床に転がったランドセルを蹴散らして蒼は言う。
「そうか、あんたが東か。地味な女」
意地の悪い表情で蒼は東を鼻で笑った。
東は冷たく言い放つ。
「ならばメイドが・・・自分の制御もできない主人に愛想良く応対する理由があるのでしょうか?」
蒼は口を結んだ。
こんな扱いを他人から受けたことのない彼は苛立ちを孕んだのだ。
そして次の瞬間。
蒼の手によってテーブルの上にあったコーヒーカップが宙を舞う。
「・・・・・・っ!」
中のまだ暖かい液体が東の顔面を直撃した。
「ハッ、ざ、ざまあみろ」
彼は内心うろたえていた。
それはさっきまでの東からは想像もできないほど彼女が苦しそうに悶えているから。
彼女はリビングから違う部屋へ走っていった。
(ああ、ああ・・・)
一人では広すぎるリビングに残された蒼に強い脱力感が襲う。
体がだらんと下がり精神はモクモクと変色していく。
バカみたいに。
俺が馬鹿なだけ。
「・・・坊ちゃん、今自分が何をしたのかわかっていますか」
ハッ!と声の聞こえた方向を振りむくと佐藤が悲しそうな表情を浮かべていた。
怒られる、と確信した。
というかそれ以上の何か、その何かが起きるような気配を蒼は感じた。
佐藤が蒼と向かい合うようにしてリビングの椅子に腰掛ける。
そして口角の下がった口を開いた。
「私は、坊ちゃんにはもうこれから先会えなくなってもいいと思っております」
少年は大切な人を失った。
bad end