第8問 貴様、見ているなッ!
保健体育
【第八問】
問 以下の問いに答えなさい。
『女性は( )を迎えることで第二次性徴期になり、特有の体つきになり始める』
姫路瑞希の答え
『初潮』
教師のコメント
正解です。
吉井明久の答え
『明日』
教師のコメント
随分と急な話ですね。
土屋康太の答え
『初潮と呼ばれる、生まれて初めての生理。医学用語では、生理のことを月経、初潮のことを初経という。初潮年齢は体重と密接な関係があり、体重が43?に達するころに初潮を見るものが多い為、その訪れる年齢には個人差がある。日本では平均十二歳。また、体重の他にも初潮年齢は人種、気候、社会的環境、栄養状態などに影響される』
教師のコメント
詳し過ぎです。
橘悠里の答え
『 』
教師のコメント
次からはきちんと欠席届けを出してくださいね。
「戦争終結!勝者、Fクラス!」
西村教諭は目の前に見える穴の空いた壁を見て頭を抱えながらも、戦争終了の宣言をする。
「うぅ……。痛いよう、痛いよう……」
一方主犯である明久は、右手を押さえながら蹲っていた。
「明久!」
そこへ、久方ぶりに姿を見せた悠里が近付いていく。
「やったな」
悠里は静かに、明久の前に拳を突き出す。
「悠里……えへへっ」
明久は照れくさそうにしながらも握った左手を突き出し、悠里の拳に合わせた。
「それにしても、まさか悠里がBクラスの生徒に変装してるなんて夢にも思わなかったよ」
明久は再び右手を擦りながら話し始める。
「敵を騙すならまず味方からってな。まあ、雄二には知らせておいたが……言ってただろ?エアコンの件はあくまで保険だって」
「あっ、そっか。悠里が居るなら無理にエアコンを壊す必要は無いもんね」
Dクラス戦が終わった帰り道で雄二が言っていた意味をようやく理解した明久。
「……何時から」
「ん?」
「……何時から、忍び込んでいたんだ?」
すると、先程までの威勢の良さが嘘みたいに大人しい根本がその口を開いた。
「さてな。今日の朝か、昨日の戦闘の途中か……はたまた開戦前からかもしれん」
「開戦前って……」
はぐらかすような悠里の言葉を聞いて冷や汗が垂れる明久。
「しかしよくばれなかったのう。根本は随分|Fクラスの情報を知っておったようじゃが」
二人が会話しているところへ、先程雄二と一緒に後退していた秀吉がやってくる。
「ああ。あれは俺が流した」
「な、何ッ!?」
取るに足らないことだと言わんばかりの悠里に対し、根本は声を張り上げる。
「放っておけば裏でどう動くか分からないが、こっちが意図的に情報を流せば相手がどんな動きをするか予想しやすいからな。約束されない安全よりも、予測された危機の方がこちらにとっても都合が良い」
エアコンの件が良い例だろう。事実、情報を敢えて流すことで窓を閉め切らせ、室温を上昇させたことにより、判断力を鈍らせることに成功している。
「……くっ!」
根本が悔しそうに歯を噛みしめている。それもそうだろう。敵の手の内を全て見切ったと思っていたら、実は相手の手の上で踊っていたと言われたのだから。
するとタイミングを計ったかのように、教室の外から雄二がやってくる。
「まっ、そういうわけだ。残念だったな根本」
「ッ!?坂本!」
根本に声を掛けた雄二は、そのままBクラスの教壇のところへ歩いていき、教卓をダンッと叩いてBクラスの生徒の注目を集める。
「Bクラスの皆に提案がある!本来ならBクラスの設備を、我々の卓袱台と交換するところだが……条件によっては特別に免除してやってもいい」
そんな雄二の発言に、Fクラスのメンバーがざわざわと騒ぎ始める。
「落ち着け。前にも言ったが、俺達の目標はAクラスであってこのクラスじゃない。だから、Bクラスが条件を呑めば解放してやろうかと思う」
その言葉を聞き、Fクラスの皆は納得する。これも雄二の人望とその功績の為せる業だろう。
「……条件はなんだ」
根本が力なく問いかける。
「根本。お前がこれを着て俺の指示に従うなら、特別に交換を見逃してやろう」
雄二が取り出したのは、今朝秀吉が着ていた女子用の制服だ。
「なっ!馬鹿なことを言うな!誰がそんな―――」
『Bクラス全員で実行する!』
『必ずさせると約束しよう!』
『まかせてくれ!』
『全力で着せてみせる!』
「お、おいっ、こら!待てお前ら!俺はそんなもの―――ぐふぅっ!」
一瞬にして仲間に見限られた根本は、Bクラスのメンバーにより気絶させられる。そして次々と制服を剥がされ、着せ替えられていく。
「今の内に、え〜っと……あったあった」
明久は脱ぎ捨てられた根本の制服のポケットの中から一通の手紙を取り出す。
「……明久、ここは俺達に任せて先に帰っていいぞ」
明久の様子を機敏に感じ取った悠里は、明久に先に帰るように促す。
「えっ?あ、うん。わかったよ」
明久は悠里の好意に甘え、早々にBクラスを後にした。
「……行ったな?よし行くぞ!秀吉、ムッツリーニ」
「…………了解」
「お主ら、趣味が悪いのう……」
そして悠里はというと、その場を雄二に任せて明久の野次馬に出掛けるのだった。
「はい、姫路さん。これ」
「ありがとうございます、吉井君」
夕陽が照らす屋上。そこで明久は、瑞希に取り返した手紙を渡していた。
「本当に良かった……私、どうすればいい分からなくて……」
瑞希は自分の手を胸元に当てて安堵の息を溢す。心なしか、顔に赤みがかかっている。
「あの、姫路さん。その手紙って……」
明久は思い切って瑞希に尋ねる。
「はい。あの時の手紙です」
明久の予想通り、Dクラス戦があった日の放課後に書いていた手紙のようだ。
「私がこんなものを持っていたから、皆に迷惑を掛けてしまいましたね」
瑞希は突然、明久の目の前で手紙を破き始める。
「姫路さん!?」
「こんなものに頼らずに、自分の想いは自分の言葉で直接伝えようって決めたのに……いつまでも捨てられずにいた私がいけなかったんです」
手紙は綺麗に十六分割にされ、先程から校舎に吹き抜けていた風によって空の彼方へと飛ばされていった。
「(今はまだ、この想いを伝えるのは無理ですけど……でも)……吉井君」
「なに?姫路さん」
顔を赤に染めた瑞希は、決意を込めた目で明久を見つめる。
「明久君って呼んでいいですか?」
「えっ!?いや、それは、クラスの皆が何かと煩いっていうか―――」
「いいですか?」
瑞希のまっすぐな目を見て言葉が途切れる明久。
「……うん。いいよ」
明久は快く承諾する。
「私……今日迷惑をかけた分、精一杯頑張ります。だから、改めてよろしくお願いしますね。明久君」
「うん」
その時屋上に、まるで二人を包みこむかのように春の暖かい風が吹き抜けた。
一方、屋上の出入り口の近くでは……
「ほう、中々良いムードだな」
「…………(コクコク)」
「うむ。姫路の方が一歩リードといったところかのう」
悠里達が野次馬していた。
「でも勿体無いことしたなぁ、姫路の奴。折角お膳立てしてやったのに」
「まあ、それはワシらが口を出すことでもなかろうて。ワシらにとっては何気ないことでも、姫路にとっては大きな一歩だったようじゃし」
「……まあ良いか。それとムッツリーニ、音の鳴らないカメラは犯罪だからな」
「…………事実無根(ダラダラ)」
「お前って無口キャラの癖に隠し事が下手だよな」
「…………そんなことはない」
「……む?どうやら話が終わったようじゃぞ」
「おっと。それじゃ、見つかる前に退散するか」
「…………了解」
明久達に見つかる前に、悠里達はそそくさと退散していった。
「……雄二」
「うおっ!?びっくりした……。急に後ろに立つな」
「……Bクラス戦勝利、おめでとう」
「おう。一応その言葉、有り難く受け取っておく」
「……次はAクラス?」
「ああそうだ。これに勝てば、『学力だけが全てじゃない』って証明される」
「……そう」
「だから、全力で来い。こっちはそれを全力で叩き潰す。いいな?翔子」
「……分かってる」