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祖父母は信心深い人だった。
仏教を信仰していたけれど、しかし特定の宗教にのめり込むようなものではなくて、暮らしの中の一つの要素、習慣として、伝統としての信仰だった。
だから色々な宗教が混ざっていて、家には神棚があったし、弟が生まれるときは安産祈願にどこか遠くの神社まで行った。
その祖父――おじいちゃんが言った。
「道に迷ったら、ぜったいに振り向いちゃぁいけないよ。目があった神様が、つれていってしまうんだ」
今さらだと思う。今さらおじいちゃんの言葉を思い出してももう遅い。
振り返ってしまったのだから。
だけど下り坂の先には神様なんていなくて、私が歩いてきた石垣に挟まれた細い道を見下ろすだけだった。
少しほっとした。
いつの間にか祖父母の影響を受けて、私も神様のことを心のどこかに刷り込んでいたみたいだ。
そういえば、おじいちゃんは妖怪のことも信じていて、色々な話を教えてくれた。
道を歩いていて、目の前に壁があるみたいに進めなくなったとき、その足下を枝で払うといいんだっけ。念のため、強調するけど本当に念のため、坂道を見下ろしたまま枝が落ちていないか探してみた。
「あれ?」
脇道発見。
自転車に乗っていたら絶対に上がれないような急で細い道が、石垣を割って伸びていた。
このままもとの道を行くのも飽きてきたし、ここは一つ、あの細道を上ってみますか。
行きはよいよい、帰りは怖い。
だから帰りは別にしよう。