ここはどこだろう、もう、ずっと歩いている気がする。
いくつもの坂を上り、下り、
石垣の高い家の横を通って、
まだ咲かない古桜を眺めて、
青空を閉じこめた小さな水溜まりを飛び越えて、
いつになったら帰れるのだろう。
誰にも会わない。
誰にも会えない。
私だけが歩いていて。
私しかここにいない。
ずっとずっと歩いているのに、誰ともすれ違うことなく、景色がただ流れていく。
どこか現実離れした、夢の中にいるような時間が過ぎる。
暖かい日差しの中、時折冷たい風が吹き、私のむき出しの足を傷つけていく。冷たさを感じると言うことは、これは夢ではないんだろう。
夢ではないが現実とも思えない。
現実と全く同じ、しかし少しだけずれた世界に迷い込んでしまったのではないかと、非現実的な不安が私の胸をちくちくと刺す。
痛くはない痛みだが、このまま放っておけば、私の心臓は不安で動かなくなってしまうだろう。
小さな段々畑を通り過ぎ、池のある小さな神社を横に見る。
左右を低い石垣に挟まれた、細い道。
急な上り坂。
私は立ち止まり、後ろを振り返って、
後悔をした。
*
『妖精異録・三月 バイカ 』