小説『IS ―世界を守護せし狂王―』
作者:悪名高き狼()

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 第九幕 - 代表 -




「ちょっと、よろしくて?」


ほんの一時間前に聞いたことのある台詞にラインフェルトは
伏せていた視線を声のする方へと向ける。

その先にいたのは現時点において最も彼の興味を抱かせる
織斑一夏に言い寄るセシリア・オルコットの姿があった。


――なんだ、次はアッチか・・・


忙しい奴だな。
後で来るとか言ってなかったか?

教室の前方で目線を忘れず、織斑一夏に声をかけていた
セシリア・オルコットに呆れた視線を送っていた。


 ◇


「へ?」


さっきの授業でライヒアートから俺の名前が出たんで
声をかけようかと考えてた所に声をかけられたから素っ頓狂な声が出た。


「まぁ!なんですのそのお返事。この私に声をかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのでは?」

「悪いな。俺、君のこと知らないし。」

「私を知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補制にして入試主席の私を?」


あんな状況だから名前なんて覚えるなんて無理だって。
アイツの名前は覚えれたけど・・・ん?


「あ、質問良いか?」

「ふん。下々の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」


がたたっ。


聞き耳を立てていたクラスの女子がこけた。
セシリア自身も愕然とした表情を張り付ける。


「あ、あ、あなた!本気でおっしゃってますの!?」

「おう、知らん。」

「信じられない、信じられませんわ!極東の島国と言うのはこうも未開の土地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビが無いのかしら・・・」

「いや、テレビ位あるぞ。で、代表候補って何?」


俺の素直な質問に答えたのは以外にも目の前にいる
セシリアでは無く、彼だった。


「読んで字の如く。国家代表IS操縦者の、候補生の事だ。簡単に言ってしまえば、『エリート』と言うやつだ。」

「あ、えーと、ライヒアートさん?」

「つい先程、此方に来たかと思えば次は織斑一夏の所か?セシリア・オルコット。」


あ、スルーされた。
初めての会話が無視という結果で終わっってしまい
すこし落胆する俺だった。


「あら、貴方はこの方と違って、良く分かってらっしゃいますわね。そう!エリートなのですわ!」

「だが、所詮は候補生止まり。自慢できるものでもない。」

「な!やっぱり馬鹿にしてましたのね!」

「声を荒げるんじゃない。淑女なら、尚更な。」

「と、兎に角!本来なら私の様な選ばれた人間と、クラスを同じくする事だけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実もう少し理解していただける?」

「そうか、それはラッキーだ。」

「・・・あなたも馬鹿にしてますの?」


――いや・・・お前が幸運だって言ったんじゃないか

――どこに行ってもこういうのはいるんだな・・・


「大体、そちらの方はISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入学でしましたわね。世界で唯一・・・最初に動かせた聞いてましたから、もう少し知的さ感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれでしたわね。」

「俺に期待されても困るんだけど。」

「君の場合は特殊だからな。」

「私は貴方の場合の方が、もっと特殊だと思いますけど?まぁでも?私は優秀ですから、貴方がたの様な人間にも優しくしてあげますよ。」


――これが優しさなのか。十五年生きてきて初めて知った。

――記憶喪失なのを理由に情けをかけられたか・・・


「ISの事でわからないことがあれば・・・まぁ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよろしくってよ。何せ私、入試で“唯一”教官を倒したエリーと中のエリートですから。」


――たがが試験で本気を出す教師がいるとは思えんがね・・・


普通に考えればそうだろう。
織斑千冬であれば入試だろうと本気を出すだろうが
他の教師であるならまずソレは無い。

そもそも試験がISによる実戦なのは、適性判断のみでは判断しかねる所や、
何処まで動かせるかを判断するものであり試験官である教師を倒すことまでしなくてもいい筈だ。

だが彼女は試験管を倒し、それを今まさに二人に自分の実力を叩きつけて来る。

男であるから自分より下だと思い込んでいる。
女尊男卑社会に染まった典型的な症状そのもの。


「ん?それなら俺も倒したぞ、教官。」

「は・・・・?」


セシリア・オルコットの表情が止まる。
その目を丸くして。


「わ、私だけと聞きましたが?」

「女子の中ではってオチじゃないのか?」

「あ、あなた!あなたも教官を倒したって言うの!?」

「うん、たぶん。」

「貴方は!貴方も教官を倒したと言うんじゃありませんよね!?」

「人に指を向けるな。」


ビシッと音を立てる様に指先をラインフェルトに向ける。
彼はそれを軽く手で払いのける。


「ソレに関しては貴様も言った様に、私はこの学園への入学は特殊でね。入試など受けていないよ。」

「それは受ける必要が無かったとでも言いたいですの!?」


――・・・そこまで言ったつもりは無いんだが


「とりあえず落ち着けよ。」

「これが落ち着いてなどいられますか!」

織斑一夏がセシリア・オルコットを何とか落ち着かせようとするが
今の状態の彼女は一向に変わらない。
彼も手伝ってくれと言わんばかりの目線をラインフェルトに送って来る。

仕方なくラインフェルトも織斑一夏の手助けをしようとした時・・・

キ−ンコーンカーンコーン

授業の開始を知らせるチャイムが鳴る。
その音を聞くや否やセシリア・オルコットのは先程と同じく
『また来ます。逃げないことね!』と言い残し席へと向かう。
今なったチャイムが福音と言わんばかりにホッとしている織斑一夏。


「・・・まぁ。これからよろしく、織斑一夏。」

「え・・・あぁ。よろしくお願いしますライヒート、さん。」

「敬語はいい。年は上でも同じ一年ということでな。」

「ハイ―――じゃなかった。おう、ライヒアート。なら俺の事も―――――。」

その瞬間だった。

ひゅんと風切り音が鳴ったかと思うと
目の前にいたライヒアートが“避けた”。


「直ぐに体罰に走るのは・・・あまり感心しないな。織斑千冬?」

「だったら早く席に就け。もう一度その体罰を受けたいなら別だが。」


――あれを避けた!?てゆーかまたタメ口?!


初めてクラス中の意見が揃った瞬間であった。


 ◇


「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。」


授業が開始されて直ぐ、織斑千冬が思い出した様に言いだす。
その発言にクラスが騒ぎ出すが、彼女の視線によって静かさを取り戻す。


「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・まぁ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。」


続けられた織斑千冬の言葉に再び色めきだす教室。
そうなるのも仕方ないと思う。
クラス代表になれば、その人物は文字どうり代表であり
クラスを象徴するものであり、評価の対象になる。


「はい、私は織斑君を推薦します。」

「私もそれが良いと思います。」


誰かがそう切り出した。
それに繋げる様に、織斑一夏の名前が挙げられる。
対して当の本人は頷いていた。

恐らく、『自分以外にも織斑の苗字がいるのか』などと
思い耽っているのだろう。


―――阿呆か。


そして漸く理解したのか、立ち上がり講義をしだす。

しかし。
先程からセシリア・オルコットにが震えている。
悪い予感がさっきからイヤと言うほど感じるんだが
どうしたものかな―――と考えていたら。


「じゃー私はフレグランス君を推薦しまーす。」

「・・・・は?」


己の名が挙がった事に直ぐに気付くことが出来ず
不覚にも素っ頓狂な声を出したことにより視線を集める事になった。


「フレグランス。言っておくがお前だろうとも拒否は認めんぞ。」

「いや、別に異論は無いが・・・。」

「そうか。ではもう一度、自薦他薦は問わん。誰か他にいるか?」


その言葉で更に織斑一夏の名前と私の名前が挙がる。
織斑一夏は無理だと言わんばかりの表情をしていたが
構ってなどいられなかった。

理由は最初に名前を挙げた『布仏本音』だ。
彼女は確か、更識の―――――――――。


「納得がいきませんわ!!」


思考の入りが浅かったのか、声の方へ視線が向く。
映ったのは机を叩く音と共に立ち上がるセシリア・オルコット。

次に出てくる言葉は簡単に予想が付いた。


「そのような選出は認められません! 男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」


小さいな。器が知れる。

今も織斑一夏とセシリア・オルコットの言い合いは終わらず
大きくなって行くばかりで、国の侮辱までになる。
ついには彼女の方の怒りが頂点までに達し・・・


「決闘ですわ!!」

「それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。
織斑とオルコット、フレグランスはそれぞれ用意をしておくように。」


少年と少女の間には火花が走り
青年は巻き込まれた事に溜め息をつくのだった・・・

-9-
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