小説『IS 幻想の王』
作者:沙希()

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プロローグ


世界は、必ずしも優しいモノで出来ているわけではない
おとぎ話や、正義のヒ―ロの世界観だけの話であるそんな理想的な物は必ずあるとは言えないのだ
それも、極身近かにである



「お前は何度私と冬人を困らせれば気がすむんだ」



「お前みたいな奴が、僕の兄だなんて最悪だ。どっか消えろ、出来損ない。お前さえいなければ、千冬お姉ちゃんは僕だけを愛してくれる」



「お前は、織斑家の何なんだ?」



「君って、馬鹿じゃないの?ちーちゃんやふーくんと違って何も出来ない癖に、無駄に頑張ろうとするなんて、凡人ごときが足掻いたって無意味だよ」



俺は家でも、親戚の姉でも、学校でも世界にでも俺は出来る姉と弟と比べられて、虐めを受け、罵声を受けていたのだ
姉の様に運動が出来るわけでもない。弟の様に勉強も出来て、姉の様に運動が出来るわけでもない俺は・・・・・出来損ないと扱われていた
そして、親戚で姉の友人である篠ノ之束がISを作り世界に公表した時に、その後は更に悪化していったのだ
第一回モンド・グロッソの試合に姉は優勝し、何も出来ない俺は周りから出来損ないと言われ続けた



弟よりも早く生まれた分際で、弟よりも劣っている
頑張っているくせして全然結果が出せていない
結果的に言わせてもらえばお前は・・・・・・・所詮はタダのゴミも同然だ
そして小4の春、俺は耐えきれず、家出したのである



走って、走って
出来るだけ遠くに走って、筋肉が悲鳴を上げようともそれでも尚、走り続けたのだ
そして辿り着いた先には、ボロボロの神社である
無我夢中で走っていた為、ここが何処なのか不安になったが、一瞬でその不安を消し去り、ボロボロの神社で泊ろうと思って神社の中に入った



外とは違い、中はそれなりに綺麗になっていて、布団などの生活用品などがあり、誰かが此処に住んでいたのだろうと思った
俺は布団を取り出し、今まで受けてきた痛みも苦しみを涙に流し、静かに眠るのであった




































朝になり、俺は鳥の鳴き声と共に目を開け、起きあがる
欠伸をして、俺は周りを見渡し少しビックリしたが次第に家出したことを思い出した
布団を直し、俺は神社の外に出ようと、襖をあけるとそこには誰かが座っていたのだ
癖のあり、後ろの方だけ伸ばした黒い髪に、淡い青色の袴を着た男性が座っているのであった
男性は鼻歌を歌いながら手に持っているソーダ味だろうか?ブルー色のアイスを食べていた
そして男性が俺に気づき、こちらを振り向いて二カッと笑い、残りのアイスを食べ終えこちらに近づいてくる



「よっ、少年。どうした?こんな古い神社から出てきて、まさか泊ってたのか?」



「え、あ、そ、その・・・・」



「はっはっはっは。そうビクビクすんな!別に責めてる訳じゃないんだから。そうだ。一本どうだ?」



そう言って男性の袖から何も絵柄や文字も書かれていないアイスの袋を取り出して、差し出してきた
俺はそれを受け取り、中身を空けてアイスを取り出す
ブルー、か・・・・・



「君の今の心情から察するに、そのアイスと同じでブルーな事があったのかな?」



「!?」



男性の言葉に驚いてしまった
何故と俺はそう思い、アイスと男性を見比べていると男性が苦笑いをして答えるのである



「顔に出てるぞ。まぁ、何があったかは聞かないし、知りたくない。君だって、話したくない気分だろ?なら今は話さなくていい。落ちついて、そして話したいときに話せばいい。俺に出来るか、わかんねぇけど力にはなってやっから」



そう言って男はまた袖からアイスを取り出し中身を空けて取り出す
こんどの色はさっきと違って灰色だった・・・・・・なんかマズそう
そう思っていると男性はあたりを引いた様な顔をしてアイスを口にする
美味しそうに齧り、シャリシャリと食べているのだ



俺も貰ったアイスが溶けない様に、溶ける前に早く食べ始める
甘い・・・・でも、しょっぱい
甘さが4割、しょっぱさが6割と言った味わいだ
別にこう云うのも嫌いではないが、子供大半は捨ててしまうだろう



「しょっぱいか?」



「え?あ、はい・・・でも、少し、甘いです」



「はっはっは。それはよかった。このアイス、自分の心の中を表現して味が構成されるんだ。赤が怒りと恥じらい、そして力への執着。蒼は悲しみと諦め、そして絶望の闇。最後に灰色は・・・・全てだ」



「全て・・・・・」



「そ、全てだ。善も悪も、光も闇も、歓喜も絶望もすべて詰まっている。でも黒が悪い、悪だと決めるのは、それは間違いだ。光だって、眩しすぎると前が見えなくて、どこの道を通っているか分からなくなるだろ?なら光にだって悪い点はあるんだ。なら、闇も光もバランスが取れた灰色はどうだと思う?」



「えっと、中立、ですか?」



「そ。灰色はどれも属さない中立だ。光が濃いわけでもない、闇が濃いわけでもない善と悪に属さない唯一の存在だ。そして、俺が食ってるこの灰色のアイスは酸っぱさも甘さも中立ってわけ。どうだ、おもしろいと思わねぇか?」



「全然」



「はっはっは!即答か!あっはっはっは、君は面白いな!!」



男性は高笑いをし、そしてアイスを食べ始める
俺はそんな光景に、自然とさっきまで悲しかった心と表情が無くなり、笑みが零れてくるのだった
笑う所でない筈なのに、自然と笑いが込み上がり、今まで笑う事もなかった俺が笑っているのだった
そして自然と出てくる笑みと同時に、ツゥっと涙まで流れ出てくる
俺は涙を拭うと、今までとは違った感覚を感じている



苦しくもなく、悲しくもない自分の心は、今は空が快晴とになった様に清々しく感じているのだ



「漸く笑ったか。それで良い、それで良いんだ。子供は何時だって笑顔でなきゃいけない。そして大人になって、子供を産んで、その子供に笑顔を託す。これが俺達の世界だ。」



「ぐすっ・・・はい・・・」



「後、よく頑張ったな」



そう言ってガシガシと強引に頭を撫でる男性
強引であったが、痛くもなく、寧ろ心地いいと持った
そして撫でるのを辞め、男性は俺に視線を合わせ、しゃがみこむ



「なぁ。別の世界に行ってみたくはないか?」



「え?」



別の世界とは?
男性の言葉の意味を理解できなく、思わず訊き返してしまった



「そ。かつては幻想郷とも言われ、妖怪や悪魔、そして神々の住む楽園と言われた伝説の世界だ!!」



「よ、妖怪!?悪魔!?そ、そんなものまで要るの?」



「あぁ。だけど、強要はしねぇ。お前が決める道だ。だけど、これだけ
は覚えとけ。この世界に残れば仲間も出来ぬまま辛い思いをするかもしれない。だが、別世界に行けば、新たな仲間たちとの出会いを果たし、楽しい毎日が過ごせるかもしれない。さぁ、お前はどっちを選ぶ?」



「・・・・・・・・・」


俺は男性の言葉に頭を悩ませる
この世界に残れば、また罵声や虐めを受け、惨めな人生を過ごしてしまうのかもしれない
そして別世界に行けば、新たな出会いを果たし、楽しい人生を送れるのかも知れない
別世界の事は必ずとは限らないが、それでも・・・・・・



「行きます。別世界に。俺の人生を、やり直す為に・・・・」



「・・・・そっか。じゃあ、さっそく行きますか!!『紫』!!」



「はいは〜い♪呼んだかしら、一夏?」



「え?え!?急にどこから!?そ、それに俺はアナタを読んだ覚えは・・」



「ふふふ。坊や。呼んだのは君の隣にいる男性、織斑 一夏が呼んだのよ」



「ええええ!?俺と、同じ名前!?」



「あ、言い忘れてたな。俺は織斑 一夏。別の世界から来た、『幻想の王』だ」



「じゃ、じゃあ、アナタが言った別の世界って、アナタもその住人なんですか?」



「そゆこと。そして、俺は、お前であり、お前では無い織斑 一夏だ。」



「俺であり、俺でない?」



「分からないって顔をしてるわね、坊や。坊や、アナタは世界がいくつあるか知ってるかしら?」



金髪の女性に問われた俺は、頭を悩ませた
今まで考えたことのない問いだったので、必死に考える
しかし、結果的に答えは出なかった



「ふふふ、正解は無限に存在する。これが答えよ」



「北欧神話では『九つの世界』っていうのがあるけど、実際は九つ以上もの世界があるんだ。で、俺と紫はその無限の世界から来たんだ」



世界がそんなにあるとは思ってもみなかった
おとぎ話や空想のでき事なのだと思っていたけれど、身近に要るこの2人はそう断言している
嘘だというのは簡単な事だが、この2人はそんな事を言う人ではないと確信できる



「そんじゃあ、まぁ、行きますか。少年。君が行く世界は辛い事だってあるかもしれない。でも、絶対に、必ずしも小さな幸福だってある。それを噛み締めろ。堪能しろ。満喫しろ!!そして、これが、俺が出来る唯一の事だから」



そう言って男性が俺の頭を触れると俺の頭の中に何かが流れ込んでくる
辛い過去を持っても、例え諦めず、ずっと走り続けてきた男性の記憶が流れ込んできた
愛するモノの為に、振るった絶大な力で敵を討ち
例え憎まれても自分の信念を曲げず、自分の道を歩き続けてきた想いが、伝わってくる
そして男性の手が俺の頭から離れ、俺の周りに巨大な円が描かれ、光を発し俺を包み込む
温かく、落ちつく光であった



「行ってきな。お前が信じるモノ達と、共に生きていけ」



「行ってらっしゃい。後、行く前私から」



そう言って女性が俺の心臓の所に触れ、直ぐに手を離し後ろに下がった
何をしたのだろうか?



「何時か思い出すわ。アナタの持つ破滅と救済の力を。アナタとクロノス、そしてアマテラスと共に」



俺はその言葉を聞いた瞬間、意識がブラックアウトしたのだった
















織斑 一夏side



俺はもう一人の自分を見送り、残された神社に目を向ける



「行ってしまったわね」



「そうだな」



「ねぇ、よかったの?まだ幼いあの子に『藍の魔道書』と『骸殻能力』の2つの力の鎖を解除するなんて、とてもじゃないけど、あの子にはまだ早い気がするわ」



「大丈夫。アイツの所には、クロノスが要るから」



「心配なのはそっちなのよ。アレってあの子の事を無自覚でも途轍もなく愛情を注ぐのよ?アナタが嘗て亡くした、ユエル・ヴァン・クルスニクの様に」



「・・・・・・・・・」



「記憶が無くなっていても、唯一この世界でアナタと同じ魂を持っているのだから、多分アナタの事を重ねるかもしれない。何時だって愛していた人を取られるのよ?」



俺は紫の言葉に、押し黙った
嘗て、俺と紫が幻想郷の作る前の更に前の事だ
そこはまだ生物一つも存在しない地球に俺は、そこで出会ったのが嘗て愛し合い交わり合い、時の神クロノスと呼ばれた妻である
そして長い年月を共に過ごし、共に背中を預け合いながら闘い続けた
だが、亡くしてしまった・・・・・・
でも――――――


「それでいいんだ。記憶がなくても、アイツは俺が知ってるあいつじゃない。それに、ユエルは俺の中でずっと生きている。だからもう俺はクヨクヨしない」



「そう・・・・・・」



紫は俺の手を握り、何も言わず俺の手を強く握りしめてくる
俺も返す様に、離さない様にギュッと握りしめ空を見上げる
さっき以上に空は雲も一切掛かっておらず、ギラギラと太陽が輝きを放つのであった



「一、いえ、刹那。帰りましょ」



「そうだな。・・・・じゃ、元気でやれよ。もう一人の俺」



そう言って俺は紫が出した境界を超える入口を振り返り、もう一人の俺、織斑一夏の居た場所を見つめていくのだった








そして物語は、この世界では数年先の事であり、別世界では数億年もの年月を生きてきた織斑 一夏、いや、蒼月 刹那の物語である







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