小説『鎌の骨が鳴るとき』
作者:ぽてち()

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◆『地位比べ』

・仕方がない嘘



翌日、またしても私は最後まで寝ていたらしく、三度目の額への平手打ちを食らった。
死んだ原因が額の銃傷だったため敏感になっているらしく、熟睡していたにも関わらず私は飛び起きた。
少し強めに叩かれた額を手でさすり、まだ重い目蓋を開けると、そこには昨日まで瀕死状態だったアルフレッドが笑いながら立っているではないか。
フェリックスはというと、ソファに座り、片手にコーヒーが入ったカップ、もう片手には新聞を持ち、暢気に朝を満喫していた。

「アルフレッド、もう傷は大丈夫なのかい!?」

「なあに、どうってことないさ。そうだ、まず二人に話さなければいけない事があるね。まあ、エドガー、座りなよ」

思わず立ち上がってしまった私に座るよう勧めるアルフレッド。彼はベッドに腰を下ろし、私達が疑問に思っている事を話し始めた。

「まずは……そうだね、仮面の事から話すよ。
二人とも、嘘をついていて本当にすまなかった。本当の事を言うと面倒な質問をされるから、それが嫌で嘘をでっち上げたんだ。
この通り、俺には目はある。でも、俺は親父に似た目が嫌いで、顔が鏡に映る度、死にたくなった。
本当ならナイフでも突き刺して失明すればよかったんだが、何も見えないのは不便だと思ったから諦めたんだよ。
だからこうして死神になった時、仮面をかぶったんだ。別に目玉が無いと言えば誰にも怪しまれないしね」

「じゃあ、次は、あのジムが言っていた事についても喋ってもらおうか」

新聞を読むのを止め、視線をアルフレッドに向けていたフェリックスが質問する。
「今話すよ」と彼は言い、話を続けた。

「実は、ジムと俺は兄弟なんだよ。苗字が違うのは、両親が離婚して別々に着いて行ったからさ。
俺が母方の姓で、ジムが父方の姓。全く、兄弟揃って親より先立つなんて呆れるよね」

「どうしてそれまで隠していたんだ? 別に言ってもよかっただろ?」

「比べられたくなかったんだよ、フェリックス。わかってくれよ。アイツは頭脳明晰の天才。でも俺は特化した所なんて無い平凡な人間。
比べられて、俺が馬鹿にされて終わり……なんて事はもう目に見えてるだろ?
そして、俺の親父は兄より確実に劣る俺を、死ぬまでずっと馬鹿にし続けてきた。もう嫌なんだよ!」

アルフレッドは少々怒鳴ると、両手を組んで顔を下に向けた。
なるほど、そういう事だったのか。私もアルフレッドと同じ立場だったら、きっと同じ行動を取るだろう。
それからジムと兄弟だったとは驚きだ。でも思い返してみれば、確かに容姿と声質が似ていたかもしれない。
沈黙が続いた後、フェリックスは読みかけの新聞とコーヒーカップをテーブルの上に置いて、俯いたままのアルフレッドの頭をワシャワシャと撫で回した。

「ま、わからんでもないが、嘘はいけないな。今度やったら、『嘘付きのアルフレッド』って呼び続けるからな。
じゃ、俺は帰るぜ。また何かあったら呼べよ」

アルフレッドから手を離し、彼は私に挨拶すると部屋から出て行った。
そして私は思い出した。そういえば、まだアルフレッドに謝っていない。

「なあ、アルフレッド」

フェリックスの飲みかけのコーヒーを飲み干し、ケロッとした様子で新聞を読むアルフレッドに私が声をかけると、ちらっと私の方を向いた。

「なんだい?」

「そういえば、まだ謝っていなかったね。あの時は本当にすまなかった。反省しているよ」

私が心から謝ったにも関わらず、彼は目を丸くして首を傾げた。とぼけたような顔をして私を見つめる。

「……何の事だっけ?」



(END)

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