小説『超短編集4『人形少女の淡い夢』』
作者:加藤アガシ()

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【草原にて】



それから長い間、僕は何も考えずに歩いた。
そして、気付いた時には、すっかり街を抜け、見慣れない田んぼ道に自分がいた。


まだ、6月に入ったばかりだというのに、田んぼに隙間なく植えられた稲は青々としていて、その全ての稲が全体として『草原』のように見えた。


まるで牧場だ。

牧場…。




「牛の名前を付けるときに一つだけ決まりごとがあるの。オスは漢字の名前、メスはひらがなの名前を付けるのよ」


「へぇ…、なんで?」


「さぁ、知らない。でも、大抵の牧農家がそうやって決めているのよ。暗黙の了解みたいなものなの」



そう言うと、彼女は意味ありげに笑った。

僕は突然、そんなことを思い出した。
彼女は牧場で生まれ育ったのだ。



僕は、『草原』にて、そんなことを思い出した。


想像があればどこだっていい。
ここはまぎれもなく、『草原』だ。


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