小説『続・黄泉路への案内人』
作者:楽一()

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第四話


SIDE千冬


 あの日、私が家に戻るとえらくご機嫌な一夏がいた。長年こいつといたがこれほど満面の笑みを浮かべたのは初めてみた。

 それに私と話す話題も大抵が葵のことだ。

 あいつ(神城)程ではないにしろやはり危険だ。それに、あいつと違って葵はこの家に住んでいる。あの時反対すべきだっただろうか。

 自問自答していると家の電話が鳴ったため受話器を取ると、

束『ハロハロ! 愛しの束さんd』(ガチャっ)

 いま私は一夏とこの家のことについて必死に考えていたのにあの天災はいつも間が悪い!

束「ちーちゃん!!? いきなり電話切るってひどくない!!?」

 どうやら私は幻聴が聞こえるようだ。なら、その原因を駆逐せねばな。

束「ち、ちーちゃん? な、なんで右手に力を入れて束さんの額にギィイイイイヤァアアアアアアアア!!?」

 何をしたかって? アイアンクローだ。馬鹿には鉄槌をって言うだろ?

束「うぅっ・・・酷いよちーちゃん! これで束さんの脳細胞が何万個死んだか!?」

千「その代わりに新しく新鮮な脳細胞が生まれるだろ?」

束「オぉ! そうだ! これで新しい発見が!!」

千「で、何か用があってきたのだろ?」

 そう。こいつが何もなく私に会いに来ることなど・・・・あるかもしれないが電話での勢いから言うと今回は何かあるのだろう。

束「ねぇちーちゃん。箒ちゃんやいっちゃんがあいつのことなんて呼んでいるか知ってる?」

千「無視してるだろ?」

束「あの屑(神城)じゃなくて葵の方だよ」

千「いや、知らんが。何か言っていたのか?」

束「うん。箒ちゃんが最近機嫌いいから何かあったのか聞いたらあいつのことを【兄さん】と呼ぶことにしたみたいだよ。あぁ〜〜もう! むしゃくしゃする!! 箒ちゃんは束さんの妹なのに!」

 あの箒がか。―――ん? まてよ。こいつがこんなことのだけにいちいち言ってくるわけがない。まさか!?

束「お察しの通りだよ。いっちゃんもあいつのことを【お兄ちゃん】と呼んでるみたいだよ」

―――プチッ

 私の中で何かが切れる音がした。

束「・・・・ち、ちーちゃん? か、顔が怖いよ?」

千「なにを言っている束。私は満面の笑みだろ?」

 失礼なことを言うな。

葵「ただいま戻りました」

一「ただいま〜! ってあれ束さんにお姉ちゃん!」

 すると、買い物に行ってたのだろう。手には両手いっぱいの荷物が持たれていた。でも大半は葵が持っていたようで一夏には小さい袋しか持たせていない。

 でも今はそんなことどうでもいい。

千「葵。いま時間いいか?」

葵「? この荷物を片づけたあとでもいいなら」

千「構わん」

 そういうと彼は一夏を連れてキッチンに向かい物を片付けて行く。

 それから数分後、再び玄関に葵が現れた。

葵「さて、ご用はなんですか?」

千「ここでは何だからこいつの親が営んでいる道場に行こう」

 そういって篠ノ之道場に向かう。


SIDEout


葵(ん〜なにやら千冬さんの殺気がすごいことになっているな。あと束さんも。多分だが一夏と箒が原因か)

リイン「〈葵パパ大丈夫ですか?〉」

アギト「〈二人ともすごい殺気だぜ?〉」

葵「〈大丈夫だろう。というかあの程度可愛いもんだ。本気で統楽様とぶつかった時なんて殺気だけで殺されるんじゃないかと本気で思ったこともあるぞ?〉」

リイン「〈統楽さんは規格外です・・・・〉」

アギト「〈ならその統楽に教わった葵も規格外じゃないのか?〉」

 すると目の前に道場が見えてきた。しっかりとした和風造り。入口を開け中に入ると心地よい緊張感が漂う。ただ、ここには今私と千冬さん、束さんの三人しかいない。

千「単刀直入に言う。私と勝負しろ」

 彼女の視線は鷹のように鋭い目をしていた。

葵「構いませんよ。その前に一つ尋ねます。何か賭けるんですか?」

 すると、まるで言い当てられたことに驚いているような表情だった。

千「・・・・私が勝ったらこの町から出ていってほしい。そして二度と一夏と箒にかかわらないでほしい」

葵「・・・・分かりました。後もう一ついいですか?」

千「あぁ」

葵「あなたは何のために力を手にしているんですか?」

千「一夏を、私にとって唯一の家族を守るためだ」

 家族を守るため? 

葵「くっ、ぷふっ」

千「なにがおかしい!?」

 突然笑いが上がったことに驚いているのだろう。いや、怒っているといった方がいい。

葵「いえ、考えが幼稚すぎると思いまして。人を守るために剣道(・・)をするなんてあまりにも幼稚すぎる上に勝負にもならない」

 すると、隅に座っていた束さんが、

束「ねぇ、君は何ほざいているの? ちーちゃんは君より強い。そして、君よりも歳が上だ。つまり男女の力の差も埋められるんだよ? それを知って言ってるの?」

葵「いえ、そうですか。科学者の質であるあなたには仮定だけ言っても意味がないでしょうね。結果でお見せしましょうか。武器はどうします? 竹刀で行いますか?」

 すると、目の前に一本の木刀が置かれた。

千「やるからには全力だ」

葵「分かりました。では、全力で持ってお相手いたしましょう。さて、束さん公平を兼ねるため審判お願いします」

束「・・・・わかった」


SIDE千冬


 互いに前に出てると、葵が木刀を前に出す。

千「何だ?」

葵「交換して互いに木刀に仕込みをしていないか確認するんです。後で何か言われるのを防止するためです」

 そういってだがいの木刀を確認し、刃、峰を確認し異常が無いことを確認し再び戻す。

束「準備はいいかい?」

葵「えぇ」

千「あぁ」

 そして、たがいに構え、

束「始め!」

 その掛け声と同時に一気に勝負を仕掛けるつもりだった。そう、過去形になっている。なぜか? 

葵「・・・・・」

千「ッ!?」

 彼から出る殺気は一夏と同い年の子供が出せるものではない。それどころか、大人でも出せないだろう。この殺気は本当に争い、いや、戦争を体験してなければ出せない。それも世界規模のだ。

葵「さて、お前の力量もわかった。決着をつけに参ろうか!」

千「なっ!?」

 彼がそうつぶやくと私の目の前から彼の姿は消えた。だが、その一瞬ののち彼は姿を現した。私の懐に入って剣をすでに振り払っていた。

千「ちぃっ!」

 私も急いで振るうが、何かがおかしかった。

束「え・・・・」

 束が私の持っている木刀を見て明らかにおかしい物を見ているようだった。私もつられてみると、木刀が斬られていた(・・・・・・)。

葵「勝負ありだな」

 彼は私の首にその木刀の先を向ける。私はその場に座り込んでしまった。

 圧倒的敗北感。完敗だ。だが、どこかすがすがしくもある。こうも力量差を見せつけられるといままで私が一夏を守るために剣をふるっていたことがばかばかしくも思える。

 すると、私に手を差し伸べる者がいた。葵だった。

葵「さて、先ほど私が行ったことを教えておこうか。何故笑ったかを」

千「あぁ。あれは何故笑ったんだ」

葵「お前らは剣道と剣術の違いを知っているか?」

二人「「?」」

葵「簡単に言うと剣道は型を基本とした競技だ。一方の剣術は型を基本とした殺し。いわゆる殺人術だ。さて、これを踏まえて考えてみてくれ」

束「・・・・つまり君は競技の技如きで人を守れるわけがないというの?」

葵「その通りだ。それは先ほど証明されたはずだ。千冬は先ほど私の殺気を浴びてほとんど動けなくなっただろ? だが、あれぐらいの殺気はざらにある」

 さりげなく呼び捨てにされたが、どこかそれが心地よかった。

千「そんなわけないだろうが!」

葵「いや、あれはざらだ。もし君の家に強盗が入って一夏を人質にしたらあれぐらいの殺気を出して君何か要求するだろう。そのとき君は迷わず行動をとれるか?」

 そう言われて考えてしまった。まともな殺気を当てられた試合はおろか練習もしていない。確かに彼の言うとおりどこか型のはまった競技で終えていたような気がする。

葵「それに君はまだ力を持つ覚悟を持っていない」

千「覚悟なら持っている! 一夏を守る力を持つ覚悟ぐらい!」

葵「なら人を傷つける覚悟を持っているのか?」

束「それは不要だよね。護るための力になんでそんな覚悟がいるのさ」

葵「必要だろ。護る対象がいるということはそれを襲う対象もいるはずだ。アニメや漫画じゃないんだ。相手がいるんだ。当然傷つけることもある。ましてや武器を持ってならなおさらな。そんな覚悟も無いのに力を持つな」

千「ならお前はあるのか。その覚悟か」

葵「ある! 大切な者を守るためならこの力を喜んで振るう。私は助ける価値のある者は助けるが殺すしか価値の無い者は容赦なく殺す」

束「・・・・ざっくり言うね。その守る対象は何なの? まさかこの世界とか言うわけじゃないよね?」

葵「所詮人一人が護れる人間なんて限られているんだ。なら、その限られている人間を全力で護り通すまでだ。己が力の全てを持って」

 その目は刃物のように鋭かった。その目は明確な意思を示していた。その心は強かった。その言葉一つ一つに惹かれた。あぁこんな人間もいるんだと。

 目で横にいる束を見ると、ぽ〜とかを赤くしていた。多分自分も顔が赤いことがわかる。なにせ顔が熱いんだ。

葵「さて、荷支度を済ませるか」

千「え?」

葵「え? ってえらく疑問を持っているようだな」

千「それはそうだろ!? お前は勝ったんだぞ!?」

葵「あぁ。勝ったな」

束「ならどうして?」

葵「君はわたしと一緒にいることが嫌なのではないのか? おそらく一夏、箒が私のことを兄と呼び始めた。それが原因だろ」

千・束「「うっ」」

 年下に気を使わせるどころか、さらにそれが原因で家を追い出そうとした。結果勝負を持ちかける者の敗北し、自分の勝手を飲み込んでくれた。

束「! なら、束さんの家に来るといいよ!」

 なっ!? お前今さっきまで葵を毛嫌いしてなかったか!?

束「それはそれ、これはこれ、今は今。そして束さんは束さんだよ! あっくんはどう思う?」

葵「あっくん?」

束「葵→あおい→あっくん!」

葵「・・・・」

千「許してやってくれ。そいつは三文字以上の名前を覚える気はない。で、気にいったやつは自分が覚えやすいようにあだ名をつける。私ならちーちゃん、一夏はいっちゃん。葵はあーくんというわけだ」

葵「なるほど」

千「それと束。それは却下だ。そいつは私の家に住まわす」

葵「え?」

千「そ、その・・・家族なんだろ? 私たちは///」

葵「分かりました。では千冬さん。お世話になります」

 そういって葵は礼をするが、

千「なぁ葵」

葵「はい?」

千「その敬語とか止めろ。一夏たちみたいに砕けた口調でいい」

束「束さんもそれでOKだよ!」

 私たちがそういうと、

葵「わかった。これでいいか?」

 そして、私と葵は道場を後にした。帰り道に、少し葵に御願い事をした。

千「葵」

葵「何だ?」

千「その、二人きりの時だけでもいいからお前のことを【兄さん】と呼んでもいいか?」

 その発言に葵は進めていた歩を止め、信じられないような顔をしていた。

葵「千冬? 明らかに私の方があなたより年下だよな?」

千「それは分かっている。だが、その、お前の態度とか見ているとどうしても私より年上にしか見えないんだ。・・・・ダメか?」

葵「・・・まぁ良いだろ。ただし、二人きりの時だけな」

千「あぁ! 兄さん///」

 その後、それのお返しなのか葵は二人きり以外の時は千冬姉さんと呼ぶようになった。


SIDEout

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