小説『鎌の骨が鳴るとき』
作者:ぽてち()

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◆『忘れられた過去の栄光』

・いざ、古代遺跡へ



やはり、夜更かしというのは私にとってやってはいけない事の一つかもしれない。
元々、寝起きの悪い私。夜更かしをした翌日は、必ずと言っていいほど昼近くになって起きるのだ。
と言っても自力で起きるのでなく、アルフレッドに私の弱点である額を叩かれて起こされる。
もちろん、今日も昼近くまで寝ていたが、なんとか自力で起き、椅子に座ってぼうっとしていた。
まだとても眠い。瞬きをした度にそのまま寝てしまいそうになる。
私が暢気にあくびをして窓から見える空の景色を眺めていると、部屋のドアが開き、ふてくされた表情をしたアルフレッドが入ってきた。

「な、何かあったのかい?」

すっかり傷の痛みも消えて健康そのものになったアルフレッドに問うてみる。
しかし何も答えず、彼は勢いよくソファに座り、腕を組んでブツブツと愚痴を吐き出した。

「ったく、この頃のオシリス様はどうにかしてるぜ! 何で死神が探検家みたいな仕事をしなくちゃいけないんだよ!
死神は普通、魂を刈るんだろ? このままじゃ、鎌に埃がかぶるな」

「ちょっと……アルフレッド?」

もう一度声をかけてみると、アルフレッドは驚いた様子で私を見た。どうやら、まだ私が寝ていると思っていたらしい。

「ああ……ゴメン、気付かなかった。そうそう、ようやく依頼が入ってきたんだが……聞いてくれよ!
死神が古代遺跡の調査だなんて、ありえないよね? あーあ。総司令官がおかしくなると全部が狂う! これなら探偵でもしてればよかったよ!」

「わかった、わかったから落ち着きなよ、アルフレッド。詳しく話してくれるかい?」

なんとか彼をなだめて、その依頼について説明をしてもらった。
久しぶりの依頼で楽しみにしていたのだが、内容を聞いてアルフレッドは失望したらしい。
彼が失望したというその内容とは、先程も言った古代遺跡の調査だった。
場所は、人間界(現世)の東ベルク海に浮かぶベルク大陸から切り離された小さな孤島レリッジ。以前、少ししか読めなかったレリッジ語の発祥地だ。
本でしか読んだ事は無いが、大昔、レリッジは史上で最も栄えた都とまで言われていたらしいが、突然、人が姿を消して破滅したと言われている。
今現在、その都はグリウ・デ・ロと呼ばれ、時々近くの海域で亡霊を見かける事から、誰も近寄らなくなり、『忘れられた過去の栄光』という別名も付けられた。

全ての話を聞きおえた私は、椅子の背もたれに抱きついて顔をしかめていた。
そんな私の状態を見て、アルフレッドは腹を押さえて笑う。やはり、仮面が無くなったからか、笑顔がいつもより明るく見える。隠し事も無さそうだし、スッキリしたようだ。

「エドガー、そんな怖がる箇所なんて無かったよね? 俺達だって一種の亡霊なんだよ?」

「わかってるけど……なんか怖い感じがするんだよね。嫌な予感がしてたまらない」

「たかが調査さ。適当に見て回って調査報告を出せばいいんだ。なんの問題も無いよ。
……ただ、俺も一つ引っかかる所があるんだよなあ……」

「ほら! そういう風に余計な事を言うから怖くなるんじゃないか!」

「あーはいはい、ゴメンって。そう怒るなよ。ま、想像と現実って結構違う事が多いからね。もしかしたら、大して怖くないかもよ。
ほら、早く準備して行こう。あ、鎌は持たなくていいよ。調査だけだからね。持ち物? うーん……ランタンと果物ナイフくらいでいいよ」

アルフレッドに指示された道具を持ち、私達は死神荘を後にして人間界へとやって来た。
さっそく例のレリッジ島に降り立つが、想像より遥かに不気味さと気持ち悪いほどの静寂を漂わせていた。
ここ一帯は黒雲が空を覆っており、日光を全く通さないため、いつでも夜のように暗いらしい。
全く動かない空気にこの異様な重圧感。まだ一度も味わった事が無い感覚で、私は今すぐにでもここから逃げ出したかった。
アルフレッドはランタンに火を入れ、上にかがげて言った。

「思ったよりも広そうだな。こりゃ時間がかかりそうだ。さあ、行くよ、エドガー」

彼は全く怖がる様子を見せず、さっさと暗闇の中へ突入する。慌てて私も彼の隣を歩いた。
風化して所々崩れた外壁。住居の方は既に元の形がわからないほど崩壊しており、中に入る事はできない。
私達は都の大通りを歩き、巨大な石の建物の前に辿り着いた。

「なんだこれは。エドガー、地図を見てくれるかい?」

私は念のために持ってきたグリウ・デ・ロの全体図が描かれた地図を開き、ランタンの光で照らして見る。

「えっと……この建物は、簡単に言えば城みたいなものだね。中は大広間の一室しか無いみたいだ」

「ならここは最後だな。まずは周りを見よう」

そう言って左の道へ行くアルフレッドと、彼に着いて行く私。特に変わった所は無く、どこも同じように外壁が崩れているだけだった。
しかし、途中、道端に置かれていた大きな石像の前を通過した時だった。
私は誰かに見られているような感じがし、辺りを見回してみる。だが、変わったものは一切無い。
不思議に思っていると、突然、アルフレッドが足を止めて私に小声で話しかけてきた。

「やばいよ、エドガー。……何がやばいのかわかるかい?」

「いや、わからないけど……嫌な感じだけはわかるよ」

「そうだ。やっぱり君も死神として目覚めてきたようだね。今まさに、俺達は危機的状況に置かれている。
それは何故か。そこの石像を見てごらんよ。作り物だったらもっと表面が古くなっているだろう?
でも、まるで新品の石のように色が新しくて風化もしていない……これが何か、わかるか?」

考える間も無く、私の頭にはすぐにある文字が浮かんできた。

「ガーゴイルか!」

「その通り! さあ、逃げるぞ! 捕まったら一巻の終わりだ!」

私達が叫んで走り出した途端、石像が動き出し、大きな石の翼で羽ばたいて宙に浮かんだ。
大きな咆哮を上げると、逃げる私達を上空から追跡する。
炎を吐いたと思えば氷の塊を吐き、更には電気までをも私達に向かって吐き出した。

「おいおい、とんだ化け物だ。まさか現世に獣界(じゅうかい。一般的にモンスターと呼ばれる獣が住む世界)の奴らが住み着いているなんてね!」

「これからどうするんだい、アルフレッド? このままじゃ追いつかれるよ!」

「わかってる! 今なんとかするから待ってくれよ!」

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