小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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目を開けたら時々思い出す……

『……ついに……ついにできた……』

 その声は地から聞こえてくるように暗く、歪んだ歓喜を含ませていた。

『体格も小さく、戦闘意識もオリジナルとは少し遠いが、戦闘力は間違いなく五分五分……』

 ―――これでカカロットとベジータなど……―――

 男の言葉の意味がよく分からない……それでもこの声が不快だった。

『パラガスさま。既にブロリーさまがおられるのに何故この様な者を生んだのですか?』
『アレはもう制御装置無しでは私の言うことなど聞く訳もない。だからこそ制御の効く、純情な新たな“息子”が必要なのだ』
『では、ブロリーさまは……』
『コントロールできれば兄弟で…三人で宇宙を支配する。もし、万が一のことが起きれば……この惑星は間も無く彗星を衝突させる』

 男は部下の科学者と思われる異星人の問いに淡々と答える。

『つまり、そういうことだ』

 男…パラガスと名乗る男は部下にそう冷たく、笑いながら言うと部下は冷や汗をかいてパラガスから目を逸らす。

『さあ始まるぞ……』

 パラガスは目の前の試験管の前で両手を広げる。

 まるで旋律を導く指揮者のように……

『私の時代……私の宇宙が……』

 試験管の中の尻尾を生やした赤ん坊に自分の望みを託すのであった……























 そして、パラガスの野望も空しく新惑星ベジータと共に砕け散った。

 割れた試験管も宇宙のチリとなって……



 ブロリーとの死闘から数日が経ったカプセルコーポレーション

「断る」
「そうかてえこと言うなって、頼むよベジータ」
「お断りだ」
「んなこと言ったらかわいそうじゃねえか」
「くどい!!」

 新惑星ベジータでの死闘から地球に辿りついた悟空とベジータは言い争っていた。

 その原因は悟空が抱いている赤ん坊のことだった。

「そいつはパラガスのガキだ。どうせロクなものじゃない」
「決めつけるなよ。こんなにちっちぇえなら何もできやしねえって」

 それは惑星が爆発する直前にウーロンが水の抜けた試験管の中で泣いていた赤ん坊を拾ってきた。

 そして、そのまま宇宙船と一緒に乗ってきた。そしてすぐに悟空に申し出た。

「チチが『ウチにそんな余裕はねえだ!!』っておこんだ。その分ベジータんとこなら金もいっぺえあるから子供の一人や二人なんて簡単だろ?」
「ふざけるな!! こんな得体の知れないガキを家に置いてられるか!!」
「だから大丈夫だって言ってっだろ? こんな子供ならなんもできねえって」

 悟空は依然として赤ん坊をベジータに預けようとして、ベジータも依然として赤ん坊を受け取ろうとはしない。

「預かってもいいじゃねえか!! オメエとオラの仲じゃねえか!!」
「そんな気色悪い物なんかない!! もしこいつがサイヤ人ならこいつがオレに向かってくるかもしれん!! ましてやパラガスのガキだ!!……ならばここで……」

 ベジータは手にエネルギーを収束し始めた。それを見た悟空は表情を一変させ、赤ん坊をかばうように構える。

「止めろベジータ……こいつはまだ赤ん坊だ。滅多なこと言うんじゃねえ」
「そいつはサイヤ人……少なくともブロリーとなにか繋がりがあるはずだ……」
「なら、オラとオメエで導いてやりゃいい……違うか?」
「戯言は聞き飽きた……そいつを離さなければ貴様もろともぶっ殺すぞ」
「……それがオメエの答えか……」

 悟空はベジータの揺るぎない瞳を見つめ、悟空は覚悟を決めた。

 こうなった好敵手は話し合いなどで止まるわけがない。

 止めたければ己が力を以て黙らせる……それしかなかった」

「ウ……アウ……」

 二人の闘気にあてられて赤ん坊がぐずり、涙が溜まっていく。

「わりいが今のオメエにゃあ負けるわけにはいかねえ」
「いいだろう……この際だ……決着をつけるぞ」

 周りの地形が二人の気に耐えられずに部屋が悲鳴をあげる。

「オギャア!! オギャア!!」

 赤ん坊は別の場所に降ろされるが、遂に泣きだしてしまった。

 そんな赤ん坊を無視して二人のサイヤ人は間合いを確認して牽制し合う。

 静寂が辺りを支配していた。

 そして二人が拳を固く握った。

 その時だった。










「止めなさいアナタ達!!!!」
「ぬお!」
「おわ!」

 二人は第三者の怒声で決闘は止まった。

 思わぬ大音量に二人は耳を塞いだ。

「子供の前よ!! これ以上やったらタダじゃおかないから!!」

 その声の主こそカプセルコーポレーション会長の娘であり、地球で一、二位を争う強い妻・ブルマである。

 ブルマは未だに泣いている赤ん坊を抱き上げる。

「お〜よしよし、怖いおじちゃんでちゅね〜」

 などと言ってあやしてやる。彼女のいきなりの飛び入り参加に悟空はおろかベジータでさえも目を見開く。

「アウ……ウウ……フエェェェ……」
「ねんね〜……ころりよ〜……♪」
「……zzz」

 段々と泣き止み、ついには泣いて疲れたのかブルマの腕の中で眠りについた。

 ブルマは寝たのを確認すると、音を経てない様にゆっくりと、それでいて素早く別の部屋へと運んでやった。

 伊達にトランクスの子守りをやっているわけではないと言わんばかりに慣れた手つきを披露した。

 しばらくしてブルマは二人の元に戻ってくると、また二人に食いかかるように詰め寄った。

 しかもその表情は怒りに満ち満ちていた。

「孫くん!! いくら話が通じないからって子供の前で暴力に持っていかない!! ベジータも物騒なことは言わないの!! 相手はまだ赤ちゃんなのよ!!」
「い”〜……オラは別に……」
「何も知らんくせに……お前も奴の危険性を理解できんのか!?」

 参ったように委縮する悟空に対してベジータは横槍に気分を害したのか腕を組んでブルマを睨む。普通の人ならば失神してしまうほどの威圧を放って……

 だが、流石は最強の妻というべきかそんなベジータを相手に引かずに食い下がる。

「あの子がなんであろうとまだ子供なのよ!! ちゃんと面倒みれば問題ないわよ!!」
「奴がサイヤ人としてお前を殺すかもしれんぞ?」
「なら、なおさら放っておくわけにはいかないわ!! あの子は私が面倒みる!!」
「何ぃ!?」

 ブルマの仰天発言に流石のベジータも驚愕に目を見開く。

 そして、今度はブルマに詰め寄る。

「ふざけるな!! オレ様はお前を案じてやっているのに何をヌかしやがる!!」
「へ〜……あんたが私を心配なんて……あんたにそんな良心があったなんて知らなかったわ」
「なんだと!? それが夫に対する口の聞き方か!!」
「なによ!! トランクスの面倒も任せっきりでよくもそんな口が叩けるわね!! そんなにいい夫になりたかったらね、少しは育児に協力なさい!!」

 どんどんと加速していく夫婦喧嘩にもはや空気となった悟空もその光景を見つめるしかなかった。幾度も全世界を救った英雄も見る影が無いほどに……

「もういい!! 精々殺されるために育てるがいい!!」
「ふん! そんな子にはさせないわ! 見てなさい! 母の力を見せてやるんだから!」

 そんな悟空を置いてけぼりにして喧嘩を続けていたベジータも遂にブルマの勢いに屈した。

 そっぽを向くベジータにブルマは勝ち誇ったように続ける。

「あの子は立派に育てる!! 決して人に言っても恥ずかしくないような子に育ててやるわよ!!」
「サイヤ人にそんな綺麗事は通用せん!! どれだけ叱ったり矯正させようと、あのガキの本能には残虐非道なサイヤ人が眠っている!!」

 ベジータが言わんとしているのはこうだ。サイヤ人は血と戦闘を好む生粋の狂戦士であるがゆえに殺しを躊躇しない。それが親であってもだ。

 気に入らない相手であれば親であろうと殺す。

 つまり、サイヤ人を育てるには相応の覚悟をしなければならないということだ。

「お前はサイヤ人のことを分かっていない……奴は戦闘と血を好む」

 傍から見れば冷徹に答えているようだが、ブルマと悟空には分かった。

 これがベジータなりの優しさなのだ。

 今まで傍若無人に振る舞って、殺しに殺した彼だから普通の接し方が分からない。

 そんな彼だからこそ、サイヤ人のことを理解し、警告をしているのだ。

 そんなベジータにブルマは軽く笑って続けた。

「なら、なんであんたはここにいるのかしら?」

 その一言にベジータの肩が一瞬動く。

「あんたが残虐なサイヤ人なのは分かってる……けどこうして平穏に過ごし、父親になったじゃない」
「……」
「あの子とあんたが同じだって言うならきっと大丈夫よ」

 胸を張って言ったこの言葉に嘘はない。

 ベジータと過ごしてきた彼女だからこそ彼の悪いところといい所を理解している。

 そんな彼女だからこそ、あの赤ん坊を立派に育てたいと思ったのだ。

 彼女の意志の堅さをベジータは察知し……

「……勝手にしろ」

 そう言い残してベジータはブルマと顔を合わせることなく部屋を後にした。

 その場に残ったブルマに悟空は近付いてお得意の能天気フェイスで言った。

「よかったな」

 それに対して素直になりきれないベジータ姿を思い出しながら笑って応える。

「えぇ……本当に……」

 ブルマの顔はこれ以上にないほど輝いていた。









 しばらくして悟空が帰って外が暗くなった時、ブルマは気持ち良さそうに眠っている赤ん坊に笑いかけて頬をつつく。

「……ん〜………」

 赤ん坊が唸る姿に優しく微笑むブルマ

「あんたの母親になったからには立派に育てるわ」

 トランクスのように優しくてかっこいい息子に……

 ベジータのように誇り高い息子に育つように……

「私のような美人で天才が母親になったんだから覚悟しなさいよ……」

 そんな願いを込めて新たな命に名前を付ける……

「『カリフ』……私のもう一人の息子……」

 ありったけの愛情を籠めてもう一人の息子……カリフの頬と別の息子であるトランクスの頬にキスをして一日を終えたのであった。

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