【ビューティフルロボット】
ドップリと闇が落ちてきた夜、僕は新宿の小さな市民公園でネモトと会った。
彼女は全裸でジャングルジムに巻きつくようにして、倒れていた。
僕は、見るからに怪しい彼女を、最初は放っておこうとした。
彼女が事件性があってそうしているのなら、色々と面倒なことになるからだ。
でも、どうやら事件性の匂いはしない。
遠くから見て、ただ眠っているだけであることが確認できた。
飲みすぎて酔っぱらい、その場で倒れるように寝てしまう女性ならいくらでもいる。
その中に、一人くらい、酔うと全裸になってしまう人がいてもおかしくはないだろう。
居酒屋でアルバイトしている僕は、今までにそういう脱ぎたくなる人種を何人か見たことがある。
もちろん、女性であってもだ。
しかし、結局、僕はネモトに声を掛けることにした。
まだ10月とは言え、凍死してしまうことも、もしかしたらあるだろうし、何よりも新宿のど真ん中の公園で全裸の女性を放っておいたら、どうなるか分からない。
僕は自分がレイプ犯と間違われないように、周りに誰もいないことを確認し、着ていた居酒屋で支給されたジャンバーを彼女の肩にかけ、声を掛けた。しかし、返事はない。
「大丈夫ですか?」
僕はさらに音量を挙げて繰り返す。
うーんと彼女は唸ると、パッとロボットが起動するがごとくに突然目を開いた。
「ダレ?」
彼女は言った。意識ははっきりしているようだ。
自分が全裸で公園にいることにもちゃんと気付いている。
それを踏まえて、ネモトはそう聞いているのだ。
「大丈夫ですか?」
僕は彼女の質問を無視して聞く。
正直どうしたらいいのかよく分からなかった。
なぜ彼女はこんな状況でもすごく堂々としているのだろう。
「ダイジョウブ。アタシ、ダイジョウブ。アタシ、ネモト…」
彼女は本当にロボットみたいにそう言った。
外人というわけでもなさそうだ。
僕は本当にどうしたらいいのか分からなかった。
分からなった…。
ただ言えるのは、彼女はロボットではないということだ。
ネモトには『生命』が宿っている。