四
結果で言えば食べられていない。
頭に“まだ”が付くけど……。
※※※※※※※※※※
【ほう、珍しい。貴様人間か】
「はい!人間です」
凛々しく麗しいお声に思わず答えると、羽根つき猫は目を丸くした。
【お前、我の声が分かるのかい】
「あ、はい」
羽根つき猫(声からして雌)は鼻を近づけてクンクンと私の臭いを嗅いだ。
【変わっているが嫌な臭いじゃないね】
「あ、ありがとうございます」
よ、よかった。これで「臭い」なんて言われたらちょっとショックだ。
【それにしても、人間の、それも子どもが、何でこんなところにいるんだい?】
「あ、それは……えっと……」
どうしよう。新人神様の都合で落とされてきたとは言えない。
……いや、別に言っていいのか?
言葉は私しか分からないし、ここ経由で人間に知られることはないと思うし……。
それに、動物に嘘はつきたくない!!
「神様に落とされてきました!」
【神?あぁ、あいつね】
え、知り合い!?
【色々教えてもらってね。とりあえずこんな所じゃなんだ。場所を変えるよ】
そういうと羽根つき猫は、白く長いしっぽを私に巻き付けた。
うわっ!気持ちいい!!
フワッ、モコッ、って感じだ!
そんな至福の感覚に頬擦りしていると、突如足の裏から地面の感覚がなくなった。
「え?」
全身に風を感じる。
しかも、羽根つき猫の羽、羽ばたいてないか?
恐る恐る下を見ると……。
「うひゃああああああああっ!」
飛んでる!飛んでるよ!
あの巨大な木々が豆粒みたいに見えるよ!
「おおおおおおおおおおおおっ!!!」
お願い、私を掴んだまましっぽを振り回さないで!
落ちる!それ以前に酔う!
「うっぷ」
う、気持ち悪くなってきた……。
何とか吐く前に地上へ降ろしてもらえた。
胸を押さえてしゃがみこみ、何とか吐き気を堪える。
【さ、ついたよ】
その声に顔を上げると、唖然として言葉を失った。
緑の楽園
まさにそう表現していいほど、美しい場所だった。
そう……分かり易く地球で有名な作品に例えるなら、さっきまでいた森が「腐海の森」だとして、ここは「ラピュタの森」だろう。
というのも、あちこちに遺跡のような建物があり、そのほとんどが草とコケに浸食され、木々が建物を突き破って天高く伸びている。また水に沈んでいる場所は、見たこともない美しい魚が優雅に泳ぎまわり、建物を巣の代わりにしている。
【ここにはかつて人間と動物たちとが共存していた】
固まる私に羽根つき猫は語る。
【人間は弱い代わりに知恵を絞って文明を築き、我等を楽しませてくれた。我等は代わりに弱い人間の身を守ってあげるという約定をした】
羽根つき猫が話しながら先へと進んでいくので、慌てて立ち上がり、後を追う。
【しかし長い年月がたち、あろうことか人間たちは、我等が自分達に使えていると勘違いしおった】
人間の寿命は長くて100年。
その間に、人間は動物たちとの約束をはき違えてしまったのだろう。
伝言ゲームでだんだん内容が変わっていくようなものだ。
「それで、どうしたんですか?」
【喰った】
「え」
【自業自得さ。我等の中で約定は絶対。それを破ればどうなるか、忘れたのは人間の方だからな】
人間は日々変化していく生き物。しかし羽根つき猫のような動物は変わらないことが全体。
変わるとしても、それは少しずつ、本当に少しずつで、寿命の短い人間には変わらないのと同じに思えるだろう。
それが、人間と動物との、絶対の違い。
相容れないもの。
しかし、理解しようとすれば、必ず相手も理解してくれるはずだ。
様は、受け入れる心があるか、ないかだと私は思う。
【だからね、人間がここに入るのは恐らく二千年ぶりだろうねぇ】
に、二千年……。
「そ、そんなに長い間人間を入れなかったのに、私が入ってもよかったんでしょうか?」
【正確には、ここまで来れるような人間はいないってことだよ。ほとんどは下で死ぬからね】
私は羽根つき猫に連れられたから簡単に入ることが出来たってわけか……。
「どうして、私を連れてきてくれたんですか?」
その質問をすると、鋭く光る猫の瞳が私を振り返った。
【人間の子どもなんて森で初めて見たし、それにあんたは神と知り合いなんだろう?】
「は、まぁ」
どうやら、私が子どもで、あの新人神と知り合いだから連れてきてくれたらしい。
いや、それより、奴と羽根つき猫の関係が気になる。
それを聞こうとしたが、その前に「ついたよ」と言われ、羽根つき猫の視線を追った。
するとそこには、大量の草のクッションに埋もれ、木漏れ日の光が当たっている場所――。
「タマゴ?」
ここは羽根つき猫の巣みたいです。
〜あとがき〜
「羽根つき猫」と書いていて、ふと『FAIRY TAIL』のハッピーを思い出しました。
ここの羽根つき猫は、二本足で歩きません。言葉も主人公しかわかりません。
それに、あんな愛らしいものではなく、チーターとか、トラっぽいものに羽がついたと思っておいてください。