小説『IS ―世界を守護せし狂王―』
作者:悪名高き狼()

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 第二幕 - 転送 -




現状を説明しよう。

今現在、私はIS<インフィニット・ストラトス>の世界に来ている。ソレは良い。あっている。

・・・が、問題は今の状態にある。


「・・・何故!奴は何時もろくな転送をやらんのだ!!」


落下中なのだ。

上空二万メートル辺りから。

海面に向かって。

怒号をここで放っても意味はなし、はっきり言って時間が無い。
こんな事をしている間に、高度は一万五千メートルは切ったはずだ。
いくら永遠の命、不老不死なんて人外スキルを持っていようとも元は人間だ。
推定時速200キロでコンクリートと化した海面に落下なんてしてみろ・・・・。


「・・・まぁ、今に始まった事では無い。あぁそうだ。コレはまだマシな方だ。」


いまだ碌に身動きも取れず高速で落下し続ける。
刻一刻と近づく海面を背に、深い蒼色の外套はバタバタと音を轟かせている。
広げていた腕を組みだす。


「――――――――――――――――。」


冷静。危機的状況においてコレを失えばまず碌な事がない。
普通の人間は体一つでスカイダイビング。加えパラシュート無し。
それもいきなり空の上に放り出されれば、冷静では居られない。
しかしながら、彼は違う。冷静でいられる。正確に言えば、冷静でいられるようになった。

カリオストロの依頼で巡った世界は数えきれない。
彼自身の認識を既に超えてしまったから。
故に、その数だけ理不尽かつ出鱈目な転送を受けて来た。
それはもう習慣じみたモノであり、彼自身慣れてしまった。
ならば、今のこの状況は彼にとっては些細な事でしかない。
初めから障害にすらなっていない。


「飛行・・・する必要があるな。海面に立つなど流石に無理だ。」


やるべき事は落下を止める事。だから飛行、空中に停滞する必要である。
既に海面との距離は五千メートル程。
このまま行けば、赤い鮮血の花が咲く。


「・・・・『IS』、か。女性にしか反応、起動しない兵器。」


そう、この世界における絶対のルールであり、法則。


――――――だが。


「そんな事は私には関係が無い。」


手を横へと振りかざす。
直後、光の粒子が彼の体を包み込み――――――海面が爆ぜた。

響く爆音。白く巨大な水柱が聳え立つ。

空まで撒き上がった水飛沫は次第にはれてゆく。
淡く銀色の光が球形になって現れる。
やがて解放されていたソレは、人型へ形成される。

白銀と漆黒。六枚の翼。
陽光を銀が反射し、白と蒼がソレを浴び輝きを増す。


<起動を確認。―――――皮膜装甲展開・・・・完了。――――推進機正常作動・・・・確認。――――ハイパーセンサー最適化・・・・終了。>

『IS』から伝えられる情報によって更に鮮明になっていく世界。
カリオストロから受け取った情報と合わせより明確になっていく。


「これは――――。成程、フローレンスを流用したのか。」


つくづく彼にとっては都合が良い。
こんな事に関してはカリオストロに感謝しなければと、彼は思う。
その間にも『IS』は処理を進めてゆく。

『初期化』と『最適化』。

膨大な情報が次々と映し出され、それに応じてか外装も変化し始める。
慣れ久しんだモノもあれば、新たなモノもラインフェルトの頭に流れ込んでくる。


――――考えたモノだ。これだけ装甲が少ない物だから怪しんではみたが、必要無いみたいだな・・・・


「さて、如何するかな・・・。見渡す限り、一隻の船すら見当たらんしな。」


眼下に広がるのは水平線まで続く青一色。天候はコレでもかと言わんばかりの快晴っぷり。
始めて扱う機体の感覚を掴むべく色々やっていると、今も止まる事無く処理を行っている
『IS』が幾つかの情報を映し出した。


<現在地、日本領海内。『IS学園』より――――――>


眼前に『IS学園』の情報と方角、距離などが映し出される。

『IS学園』―――――IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。
学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されない。


「・・・ソコヘ行けと・・・言っているようだな。」


ISに示された方に顔を向ける。
それに連動してハイパーセンサーとファクトスフィアが同時に作動し
目的地を補足する。


「頼りなど最初から無いんだ。なら、行ってみるしかないか。」


そう言うと態勢を整える。と、その瞬間――――


<フォーマット及びフィッティングが終了しました。>


一次移行(ファースト・シフト)が終わった事を伝える。
今まで処理されていた膨大なデータが整理されていく中、より洗練されていく機体。
初期展開時に比べ、感覚がより明確になっていく。
まるで、己と一体化したような。元から体の一部だったかの様な感覚。

新たな機体の変化に表情こそ変わらないが驚き、感心したように笑みをこぼす。
しかし、直ぐに感情の感じられないものへと変わる。


「さて・・・・行くか。」


六枚の翼が羽を広げる様に展開し始める。
そしてゆっくりと速度を上げ始め、出力を高めていく。
数秒の内に、最大速度まで上昇した機体は一瞬で姿を消した。

その場に残ったのは、先程と比べると若干小さい水柱だけだった。

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