小説『IS ―世界を守護せし狂王―』
作者:悪名高き狼()

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 第一幕 - 神座 -




まっさらな空間。



ただ白く。果てし無い。



あるのは無駄な装飾の無い椅子。



そこへ足音を響かせながら近づいてくるナニカ。

光の粒子が集まり人の形へと形成される。

豪奢な皇族を思わせる衣服に身を包み深い蒼色の外套を翻しながら歩み寄り流れるように座る。



灰銀色の髪に蒼い瞳をして、端正な顔立ちをしたうら若き青年。



ラインフェルト・Z・ブリタニア



死後、世界と契約し『守護者』として生きて来た彼にとっては見慣れた景色。帰る場所。

そして、出会ったばかりの頃は嫌悪感を感じていたが、今となっては何も感じない。

感じた所で意味も無いと判断した『雇い主』と唯一、対話できる場所。



「あぁ、お帰り。御苦労だったね。」



何時も聞こえるのは何処か芝居がかった言動。

姿は無く、声のみ。しかしそれだけで全てを知り尽くした様な印象と不快感を与えてくる。



「・・・その喋り方は如何にか出来んのか、と言った処で無意味なんだったな。カリオストロ」



「理解して貰った様で助かるよ。ラインフェルト。」



白い空間に響く姿無き声。カリオストロ。

しかし、ソレは本当の名前では無い。数多くある物の中の一つに過ぎない。

以前、呼び名について聞き出したところ名乗った名前。

そもそもコレには名前などと言う概念は無いのかもしれない。



「今回の舞台はどうだったかね?感想を聞かせて貰いたい」



相変わらずな口調と道化の様な言い回し。

相手を不快にさせる事に関してはコイツの右に出る者は居ないと思っている。

余談だがカリオストロは、『ボロボロのローブを纏った揺らめく影のような姿』

(ラインフェルト談)



「・・・・問題は無かった。今回も貴様の望んだ様に終わったよ。」



「そうか、なら良いんだ。礼を言わせて貰おう」



おそらく頭でも下げているんだろうとラインフェルトは思う。

姿こそ見えはしないが、そんな感じがする。



カリオストロとラインフェルト

二人はどういったものかと聞かれれば、ズバリ。



神と守護者



カリオストロは無数の未来のうちの1つをを進んでいるに過ぎないという「平行世界」の概念と、

複数の全く異なる世界が存在するという「並行世界」の概念を生み出した張本人。だから神。



守護者とは神であるカリオストロの代わりに

その「平行世界」と「並行世界」を巡り異変が起こりそうなら解決し、多少の変化があってもカリオストロの望んだ結末どうりに終わらせる。

それが、ラインフェルトの役目。



ラインフェルトはカリオストロが生み出した世界から生まれる。

その生涯を気に入れられ、自らの未熟さが招いた悲劇の罪を永遠に背負い続け、償い続ける為、永遠の生を条件にカリオストロの触角として、守護者になる。



しかし何故、触角と言われる存在が必要なのか?

神であるカリオストロの存在は強大であるために、自分の生み出した世界の中にいる事が出来ない。

その神が自分の世界の中で起きていることを見聞きするために触角と呼ばれる存在が必要となるのだ。



ラインフェルトが死に、魂を当時の触角が回収。

カリオストロが肉体を再構築し、利害の一致により新たな触角として守護者の任について貰っているわけである。



「でわ、新たな舞台に行って貰っても良いかね?ラインフェルト。」



「それは構わんが、せめて人が主要人物のモノにしてくれ。・・・もう人以外は暫らくいい。」



・・・・・つい先程までいた世界はどんな所だったというのだ。



苦言を漏らしながらも椅子から立ち上がり歩き出す。

見ればその先の床には巨大な円を基に様々な文字で構築された陣があり、ソレの中心まで辿り着くと立ち止まる。



「それは済まなかったね。だが安心したまえ、次なる舞台は人間が主役だよ。」



「まぁ・・・・なら良いんだがな。」



「IS<インフィニット・ストラトス>・・・女尊男卑社会が確立した世界だね」



「私からすれば、どの世界でも女性は尊いと思うがな・・・」



表情の少ない彼からすれば珍しい笑みがこぼれる。

それが合図の様に光が彼を包み込む。

同時に高速で回転を始める円陣。足から順にゆっくりと呑み込んでいく。



「では、必要な情報などは何時もどうり。」



「分かった。・・・行ってくる。」



「健闘を祈ってるよ。」



やがて全身を呑み込み、彼がいた痕跡はもはや無い。

高速回転を続けていた円陣は徐々に速度を落とし、ゆっくりと元の位置へと戻っていく



再び来る静寂。

まっさらな空間にはカリオストロの声だけが響き渡る。



「その筋書きは、ありきたりだが」



道化のように



「役者が良い。至高と信ず。」



芝居がかった声で



「ゆえに・・・・・面白くなると思うよ。」



――――――今宵、ここに彼の英雄譚の幕開けを・・・

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