小説『IS〜world breaker〜』
作者:山嵐()

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6:イベントにハプニングはつきもの




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俺は突然現れた黒い全身装甲(フルスキン)のISのようなものを見て唖然とする。
なんだよ、あれ………!
ISなのか?
腕が異常に長いし、顔に付いているセンサーと思われる目のようなものが変に不規則だ。
バランスは悪そうだし、あんなセンサーの配置で視界もいいはずがない。
普通なら絶対使われることがないはずだ。
あんな機体が戦えるはずがない。
というかなんであんなのがここにいるんだ?
モニターが切り替わると、上空で待機している一夏と鈴が映った。
どうやら2人の決着がつく前に横やりが入ったらしい。

「試合中止!織斑、凰!ピットに戻れ!」

「ダメです!アリーナの遮断シールド、レベル4でロック!格納庫、各緊急避難用通路の扉も同様です!」

織斑先生の叫びに山田先生がシステムを必死に調べながら答えた。
ロックって………なんでだよ。
あいつとなにか関係があるのか?

『お前、何者だ!何が目的だ!』

一夏の声が開放回線(オープン・チャネル)を通して聞こえてくる。
間違いなくあの不気味なISにも届いているはずだ。
しかし、相手は答えない。
ただ不気味に空を見上げるだけだ。

「織斑くん!凰さん!すぐに先生たちがISで制圧に行きます!そこから動かないでください!」

「織斑、凰。すでに教員が緊急信号を受け取ってここに向かってきている。現在も待機していた3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除出来ればすぐに部隊を突入させる」

織斑先生のテキパキとした説明が終わるか終わらないかのうちに、人形が腕をあげた。
ちょうど並んでいる一夏と鈴の2人に拳を向けるような形だ。

「!!一夏!鈴!逃げろ!」

俺が叫ぶと同時に、赤みがかったエネルギーが人形の腕から放たれる。
2人はなんとか避けたものの、それを皮切りにレーザーが連射され始めた。
空中を赤い光が駆け抜ける。
シールドのレベルが最大であるのが救いで、観客席にまで相手の当て損ないの攻撃が届くことはなかった。
だが危険なことは変わりない。
どうする?
俺には何ができる?
考えろ………考えろ………。

『先生。先生たちが来るまで俺たちで食い止めます』

「何言ってるんですか!?ダメです!危険過ぎます!」

『鈴、いいな?』

『だ、誰に言ってんのよ!やるわ!やるに決まってんでしょ!』

「織斑くん!凰さん!聞いてます!?聞こえてますー!?」

山田先生の声はもう二人に届いていない。
すでに戦闘を始めた白式と甲龍に何を言っても無駄だろう。

「………まぁ、落ち着け。本人たちがやると言っているんだから、やらせてみてもいいだろう」

「お、織斑先生!?でも…!」

「こういうときは甘いコーヒーをだな………」

「え………?そ、それ塩ですよ………?」

「……………」

…………世界最強なのに…………。
砂糖と塩を間違っていれるなんてなかなかできないぜ。
めちゃめちゃ動揺してるじゃないか。
結局一夏のことが心配なんでしょ、先生………。
どうしてこう、あいつの周りの女性は素直じゃないんだろうか?
こんなときだというのに俺はやれやれとため息をついた。
箒をちらりと見ると、拳を強く握っていた。
多分、そうしないと今にも走り出してしまうからだろう。
目線の先にはアリーナでの激闘を映し出しているモニターが。
そこには攻撃を何度も避けられ続け、明らかに攻めあぐねている一夏と鈴の姿があった。
時計を見れば、試合開始からもう40分以上たっている。
一夏の武器は性能が性能だし、鈴の衝撃砲のダメージは残っている。
しかも瞬時加速も使った。
白式のシールドエネルギーはそろそろ限界だ。
鈴の甲龍もほとんど余裕はないだろう。
…………。

「山田先生すいません!あとで反省文は書きますから!」

「えっ!?ま、真宮くん!?」

動揺する山田先生を背に、俺は二人のもとへ急ぐのだった。








「なぁ、鈴」

「何よ?」

俺は鈴が作ってくれたチャンスを計4回無駄にしたところで、ある仮説が頭に浮かんだ。

「あいつの攻撃、機械じみてないか?」

「はぁ?ISは機械でしょうが」

「いや、そうじゃなくて…。あれ、本当に人が乗っているのか?」

あの不気味なIS。
何を考えているか、まったくわからない。
そこがおかしい。
今もまったく攻撃をしてきていない。
なぜだ?
普通、敵がこんなに話をするのをただ待っているはずがない。

「あり得ない。ISは人が乗らないと動かないようにできてるもの」

「…………仮に、仮にだ。あいつが無人機だったら?」

「…………なに?無人機だったら、勝てるって言うの?」

「無人機だったら全力で攻撃しても大丈夫だしな」

「…………?作戦でもあるっていうの?」

俺は口を開きかける。
しかし、言葉を発する前に閉じなければならなくなった。


ズドオオオオオン!!!


突然の轟音が辺りに響き渡る。
地表から数メートル離れていても伝わる衝撃が嫌な予感をよぎらせる。

「な、何!?」

鈴が驚きの声で俺は我に返った。
アリーナの中央付近からもうもうとした土煙が上がっている。
敵の何らかの攻撃ではない。
それのちょうど隣に、何かが落ちてきたのだ。
俺は解像度を最大まで上げてみる。
煙の中からゆっくりと、もう一機のISが姿を現した。
よく見ると、いや、よく見なくても、間違いない。
今戦っているISと同じやつだ。
似ているとかそういうレベルじゃない。
同じだ、すべて。

「えっ…!?も、もう1体!?」

「くそっ……!なんだよ……!なんなんだよ!」

まずい。
こちらはエネルギーが限界。
対して相手側はほぼ無傷。
しかも、完全に無傷のやつが追加された。
恐らく、外見と同様に機体のスペックも同じだろう。
作戦でどうこうなる問題じゃない。
無理だ、勝てない。

(ダメだ!心まで折れたら終わりだ!)

必死で闘志を燃やす。
しかし、それはとても弱々しく、風が吹けば消えてしまうようなものだった。

「鈴!俺に――――」

「一夏!あんたは逃げなさい!あたしが何とかする!」

「なっ……!何とかするってどうするんだよ!」

「そんなのあたしにもわかんないわよ!」

俺が反論する前に、ガラスが割れるような音が響いた。
清んでいて、だけれども激しいその音に俺も鈴も、そして敵も、無意識に気を取られてしまった。
首を素早く動かす一瞬がとてもゆっくりに感じられた。
目に入ったのは大きく空いた穴。
観客席のあたりのシールドがなぜか破壊されていた。
だがそこには何もない。

「鈴は本当に行き当たりばったりだな」

「「「「!?」」」」

ミシリ、という今度は何かがひしゃげるような音が聞こえたかと思えば、続けざまに謎の2機体がアリーナの壁に激突する爆音が鼓膜を震わせた。
…………ああ、そうか。
いなかったわけじゃなかった。
見えなかったんだ。
吹き飛ばされた2機の黒いISの代わりに、別の黒いISが1機、その場所に立っていた。
操縦者はいつものように人懐っこい笑顔をこちらに向けた。
その笑顔はいつもよりも優しく、頼もしく見えた。

「そこがいいとこだけどな」









我ながらナイスタイミング。
ちょうど敵機が追加された時にアリーナの観覧席に到着。
展開していた朧火で無理矢理シールドバリアを破壊し、同時に瞬時加速。
初めてにしては上出来だったと思う。
で、並んで立っていた敵を二機、まとめてぶっ飛ばした。
アリーナの脇まで飛んでいった未確認ISはしばらく動けないはずだ。

「大丈夫か?まったく、お前ら無茶にもほどがあるぜ」

「信!どうやってここに!?」

俺が一夏と鈴に近寄って声をかけると、まだ立ち上っている砂ぼこりを見ながら、一夏が俺に質問した。

「あー…………ここに来るまでロックされた扉を無理矢理ぶっ壊した。で、今シールドも壊した。正直、この戦いが終わったあとの織斑先生のほうが怖い…」

「「あー……」」

二人とも苦笑い。
俺より織斑先生と付き合いが長いから、罰則の想像がしやすいんだろう。
…俺もだいたいわかるけど。

「ま、今はそれより、あいつらだ。何なんだ?そろそろ立ち上ってきてもおかしくないぞ?」

先ほどの攻撃は所詮ただの蹴りだった。
当たりどころがいくら悪くても、倒れている時間が長すぎる。

「ああ。あいつらたぶん、人が乗っていないからだ」

「……嘘だろ」

「ほら!そんなことあり得ないのよ!一夏!」

鈴がここぞとばかりに食って掛かる。
一夏は『だってさぁ…』と言い返している。

「まぁいいや。で、勝機は?」

「お前が協力してくれるなら、ある」

「じゃあ勝てるな」

俺と一夏は顔を見合せ、ニヤリと笑う。
鈴は『まったくこのバカたちは………』みたいな顔してる。
言い返そうとしたが、そんな暇はすぐになくなった。

――熱源感知。一時の方向から射撃。

瞬光から送られてきた情報通り、ビームがとんでくる。
俺達は急上昇してそれをかわした。
ユラリと2機のISが姿を現す。
どうやら休憩時間は終了らしい。
見れば見るほどそっくりなISだが、蹴りが頭に入ったやつは頭が少しへこんでいた。
おお。
目印になってちょうどいい。

「俺は頭がへこんだやつの相手をする!もう片方は任せた!」

「わかった!鈴!」

「聞こえてるわよ!」

「俺が――」

一夏の声は聞こえていたが、目の前のIS(へこんだやつ)は俺にその内容まで理解させるつもりはないらしい。
再びビームを撃ち込まれた。

「っと!上等だ!覚悟しろよ!」

俺は体をひねって必要最小限の動きでかわす。
セシリア戦でも使った、お得意のビーム回避法だ。

「いくぞ!」

回避してすぐ、懐めがけて加速する。
瞬時加速こそ使っていないが、普通なら反応できないであろう速さだ。
相手は無駄に長い腕を振り回し、俺を殴ろうとする。
俺は後退と前進、敵の死角に入っては出てを繰り返して、ヒラリヒラリとかわす。
でも、相手も馬鹿じゃないらしい。
タイミングをずらされ、避け損ねた拳が左からとんでくる。
この速さに反応してくるとは、やるじゃないか。
だけど……

「甘い!!」

俺は拳を両手でつかみ、右足を軸にして、体を勢いよく回す。
しかも、腕のスラスターで瞬時加速を部分的に発動させ、勢いをプラス。
俺は黒いISをアリーナの地面に向かって投げ飛ばす。
物体が巨大であればあるほど、一般的に質量は重くなる。
例にも漏れず、普通のものと比べてかなり大きな無人機ISはかなり重かったらしい。
機体の激突を避けるため、無理矢理上昇させようとするエネルギーは気休めにもならず、勢いそのままで見事に地面に激突した。
衝撃でえぐられた地面がその激しさを語っていた。

「よし!いち――」

「一夏!!」

「え――――」

アリーナの観客席。
そこから声が聞こえた。
走ってきたのだろう、ポニーテールが少し乱れている。
俺の言葉を遮ったのは、箒だった。
どうやら壊れた扉を通ってアリーナまで来てしまったらしい。

「男なら…男なら!そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

んなこといってる場合か!?

「箒!逃げろ!」

一夏たちの戦っているISが箒の方に照準を合わせ、ビームのチャージを始める。
それを止めに向かおうとしたとき、先ほど投げ飛ばしたやつが脇腹に突撃してきた。

「しまっ……!」

失敗した。
無人機なんだから、痛いという生命的な感情はもちろんない。
だから、痛みに対する怯みもない。
すぐに立ち上がって再び戦いを挑んでくるのは当たり前なのだ。
こんなことならさっさと戦闘不能になるまでボコボコにすりゃよかった。
衝撃に俺の視界が揺れる。
ぶれた世界の中で、敵の腕にポッカリ空いた不気味な穴がこちらに向いているのを辛うじてとらえた。

「ぐっ…!くそっ!」

俺は怒りにまかせて相手を殴ろうとする。
しかし殴るのよりも先に俺に光線が当たった。
腹に強力な熱線をくらって、その衝撃で気を失いそうになる。
思わず腹を抱え込むような体勢になり、視野から敵が消える。
気付いたときにはもう遅い。
もう一度視野にとらえる前に右から強烈な打撃攻撃をくらう。
何とかこらえたが、エネルギーを大分持ってかれた。
しかし一番の問題は、もう俺には箒を助ける時間がないということだ。
声にならない叫びを上げて、再び突撃してきたISを踵落としで地面に叩きつける。
敵はまたもや地面に激突。
落下地点から、砂ぼこりが上がる。
追撃に転じつつ、一夏への回線を開く。

「一夏っ!頼む!!」

「任せろ!」

そう言った時にはすでに一夏は鈴の龍砲を背中にうけ、瞬時加速。
雪片弐型で敵に斬りかかっていた。

ザシュッ…!

雪片弐型が敵の腕を切り落とす。
切り口からは血は出ず、オイルのようなものが吹き出した。
腕を失ったにもかかわらず、躊躇なく相手は残った腕で一夏を殴り飛ばす。
そして、無防備な一夏のまさに目と鼻の先でビームのチャージを始める。
自分の割り当ての敵を組伏せつつ、俺は目一杯の声で叫んだ。

「離れろ!!」

俺の叫びを聞き、ニヤリと笑う一夏。
安心しろとでも言うように。

「狙いは?」

『完璧ですわ!!』

一夏の呼び掛けに答えたのはセシリアだった。
専用IS『ブルー・ティアーズ』を展開し終えて、すでに攻撃体勢を取っている。
ビットの照準は寸分の狂いもないだろう。
そこから放たれるビームが敵に当たり、一夏から離れるように後退する。
敵はよろめいて少し怯んだように見えた。
ダメージが蓄積し、機体制御システムがうまく働いていないのだろう。
自然と声が出ていた。

「撃て!セシリア!」

『了解ですわ!』

俺と一夏に答え、手に持った銃器『スターライトmk&#65533;』の引き金を引く。
放たれた光線は敵の体の中心部を撃ち抜いた。

「やっぱいい腕し――」



―――熱源感知。下方から射撃に注意



反射的に下を見る。
両手両足を俺に押さえつけられている残りの一匹の胸部がパッカリと開いていた。
そこにあったのは、高密度のエネルギーを充填し終えた銃口、というよりも穴。
瞬光からの情報に従い、素早くやや左斜め上に上昇、回避行動をとる。
その瞬間、アリーナのシールドすら突き破るほどの強力な一撃が空に延びていった。
………冗談だろ?
シールドのレベル、普段の何倍でロックされてると思ってんだよ。
冷や汗が流れる。
しかし、恐らく今の反動だろう、敵の動きが止まった。
今がチャンスだ。
これをそう何度も撃たれちゃたまったもんじゃない。
朧火を展開して急接近しようとした矢先、嫌な予感がした。
こいつが撃てるってことは………。
勢いよく目を向けると、俺の予想は当たっていた。

「っ!!一夏っ!」

「へ?」

『一夏さん!』

「一夏!まだあいつ動いてる!」

俺たちの叫びに、一夏が先ほど撃破したはずのISを見る。
動けるはずのないほどのダメージを受けながら、胸の発射口だけを一夏に向けている。
やばい。
あいつも今のを………!

「うおおおおおおおおお!!!」

一夏が雄叫びを上げて斬りかかる。
刹那、白式が淡いピンク色の光線に包まれた。
頭が真っ白になる。

ザシュッッ…!

光線に包まれるのとほぼ同時に、雪片弐型が今度こそ敵を仕留めた。
光線が消えると、白式も待機状態のガントレットに戻った。







「一夏!!」

鈴は倒れている一夏に駆け寄る。
うつ伏せから仰向けに体勢を変えさせ、無事を確認する。
どうやら気絶しているだけのようだ。
信が敵を殴り飛ばしてから鈴の隣に来てしゃがむ。

「鈴!大丈夫か!?」

「うん、なんとか。一夏もただ気絶してるだけみたい……多分、一夏の武器がエネルギーを相殺したのね………あれに巻き込まれて無傷なんて、普通ありえない………」

「そうか………」

不安そうだった顔が安堵の表情に変わる。
しかしそれは一瞬で、信はすぐ真面目な顔になった。

「セシリア。箒を頼む」

『えっ!?』

「頼む」

『わ、わかりました!』

セシリアとの回線が切れた。
信はアリーナの観客席から2人がいなくなったのを確認し、鈴と向き合う。

「鈴、一夏を運んでくれ。俺は―――」

「まさか、1人で戦うとか言うんじゃないでしょうね?」

「………鈴」

「駄目よ!あたしも戦う!今ここで一番強いのはあたしなんだから!」

「………甲龍、もうエネルギー残ってないだろ?あんなにバカスカ衝撃砲撃ってたんだから」

「うっ…………しょ、しょうがないじゃない!当たんなかったんだから!」

「まだ避難が終わってないから、そっちの方を手伝ってくれ」

「だから!あたしも!」

信が柔らかく微笑んだ。
心臓が高く跳ねる。
こんな状況なのに、顔が赤くなった。

「あいつは俺の担当だろ?任せとけ」

とても固いはずなのに、ISを展開したままの信の手は優しく感じられた。
鈴は頭に手をのせられたまま、信の顔を見る。
優しくて、だけど決意に満ちていて。
とても。
とてもとても、かっこよかった。

「そんな顔されたら……………何も、言えないじゃない………」

「ん?」

「うるさいっ!いいわ!わかったわよ!あんたなんかさっさとあいつ倒して帰ってくればいいのよっ!」

「……ははっ。おう」

「すぐよ!すぐだからね!あたしを待たせたら承知しないから!」

変な強がりを言って、一夏を抱えた鈴はアリーナから脱出した。










「さてと……」

右手に朧火を展開させる。
今回は形を指定せず、拳に纏ったままにしておく。
直接ぶん殴ってやりたかった。
一夏を気絶させたことに怒っているのは、ないわけではない。
けれどそれ以上に、試合の邪魔をしたのが許せなかった。
鈴がどんな思いで戦っていたのかわかっていたのか?

「………いくぞ」

相手の両腕の砲門からビームを放たれる。
だが発射されたときはすでに俺は上空にいた。
さっきまでいた場所に光線が炸裂。
瞬間、爆発する。
敵機が俺を探して頭を動かす。
数秒で上空の俺に気付き、もう一度照準を合わせるためにこちらを向く。
チャージが始まる。
このタイミングで瞬時加速を発動。
数十メートルの距離を一気に詰められ、次の行動の選択にもたつく敵機。
結果、胸部からの超高密度エネルギーの発射を取ったらしい。
パカリと空いた穴の中はまったく底知れない。
だが俺にとってそんなことはどうでもいい。
何を今さらしたって、間に合わない。

「じゃあな、化け物」

懐に入り、拳を握り、腕だけ部分瞬時加速させて右ストレートを放つ。
この間およそ二秒。
通常の何倍の威力にもなった朧火を纏う拳は、全身装甲の機体に風穴をあけた。
ちょうど、例の砲門のところだ。
胸部に集まっていたエネルギーは収束所を失い、消化不良を起こして全身を駆け巡る。
バチバチと怪しげな音がしたかと思うと、空気が抜けるように力なく敵の四肢が垂れた。

ドォォォォン!!

ISは目の前で爆発した。
もちろん近くにいた俺も爆風に呑み込まれたが、まだシールドエネルギーが残っていたので俺自身にダメージが及ぶことはなかった。
つくづくISって便利だ。

「よし。これで――」

『お帰り……』

突然、頭の中で声が聞こえた。
同時に心臓を掴まれているような感覚が俺を襲う。
息が、出来ない。
苦しい。

「ぐっ…はっ……!だ……れ…だ?」

『また、戦うんだね……?』

目の前が真っ白になり、その中心に少女が立っている。
何だか昔から知っているような気がする。
少女は嬉しそうな、悲しそうな、あるいは困ったような不思議な顔をしている。
そして、俺に手を差し伸べる。

『必要になったら、呼んでね。助けるよ。君を――』

そこで俺は気を失った。

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