小説『IS ―世界を守護せし狂王―』
作者:悪名高き狼()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>



 第八幕 - 講義 -




休み時間にセシリア・オルコットに絡まれたラインフェルト。
彼女の様に自らの身分を語る人種は好まない。
ハッキリしてしまえば嫌いであり、昔も排除してきた。
そんな中に知らない間に組み込まれたのは彼女にとっては知る余地も無い。

『また来る』などと言っていたが、また絡まれると思うと正直言って疲れる。

教室の後方、窓際の席から件の少女に視線を向ける。
今は授業の最中であり、山田真耶の講義を聞いて黙っている。
その姿は優秀で真面目な生徒そのもの。
それだけで良かったのになと内心呟き、講義へと耳をかたむける。


 ◇


「―――であるからしてISの基本的な運用は現時点では国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって処罰され―――」

―――俺だけなのか?このアクティブなんちゃらとか、広域うんたらとか・・・


分からん。机に積まれた教科書の山を捲って見ても
意味不明の言葉の羅列にしか見えない。

チラリと後ろを見てみる。
腕、足を組み視線のみ伏せている彼の姿が映る。
教科書は開いてるいるが、ノートなどは取っていない。
寝ている訳ではない様で、此方の視線に気づいたのか俺と視線が合う。

すると彼は前を指さす。
ん?前・・・ああ!そう言えば今は授業中だった!

慌てて教科書へと視線をもどす。
しかし何度見ても分からんものは分からん。


「織斑君。分からない事があったら聞いてくださいね。何せ私は先生ですから。」


今の様子に気付いたのか先生が聞いてくる。
よし、どうせ考えても分からないんだ。なら聞いてみよ。


「先生!」

「はい!織斑君。」

「ほとんど全然分かりません。」

「ぜ、全部ですか・・・」


先生が驚く。困った表情が偉く目立つ。
そんなに驚かれても俺も困るんですけど。


「え、えと。織斑君以外で今の段階で分からない人は他にいますか?」


山田先生が挙手を促す。
しかし沈黙のみが辺りを包む。


―――あれ?おかしい。誰も手を挙げない?

「えっと。フレグランス君は、大丈夫ですか?」

―――おお!そうだ、アイツは如何なんだろう。


自分と同じ男で記憶喪失で色々、大変なんだ。
分らないところも少なからずあるはずだ。

と自分の味方を如何しても作りたいのか
織斑一夏はラインフェルトに期待をするが・・・


「記憶は無い割、知識はあるんで理解は出来ている。」

―――なに!マジか!


あっさりと期待は打ち砕かれる。


「織斑、入学式前に参考書は読んだか?」

「古い電話帳と間違えて捨てました。」

パァンッ!


また脳細胞が五千人死んだ。


「必読と書いてあった筈だろう馬鹿者が・・・後で再発行してやるから、一週間以内で覚えろ。」

「いや、一週間であの厚さはちょっと・・・」

「やれと言っている。」

「はい。やります・・・。」


ギロリと睨まれた。
ソレはもう悪魔の様な。
寧ろ悪魔の方が可愛いんじゃないかと思うほど。


「フレグランス。この馬鹿に教えてやれ。」

「それは教師である君の仕事なのでは?」

「生徒に答えさせるのも教師の仕事だ。」


ん?何を教えてくれるんだ?
て言うか、千冬姉にタメ口って!


「・・・ISはその『機動性』『攻撃力』『制圧力』と、過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らず扱えば必ず事故は起こる。・・・事故で済めば良いがな。まぁ、そうしない為の基礎知識に訓練がある。理解が出来なくても覚えて守った方がいい。規則らしいからな、織斑一夏君。」


名指しされてしまった。
いや、正論なのは分かるんだけどさぁ・・・


「『自分は望んでここにいる訳では無い』と思っているな」


ギクリ、何で分かったんだ。
読心術まで使えるなんて知らないぞ。


「望む望まざるにかかわらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人である事をやめる事だな。」

「・・・・・・・・・・・。」

―――やるしかないか。


現実を見ろってことか。
千冬姉、昔から超現実主義者だったしな。

せめて、千冬姉に恥かかせないようにしないと。
職場で肩身狭い思いさせる訳にはいけない。

俺は家族を見捨てたりなんかしない。
顔を知らない両親とは違うんだ。


 ◇


―――人である事をやめる・・・か。


既に人である事をやめている。人の理から外れている私が集団の中にいるんだがな。

早くも君の理論は打ち砕かれた訳だがどうする?
なんて事を考える。

しかし何だ。あの山田真耶は。
ハッキリと言わせて貰えば教師と言う言葉が似合わない。

馬鹿にしている訳ではないぞ。
彼女の実力は知っている。
流石はIS学園の教師と言うだけある。
初めて彼女を見た時、直ぐに感じた。


―――――――のだがね。


織斑一夏に対して頬を赤らめたり、今の様にこけたりしている所を
見せられるとどうもそちらの方が強く出てしまう。

コレをギャップ(?)と言うのだったかな?
今の若者の使う言葉は良く分からん。

そんな見た目に反して年寄り臭いことを
思いつつISに関する二時間目の講義は終わりを告げる
チャイムが学園中に鳴り響く。

-8-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える