小説『超短編集4『人形少女の淡い夢』』
作者:加藤アガシ()

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【サカナオンナ】



赤い電車は『女子高生の国』へと止まり、大量のサカナオンナたちを受け入れた。

車内に、独特の生臭さが漂う。

人によっては、『それ』を青春の香りだとか、思春期特有の甘酸っぱさなどと、気持ちの悪い表現をして、気持ちの悪い顔をする。



しかし、私にとって、『それ』は単なる嫌悪の対象であって、生臭いとしか感じられない。


サカナオンナたちは、自身から発せられる『それ』にまったく気付かず、パクパクと水を求めて、アホ面で口を閉じたり、開いたりする。



生臭い。

車内に臭気が漂う。

堪らずに、私は『大人の国』で降りる。

サカナオンナたちも時がくれば、どこかしらの駅に降りるのだろう。


そのときには、もう肺呼吸をしているはずだ。


おわり








【ただそこにある】



この話をするのは初めてだ。
今まで、何度か誰かに話そうと思ったこともあった。
しかし、誰も信じてくれないだろうし、それにこの話を誰かに伝えることの意味もうまく見出せなくて、なんかもうどうでもいいと思っていた。


では、なぜ今この話をするのか。
それは自分自身でもよく分からない。


でも、ただ、今日買ってきたCDの美しい曲を聴いていたら、なんだか話したいという気分になった。
ただそういう気分なんだ。



これは僕が中学生のときの話。

当時、僕が親から与えられた窓のない部屋には、毎晩のように女性の幽霊が出た。
幽霊と言ってしまうと、急に現実味がなくなってしまうし、不気味に感じるられるだろうけど、その女性の幽霊は見た目は、生きている人間となんら変わらなかった。


ただ、僕が夜中に目を覚ますと、何の気なしにそこにいるだけだったのだ。

そして、それに僕が驚き、「消えろ」とわめくと彼女は素直にそれに従った。


そんな日々を何日も繰り返すと不思議なもので、それに慣れてしまい、僕は彼女に対して好意を抱くまでになった。


彼女はおおよそ20歳くらいの若い色の白い女で(幽霊的な意味での白さではなく)、かなり整った顔立ちをしていた。

こんなことを言うと、本当に胡散臭いし、僕のパーソナルを疑われてしまうかもしれないけど、正直言うと、僕の初恋はまぎれもなく、その幽霊の彼女だった。


彼女は僕の通っていた中学校の教室にいた、どの女の子よりも圧倒的に美しかった。



僕は毎日、幽霊の彼女のことを強く想った。
そして、毎晩、わざと夜中に目を覚めるようにして、彼女に会おうとし、話しかけようとした。


しかし、彼女は『ただそこにいるだけ』で、僕が話しかけるとすぐに消えてしまった。


僕はもどかしくなった。

彼女と話をし、感情を共有したかった。

でも、それはかなわなかった。


結局、僕が高校生になって、現実の女の子と関係を持つようになると、幽霊の彼女は、僕の部屋に現れなくなってしまった。

理由は分からない。



でも、僕は彼女のことを忘れない。

彼女はずっと、僕の頭の中で生き続ける。

それに、彼女とは何も共有できなかったのだ。
つまり、僕の頭の中に彼女がいる限り、彼女が幽霊として現れなくても結局、同じことだ。

ただそこにあるだけだ。


それでいい。





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