尽すぎる。刑務所から出所したら必ず復讐してやるからまってろよ。

 

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