小説『バイカ』
作者:今田()

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  *


 出られない。ここから外に出られない。


 来ては行けない場所に来て、


 閉じこめられた。


 帰れない。


 私は二度と、帰れない。
 

 どうしよう、どうしたらいいんだろう。

 梅の甘い突き刺すような匂いが、

 鼻孔から頭のてっぺんへと抜け、

 私の頭を茫洋とさせる。

 ああ、融けてしまいそうだ。

 くるくると回る。

 終わりを求めてくるくると回る。

 逃げているのは少女か鬼か。

 追いかけるのは鬼か少女か。

 白く細かい花々が華やかに舞い、

 時間の感覚も、上下の感覚も、自分がだれなのかすらも、そのとろけるような匂いが忘れさせる。

 歩き続け、

 角を曲がり、

 そしてようやく少女の姿。

 ああ見つけた。ようやく見つけた。

 今度はあなたが鬼のばん。今度は私が逃げていく。

 鬼さんこちら、手の鳴る方へ。

 髪の長い女の子は、何も気付かず歩いている。

 私はそっとそっと近づき、

 その華奢な肩に手をのばし    

-9-
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