小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第二部》』
作者:wanari()

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 溶岩洞窟は自然のうちに出来上がったはずだが、その道は意外なほどに整っていた。荒々しい姿を見せながらも、まるで誰かが足を踏み入れることを待っているように。

 ただ、アランたちにはそんな洞窟の不思議を暢気に探っている余裕はない。道を覚え、地形を頭に入れながら、アンディの姿を探してひたすら歩く。

 その途中、道ばたでへたりこんでいる一団を見つけた。皆壮年の男たちばかり、十人ほどの集団である。暑さで体力を消耗していた彼らはアランの姿を胡乱(うろん)げに見遣り、その後ろに控える魔物たちに目を丸くし、さらにそのうちの一体の背にフローラとデボラが乗っていることに驚嘆した。
 どうやら、彼らもアンディと同じく炎のリングを求めてやってきた一行らしい。アランが事情を尋ねると、彼らはこう言った。

「最初は皆ばらばらだったんだが、さすがにこの環境の中で互いにいがみ合ってちゃラチが明かないってことになってね……協力できるなら協力しようと一緒に行動していたんだ」

 男の一人が皮肉を滲ませ、言う。

「まさか、お目当ての娘さんに助けられるとは思ってもみなかった。情けねえことです」
「そんな。皆さんが無事であれば、私は何も言うことはありません。情けないだなんて……むしろ、私は皆さんに謝らなければ」

 チロルの背から降りたフローラが深く頭を下げる。男たちは一様に、力の無い笑みを浮かべた。彼らの顔を順番に眺めたデボラが、額の汗をひとつ拭って言う。

「あんたら、そろそろ限界みたいじゃないか。悪いことは言わないから、さっさと引き返しな」
「いや、しかし。いくら疲れていると言っても、お嬢様たちを置いて戻るなんて」
「あら、見えてないの? あたしたちにはちゃんと護衛がいるんだよ。ま、この魔物たちや、あそこにいるアランに自分たちは負けないって自信があるなら、あたしもあんたらについていくのは考えなくもないけどサ」

 ねえ、と話を振られ、アランはわずかに目を細める。怪訝そうでありながら、どことなく畏怖も含んだ男たちの視線を受け止めながら、アランは尋ねる。

「あなたたちは、アンディの姿を見ませんでしたか? 彼女の……フローラの幼馴染の青年です」

 顔を見合わせる一行。やがて一人が遠慮がちに「見ましたよ」と言った。

「かなりつらそうだったから、我々と一緒に来ないかと誘ったのですが……聞く耳持ってくれませんでした」

 その言葉にアランとフローラは顔を見合わせる。フローラは真剣な表情で、

「それでアンディは今、どちらに?」

 と尋ねた。男は言いづらそうに頬をかいた。

「我々も、そのときは暑さでかなり苛立っていましたから。そんな態度を取るなら勝手にしろと、無視してきたのです。確か、この道をまっすぐ進んで行きました」
「わかりました。ありがとうございます。急ごう、フローラ、デボラ、皆」

 アランが率先して歩き出すと、仲間たちは文句も言わずについてきた。フローラはもうチロルの背には乗らず、自分の足でアランのすぐ後ろをついて歩く。彼女は小さくつぶやいた。

「アンディ……どうか無事でいて。無茶はしないで」
「必ず助けよう、フローラ」

 彼には言いたいことがたくさんある――アランはその台詞を胸の内にしまい込み、ただまっすぐに前を向いて歩いた。

 ふと、チロルが一声鳴いた。ドラきちとコドランが弾かれたように加速し、アランたちを追い抜いていく。道は、広い空間からやや天井の下がった通路へと様変わりしていた。右手に荒削りの岸壁、左手下方、かなり深いところには川のように流れる溶岩流がある。通路は緩やかに右へと曲がっていた。ドラきちたちはその奥へと飛び去り、すぐさま甲高い鳴き声を何度も上げ始めた。
 アランは仲間たちの言わんとしていることを敏感に察した。背後でチロルが四肢の力を込めて駆け出したことに気づくなり、小さく地面を蹴る。絶妙の機でチロルが彼を背に収め、そのまま急加速した。

 視界の先に、一人の青年が倒れている。

「アンディさん!」

 アランは叫ぶが、彼は横倒しになったままぴくりとも動かない。歩いているときに気を失ったのだろう。彼が倒れている場所は道の端で、下の溶岩路までほんのわずかしかない危険な位置――

 ――アランが見ている前で、アンディが倒れている地面が大きな塊となって崩れ落ち始めた。

「チロル!」
「がるっ!」

 最高速度まで加速したチロルの背から、アランは間合いを見計らいながら低く飛んだ。空中に投げ出されたアンディの体を何とか抱き留めることに成功する。だが、二人の体は溶岩の上にあった。

「きゃあああっ、アランさん!」

 フローラの悲鳴が聞こえた。

 アランは崩れた岩塊を踏み台にして飛ぶ。だがそれでもわずかに高さが足りない。パパスの剣を抜き、片手で岸壁に突き刺す。右手一本で空中につり下がったアランの足元では、崩れた岩塊が湿った音を立てて溶岩に飲み込まれた。

「アランさん、アンディ!」
「大丈夫だ! アンディさんも!」

 アランは叫ぶ。

 崖の上に顔を出したフローラは、必死にアランに向けて手を伸ばす。アランの拳までは、後先考えずに身を乗り出せば何とか手が届く距離で――

「世話が焼ける妹だよアンタは! 一緒に落っこちるつもりかい!」

 アランに手が届いた瞬間、ぐらりと体勢を崩したフローラをデボラが間一髪で支える。他の仲間モンスターたちも各々が慌ててアランたちの救助に当たる。最終的に、同じく剣を支えにしたサイモンの補助で、アランは何とか自身の身体とアンディを引き上げることに成功したのである。


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