小説『IS ―世界を守護せし狂王―』
作者:悪名高き狼()

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第十幕 - 理由 -



時間は少しだけ遡る・・・


 ◇


「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿に、得体の知れない記憶喪失者なんかに任されては困ります!私はこの様な島国にまでIS技術を修練しに来たのであってサーカスをする気は毛頭ございませんわ!」


机を叩き、立ちあがるセシリア・オルコット。
それは教室に響き、視線が彼女に集まる。
私からは後ろ姿しか見えないが、そうとう頭に来ている様だ。


「いいですか!クラス代表とは実力トップがなるべき、そしてそれは私ですわ!」


胸に手を当て、声高らかに宣言する。
相応しいのは自分だと。


「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてわいけないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で――――。」


後進的・・・か。
しかしだ、セシリア・オルコット。
日本文化も素晴らしい物だと思うぞ?

それに、君はこの国を馬鹿にしている様だがISを開発したのは日本人である『あの女』だ。
技術面で言えば君の国は日本より劣っている訳でなんだが。

まぁ・・・私の居た世界ではソチラの技術で劣ってしまい蹂躙され、侵略されてしまったがね。

そんな日本を取り戻そうと彼女が・・・彼らが命を懸けて戦い。
母上が愛し、妹が想い続けた日本を侮辱するなら――――――――――。


「イギリスだって大したお国自慢無いだろう。不味い料理で何年覇者だよ。」

「な!あなた、私の祖国を馬鹿にしますの!?」

「・・・・・・・・・。」


先を越されてしまったか。
さすがに彼も自分の生まれ故郷を馬鹿にされれば黙っていられないか。

それはそうと、織斑一夏。
セシリア・オルコットの味方をする訳ではないが
イギリス料理が不味いのには理由がある。

イギリス料理が不味いのは、イギリス人自身が認める所なのである。

他国の料理をけなすのは、その国の文化を差別するという考えがあるが、
そもそもイギリスには美食文化が存在しなかったのであり、それを理解しない事は、
ある意味、イギリス文化に対しての無理解であるとも言える。

イギリス人は料理には無関心なのが伝統であり、料理に関心をもつ他国の習慣をむしろ侮蔑し、
「料理なんてものに大切な時間や神経を浪費するなんてばかばかしい」と発言するイギリス人もいる。

ちなみに、なぜこれほどにまで不味いと言われるのかというと、
野菜は本来の食感がわからなくなるほど茹でる、油で食材が黒くなるまで揚げるなどといった、
イギリスでよく行われる、食材本来の味を残さないほど加熱する調理法が他国人には好まれないからである。

しかも食べる人の好みに応じて塩や酢などで味付けされることを前提としているため、
調理の段階で味付けらしい味付けはされないことも多く、不慣れな旅行者は
味のない料理に困惑することになる。

実際、現在においてもイギリスのレストランの多くにおいては、高級店であっても、
塩や酢などの調味料がテーブルに並び「客が好みで味付けすべし」という状態であり、
他国では考えられない状態である。結果としてイギリス料理で美味しく食べられるものは、
せいぜいローストビーフやステーキ程度という評判が定着してしまった。

またこのような過剰の加熱が行われるようになった一因には産業革命以降の労働者の居住環境が上げられる。

当時、都市居住の労働者階級の家庭では、新鮮な食材を入手することが困難であった。
これに食物を加熱殺菌することが奨励された当時の衛生学の啓蒙が相まって
必要以上に食材を加熱する調理法が伝統化したという側面もある。

あくまでも例として解説すると、イギリス料理での調理の際には食材や調味料を豊富にはそろえない。
砂糖や塩、コショウなどの香辛料、トマトやセロリ、レモン、リンゴ、ワインのような
色や味付けに使う野菜、果物、果実酒を使わない。
(使っても微々たる物で、最後は塩コショウ、ソースで「仕上げ」をする)


「美味しい料理だって沢山あります!」


そのとうり。
ココまで散々語って来たが、彼女の言う様に『美味しい料理』は存在する。

伝統的なイギリス料理からは外れるが、例えばカレーだ。
カレーはインドが発祥とされるが、それを世界に広めたのはイギリスであり、
広まったカレーもイギリスによりアレンジされたものである。

そういう意味においては、現在のイギリスでも「美味しい料理」は存在する。
言葉を変えれば、イギリスで美食文化が成立する以前に他国の食習慣が流入した、
あるいは他国から流入した食事メニューはイギリス料理の範疇には加えられなかった、という事である。

そのためイギリスにおける外国料理、例えば中華料理やインド料理の店には、
長い伝統がある場合も珍しくない。

「チキンティッカマサラ」のように、イギリス発祥のインド料理も存在する。
最近ではフランス料理や、イタリアをはじめとする地中海料理、さらにはそういった
外国の料理の影響を受けた料理店も存在する。

そして近年では伝統的なイギリス料理を改革した「モダン・ブリティッシュ・キュイジーヌ」と
呼ばれる新しいイギリス料理の潮流が生まれ、美味しい料理を食することは難しい事では無くなっている。


―――って、何を説明しているんだ私は・・・バトレーの奴め、くだらない


意図的にあらゆる知識を植え込まれた彼は、それを行った今は亡き人物に対して不満を漏らす。
傍ではセシリア・オルコットは決闘を申し込み、それを受ける織斑一夏。
恐らくその中には自分も含まれているんだろうと察し、更に溜め息をつく。


「ワザと負けたりしたら私の小間使い――いいえ、奴隷にして差し上げますわ。」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない。」

「そう?なんにせよ、ちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこの私、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわ。」

「ハンデはどの位つける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどの位ハンデをつけたらいいのかなーと。」


――阿呆か、アイツは・・・


織斑一夏のその言葉にクラスからドッと爆笑が起こる。
そんな事を今、この世界で言えば当たり前の反応だ。


「織斑君、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのなんてISが出来る前の話だよ。」

「むしろ男と女が戦争したら三日は持たないって言われてるよ?」


先の授業でも言ったようにISは現在、『戦闘機』『戦車』『戦艦』といった
過去の兵器を遥かに凌ぐ『超兵器』。

そして、“原則”として『男』はISを動かせない。
それに対し『女』は限られた一部の人間にしか扱えないが、女性は潜在的にそれらを扱える。
故にもし、男女差別で戦争が起これば男性陣営は三日持たないと言われている。


「じゃ、ハンデは無くていい。」

「むしろ、私がハンデを付けなくて良いのか迷うぐらいですわ。日本の男子はジョークセンスがあるのね。」

「織斑君、今からでも遅くないよ。ハンデ付けて貰ったら?」


視線を直ぐ後ろの席に座っている女子生徒に向けた後、
セシリア・オルコットへと戻す。


「男が一度言ってことを覆せるか。ハンデは無くていい。」

「えーそれは、舐め過ぎだよ。」

「それで?アチラはこう言ってますけど、貴方はどうします?」


先程までの激昂は何処へいったのか、その表情は明らかに嘲笑を浮かべていた。
そこから読み取れるのは『余裕』と『驕り』。


―――完璧に舐められているな、これは・・・


「なら、私にはハンデを頂けるかな?」

「な!?」

「あら、貴方は誰かと違って良く分かっていますわね。」

「それはどうも。」


ふふんっと腰に手を添え、嬉しそうに表情を変えるセシリア・オルコットに対して
信じられないと言いたそうな顔を向けてくる織斑一夏。


「話は纏まった様だな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、フレグランスはそれぞれ用意をしておくように。」


言いたい事は分るがな。
後で訳を話してやるか・・・頭に血が上って理解できていない様だしな。

織斑千冬の掛け声によりその場の雰囲気は一蹴され、中断されていた授業は再開された。
彼はと言うと先程と比べると打って変って真剣に授業を聞いていた。
大方、一週間後に決まった試合に勝つ為に知識を叩きこむみたいだが・・・・。


―――大丈夫なのか?


ラインフェルトの不安を余所に織斑一夏は教科書を開き、黙々と取り組んでいた。



 ◇


 - 放課後 -


案の定というべきか、不安は的中したようだ。


「い、意味がわからん・・・何でこんなにややこしいんだ。」


数時間前の意気込みは何処へ行ったのやら、織斑一夏は机の上でグッタリと項垂れていた。
予備知識であった『IS参考書』を如何間違えれば『古い電話帳』として捨てたのか知りたいが
それが災いになり、今の状況を招いたのだ。

自業自得とはこのことである。
こればかりは自身が原因なのだから仕方ない。
それにしてもだ。

視線を教室の外へと移す。
そこには学年を問わず集まった廊下を埋め尽くすほどの女子生徒。

珍しい物でも見に来た野次馬の様に集まる。
好奇心と興味で集まるのは勝手だが、その対象になっている側の気も少しは考えてみろ。
私自身は何も感じる事は無いが、織斑一夏はさらに落ち込んでいる。

経験の差。

とでも言っておこうか
カリオストロの触角となってから長い年月を生きて来たから慣れてしまったのか。
それとも既にそんな感情すら忘れたのか。
どちらにせよ、今となっては如何でもいい事ではある。


「あぁ、織斑君。まだ残っていたんですね、良かったです。」

「はい?」


相変わらずの拍子抜けした声で顔を上げる織斑一夏。
その先にいたのは、やはり如何しても教師の単語が似合わない人物がいた。


「えっとですね、寮の部屋が決まりました。」


山田真耶はそう言って手にしていた物を織斑一夏に渡す。
彼は少し不思議そうな表情をしながらも、それを受け取る。

ここIS学園は全寮制であり、全ての学生は寮での生活を義務付けられている。
それは将来有望なIS操縦者の保護が目的とされているからだ。

未来の国防が関わって来るとなると、各国が学生の頃からあらゆる手段で勧誘してくるだろう。
私としては『国防力』というより、その国の『国戦力』と言った方が正しと思うがね。


「あれ?部屋決まって無いんじゃぁ・・・。一週間ぐらいは俺って自宅から通学する筈じゃなかったですか?」

「そうなんですけどね、事情か事情なので一時的処理として部屋割りを無理矢理変更したらしんです。・・・そのあたりの事政府から聞いてます?」


最後の方は彼のみに聞こえる様に小声で顔を近づけて話す。

・・・・何で私が聞こえたか?
まぁ、私に関する事は追々話してやるさ。
今はその時期ではないのでね。


「そう言う訳で、政府特命もあって寮に入る事を最優先したみたいです。一ヶ月もすれば個室を用意できますから、しばらくは相部屋で我慢してください。」

「相部屋って・・・フレグランス、さんとになるんですか?」

「いや、えーっとフレグランス君は――――――――。」


そういって彼女はコチラに困惑した表情を向ける。
別に言いにくい事でもないだろうに、私の気でも使っているのだろうか。


「いいや、私とでは無い。私は君と相部屋でも構わないが・・・少し特殊な部屋でいいならな。」

「特殊って?」

「二十四時間三百六十五日休み無く、四方八方死角無しの監視付きの部屋だ。」

「・・・・・・遠慮します。」


当たり前の反応だな。
余程の馬鹿でもこんな部屋になんか入りたくは無いだろう。
プライバシーなど完全に筒抜け、無視された監獄の様な所なのだから。

それでも・・・・。


「君よりかは幾分かはマシだがな。」

「それって・・・どういう意味なんです?」

「・・・・私が答えなくても直ぐ分るさ。」


コイツは本当に阿呆だと分った。
同じ男である私と同室ではないと言う事は女子生徒と同室であるということだ。
山田真耶が説明していただろうに。

というより、何故男女を同室にしたんだ。この学園は。
幾ら女性しかい無いにしても、特例として男が入って来たんだ。
個室ぐらいすぐに用意位は出来るだろうに。

それとも何か目的でも?・・・・無いな、ある訳が無い。
それに私には関係の無い事だ。


「そう、ですか・・・・。先生、部屋の事は分りました。でも荷物とかの準備をしたいんで今日は家に―――――。」

「それは私が手配しておいた。ありがたく思え。」

「・・・・・・どうも、有難うございます。」


織斑千冬が感謝しろと言いながら教室に入って来た。
改めてこの二人を見ると本当に姉弟なのかと疑ってしまう。
この事に関しては誰もが思う事だと思う。

織斑千冬が加わり山田真耶が少し生き生きとしながら、寮の説明を進めて行く。
私は此処にこのまま残っていても意味は無いと判断し教室を出て行こうと教室の出口に向かう。


「何処へ行く?フレグランス。」

「寮へ戻るだけだが・・・私がいる必要があるのか?」

「無いな。寄り道はするなよ。」


織斑千冬の言葉を無言で肯定しラインフェルトは教室を後にした。
出る際に大勢の女子生徒がいたが、向きもせずに傍を通り過ぎると廊下の奥に消えて行った。

-10-
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IS <インフィニット・ストラトス> ポス×ポスコレクションVol.2 BOX
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