小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第二部》』
作者:wanari()

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 かつて幾度も噴火を繰り返してきた影響なのか、火山の裾野はひどく黒ずんでいた。滑らかな地面もあれば、穴だらけの岩塊が至る所に顔を覗かせる場所もある。進みにくいことこの上ない道に、パトリシアは不機嫌そうにいなないていた。

 やがて巨大な洞窟が口を開けている場所に辿り着く。アランの背丈の五倍はあろうかという大きさの、歪な形をした入口だった。中から吹き出してくる風が不気味な反響音を奏でている。アランは無意識の内に片手で顔を守った。風が、かなりの熱を持っている。

「こりゃあ、中は相当スゴイことになっとりますのう……」

 恐る恐るといった様子でマーリンが幌から顔を出す。熱気にわっぷわっぷと言いながら、彼は忠告した。

「今でこそ噴火はしていないようじゃが、内部はきっと溶岩で溢れておりますぞ。そうでなくてもこの熱気では長い間活動するのは難しいでしょうな」

 少なくとも儂は御免ですじゃ、と彼は余計な一言を添えた。

 アランは顎に手を当て、しばらく思案した。そして洞窟の入口を険しい顔で見つめ、仲間たちに告げる。

「探索を二回に分けよう。まずはアンディさんを見つけ出すことに専念する。炎のリングを探すのはその後だ。メンバーは――」
「おっと。あたしらを置いてくのはナシだよ、アラン」
「ええ。私たちも行きます」

 そう言ってデボラとフローラが馬車から降りた。驚きの表情で彼女らを見るアランに、フローラは懇願する。

「火山が危険なのは百も承知しております。でも、だからこそ一刻も早くアンディを見つけなければ。お願いですアランさん、連れていってください!」
「フローラ……」

 彼女の瞳に強い意志が宿っていることを見て取り、アランは大きく息をついた。肩の力を少しだけ抜き、微笑みを浮かべる。「わかった。でも無理はしないこと」と彼女らに言い聞かせる一方で、フローラたちは絶対に守り切ると固く心に誓う。

 洞窟の中はどうなっているかわからない。マーリンの言葉通り、当てもなく長時間歩き回るのは危険だ。アランは仲間の半分を探索メンバーに、残りを馬車での控えとした。
 先頭を歩くのはアラン、その後ろにフローラとデボラを乗せたチロル、サイモン、コドラン、ドラきち、ホイミン。基本的に戦闘よりも探索に重きを置いたメンバーだった。

 洞窟の入口はなだらかに下っていた。内部は松明を燃やす必要がないほど明るい。行く先から橙色の強い輝きが漏れてくるからだ。

 坂を下りきったアランは、目の前に広がる光景に息を呑む。

 入口以上に洞窟内部は広大で、特に天井が高かった。足元に視線を移せば、アランたちが立つ岩場の下は煮えたぎる溶岩で埋め尽くされていた。高い粘性を持つ液体が互いを押し合うようにゆっくりと進み、時折気泡を弾けさせる音が、まるで無数の獣が静かに唸っているように聞こえた。
 この中に落ちれば最後、人間など一瞬の内に消し炭と化してしまうだろう。

 チロルに連れられ溶岩流を見た姉妹もまた顔を強張らせていた。珠の肌に汗を滲ませ、じっと橙色の蠢きを見つめている。アランもまた額の汗を拭った。

 ――確かに暑い。だが空間が広いせいか、思った程ではない。アンディさんが奥へ進んでいなければ、何とか無事に助け出せそうだ。

「急ごう。今ならまだ間に合う」

 アランが声を掛け、率先して先を歩く。仲間たちもそれに従った。

 しばらくして、ふとデボラが声を上げた。

「うあー、やっぱあっついわぁ……。ねえアラン、脱いで良い?」
「ね、姉さん……!」

 胸元を広げながら宣うデボラにフローラが苦言を言う。しかし暑さと不安のせいか、その声に覇気はなかった。すると何を思ったか、デボラがフローラの衣服に手を伸ばす。

「だったらあんたが脱ぎなさい。その裾の長い服、見てて暑苦しいのよ」
「え? きゃっ!?」

 先程までへばっていたデボラのどこにそんな力があったのか、彼女はフローラのスカートを強引に裂いた。手慣れた仕草で布地を剥いでいき、踝ほどまであった妹のスカートをあっと言う間に膝上丈まで短くしてしまう。

「ねねね、姉さん! 何をするの!? ア、アランさんもいるのにこんな格好……!」

 切れ端も痛々しいスカートを押さえ、涙目で抗議するフローラ。だがデボラは悪びれた様子もなく、手にした布の残骸を投げ捨てた。通路代わりの岩場から外れ、ふらふらと溶岩の上に落ちていった布は、次の瞬間橙色の炎を上げて燃え上がった。その様子に息を呑むフローラに、デボラはあっさりと言う。

「あんた鈍くさいところがあるんだから、そんなひらっひらのスカート穿いてたらあっと言う間に火だるまになるわよ」

 姉の言わんとしていることを察したフローラは黙り込む。布地を気にすべきはデボラもアランも同様だが、フローラはそれをあげつらうことはなかった。ただ自分の迂闊さを悔いているようで、彼女は短くなった自らのスカートの裾を握りしめていた。

 そんな場合ではないとわかっていながら、アランは彼女の健気な様子に目が行ってしまう。

 ちら、とフローラから視線を向けられ、アランは咄嗟に明後日の方向を向いた。それを見たフローラはぽつりと告げる。

「ど、どうか気になさらないでください。えと……私、我慢しますから」

 何と応えて良いかわからないアランは、「うん」と曖昧にうなずき、そのまま先へと進んでいく。顔を赤らめ我慢する妹と汗を流しながらもにやにや笑う姉を背に乗せたチロルは、心底呆れたような、感心したような声音で「ぐるる……」と唸った。


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