そんな未来に一人の、ある男の子が生きていた。
彼の名は鈴宮蒼(スズミヤ・アオイ)ジュエリー業で成り上がった鈴宮家のただ一人の跡取り息子。
年は現時点で8歳、コバルトブラックのクリッとした瞳と無造作なショートヘアーの可愛い男の子。
性格は―――悪魔。
今日も男の子は人を振り回す。
朝
{蒼様、お目覚めの時間ですよ。}
優しげな新米のメイドがゆっくりと彼にかかった布団をめくる。
だが次の瞬間
「さわるな、クソが」
布団から顔を出した蒼はメイドをキッとにらむと、小さな手でメイドを一瞬の間で床に突き飛ばした。
突然のことでメイドは訳が分からず尻餅を付いた箇所の痛みに泣きだす。
突き飛ばした本人はやれやれとつまらなそうにその様子を見ている。罪悪感はないのか悠々とした表情。
「早く出てけよ、弱虫」
彼はメイドの前で仁王立ちし冷血な目で言い放つ。冷たく。
その鋭利な声に恐れをなし、メイドは駆け足で部屋を後にしてしまった。
泣きながら廊下を走っていたメイドは家の主人、すなわち蒼の父と遭遇した。
コバルトブラックの瞳は親子共々美しい妖艶さをもっている。
「どうしたのだ?」
主人は聞く。
{・・・蒼様が全く起きないのです。暴力までふってきて私突き飛ばされてっ」
メイドの涙が一層にじみ出る。
「そうか、それはすまなかった。これからはちゃんと゛教育係゛を蒼につけよう」
主人は自分の携帯に番号を打ち始めた。