第20箱 残された者たち
それは後日の事…
【人吉家】
家の中があわただしい…
「…ええ… そういう格好で…最後にいなくなった日には…幼稚園の服を…はい…よろしくお願いします。」
瞳先生が電話しているのは…
警察にだった。
なぜなら…
「うっ…うっ… りゅっ…りゅう…く…ん… りゅうくん…」
善吉は夜通し泣き続けていた…
泣き声は収まりつつあったが… 涙がとまる事は無かった。
泣き声が収まったのはただ…叫びすぎで声が出にくくなってしまったからだ。
泣いている理由は唯1つ…
「どこに…いっちゃったの… りゅ…くん…」
そう…劉一…
≪人吉劉一の行方不明≫
それが理由だった……
毎日を一緒に過ごし…
最早兄弟同然だった…
それが……
「善吉… 今必死に皆で探しているから!大丈夫!きっと直ぐに見つかるわ!安心して。…ね? 大丈夫!あの劉一君だよ?きっと大丈夫!信じて、」
瞳は善吉の頭を撫でながら慰めた…
でも…彼女も心配でいても立ってもいられない状況だったのだ。
彼の… 劉一の優秀… 異常性は誰よりも知っていた。
子供とは思えない学習能力の高さ…知性の高さ…そして身体能力…
全てにおいて、大人にも引けを取らない。
幼い子供が…だ。
その…子が…音沙汰も無く姿を…消すなんてありえない…
理由があったとして…
善吉には内緒だったとしても… 私には絶対に言う。
そういう子なのだ。
十中八九… 何かに巻き込まれた…
「さっ!善吉…!元気出して!ご飯!たべよっ! っとその前に…手を洗わなくちゃね?ほらっ!」
そう言い、善吉を洗面所へ。
「…劉一……」
1人になったその時だけ…
人吉瞳は・・・
心配する…母親の顔に戻っていた。
そして、同刻…
【黒神家】
人吉家よりもはるかに慌ただしい……
「そうだ!何としても…何としても探し出すんだ!」
こちらも…電話で誰かと話をしている。
黒神家の執事をしていた男性だ。
劉一が行方不明となったことは、もう既に黒神家にも伝わっていたようだ。
「そうだ!!全員出てくれ!頼む……なんとしても…劉一を探してくれ!!」
めだかが激を飛ばしていた。
電話を切り………
「……劉一… 何処へいったんだ… 私に黙って…」
今でこそ、平静を装ってはいるが…彼女も、善吉と同様…
一晩中泣いていた。
その雰囲気には変態(まぐろ)さえ 近づけない程に…
「必ず… 見つけ出すから… 私に勝ったままなんだ!お前は!それに… 約束した… 大人に……高校生……で… お前の…答えを聞いてないんだ!私は……好……ッ!!」
まだ、涙は涸れてはいない様だ…
その瞳は薄っすらと…滲んでいた。
そんなめだかを後ろで見ていたもの…
それは……
「今のめだかちゃんには… 何言っても聞かないだろう… それ程、彼の事が心配なんだね。勿論僕も… 心配だよ。何せ…彼は妹の恩人だしね… 嫉妬しちゃうけど。」
まぐろも…涙を流し指示を出しているめだかを見ながら呟いた。
「でも……泣いているめだかちゃんなんて見たくないな。」
そう言うと、彼も捜索に乗り出した。
「けっ… なんだよ… アイツ… 私にあんな説教みたいなことしといて……… いなくなってるじゃねえか!!残されたものは…って言っていた癖に………」
ここはくじらの部屋…
いつもどおり禁欲に勉強しているところだった。
彼に出会って…
彼女も家族と食事したり、会話したりと…
徐々に心を開くように…なって言ったのだが…
彼の… 劉一の失踪を聞き… 以前の彼女に戻ったようだった…
「くそっ…なんでこんなに嫌な思いをするんだ…!! ……………これが、不幸…なのか? ククク… 」
くじらはそう呟くと…
再び机についた…
=================================================
劉一の行方不明…それは…皆の懸命な捜索の成果も上がらず…
見つからなかった…何年…何年立っても、彼の生死すら分からない。
そして… 長い月日が流れた…
=================================================