小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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 ベジータの一家に新たな家族が増えてから七年が過ぎた。

 あれ以来、ブルマの育児量が倍近くまで膨れた。

 トランクスに加えてカリフの育児に毎日を追われていた。それでも投げ出すことをしなかったのは流石だとしか言い様がない。

 彼女のあの時の決意が本物だったからこそ為し得た偉業だと言える。

 基本的にトランクスとカリフは双子として育てられた。

 トランクスはともかく、意外なことにカリフにはサイヤ人特有の狂暴さは見られず、比較的トランクスと同じ感じだった。多分、そこもパラガスの差し金だろう。遺伝子操作さえできればそのくらいどうにでもなる。

 そんな二人も乳飲み子から今では立派に育ち、トランクスは天真爛漫なやんちゃ小僧となり、カリフは冷静沈着な性格となって育った。

 トランクスが“動”ならカリフは“静”と言った感じだ。

 正反対な性格な二人だけれど、今ではカリフが兄でトランクスが弟という方程式が成り立った。

 もちろん、孫一家とも面識があって普通に接している。悟飯もカリフとトランクスを弟のようにかわいがった。

 そこへ孫一家にも新たな命が生まれ、悟天という弟ができた。

 それを機に両一家とも親密になったのだった。

 そして、カリフを危険視していたベジータはというと、今ではすっかりカリフを息子として見ていた。

 最初の四、五年はカリフを警戒していたのだが、ブルマの熱血教育が功を奏した。

 時々、問答無用で殴りかかってきたこともあったがベジータの鉄拳制裁教育もあって理性のほうもあらかた問題はない。

 カリフ自身もトランクと悟天よりも頭一つ戦闘力も身長も大きく、さらさらの黒髪をなびかせ、年相応のかわいさは無く、凛々しさが目立つ。

「ベジータ、重力制御装置を起動させたいのだが……」
「……ついて来い」

 このように、普通に接したりもする。つまり今ではあまり問題ないということだ。

 このベジータさまにかかればそれくらい当然だからな。

 ただブルマとしては、少し残る残虐なサイヤ人の部分に不服を感じているそうだ。

 オレとしてはそれくらいがちょうどいいとは思っているし、どっちかといえばオレ様似てそだったことが少し自慢だったりする。

 このことをブルマにチクりやがったら遠慮なくブチ撒けるから覚悟しやがれ。

 そして、オレはそんな七歳の息子にある話を持ちかける。





















「どうした? ベジータ」
「来たか。座れ」

 とても親子とは思えぬ淡白な会話だが、これがこの家の日常である。

 ベジータはカリフをある一室に呼びだして正座させる。

「……」
「……」

 両者とも向かい合って何も喋らず、本来なら居心地が悪いところだけど二人にとってはそんな沈黙などなんとも思わない。

 そんな感じで向かい合っていたのだが、その長い沈黙もベジータによって破られた。

「宇宙へ旅に出る気はないか?」
「旅?」

 ベジータからの意外な提案にカリフの眉が僅かに動く。

「何故そんなことを急に提案するのだ? 今までそんな素振りも話もでてこなかったというのに……」
「今さっき思いついたからだ」

 父親の気まぐれにカリフは少し頭を抱える。

 少し神経質なカリフにとってベジータや悟空の気まぐれには手を焼いているようだ。

「……オレがブロリーのクローンだからか? それとも……」
「御託は聞いていない。答えは?」

 そんなことはどうでもいいと言わんばかりにベジータは答えを催促すると、カリフは少し考え……

「いいだろう。どうせならすぐに行きたい」
「よし、それなら二日後にお前を飛ばしてやる。それまでに準備しろ」

 カリフは至極、いつも通りに返し、ベジータもあっさりと話を切り上げる。

 ベジータが部屋を出て、カリフが一人になると一人物思いにふける。

(……ベジータが急にあんな提案をするには何かしらの理由がある……あんなつまらん言い訳などしやがって……なにを考えるか……)

 カリフの中でのベジータは父親とは他に闘いのイロハを教えた師、同時に越えるべき相手と考えている。

 それ故に、ベジータが気まぐれなのと頑固なのはよく熟知しており、誇り高く、愚かな男では無いとも思っている。

(単にオレを強くしたいのか……もしくはオレを追い出したいのか……)

 カリフは基本、打算的な考えで動き、戦を好む。そして無駄だと思うことには無関心である傾向がある。

 どうしようもなく暇なときは鍛錬をしたり、別の娯楽をさがすことがある。

 事実、ハンターハンターも数少ない彼の娯楽の一つである。

(……まあいい)

 しばらく考えていたが、分からないことをいつまでも引きずりはしない性格のため、ベジータの心の内を推測するのを止めた。

(あっちが何を考えているにせよ、この旅はオレにとって好都合……いや、むしろ僥倖と言うべきか……)

 カリフのサイヤ人としての血がうずく。

 胸が熱くなり、衝動が段々と強くなり、抑えきれなくなる。

(宇宙なら修業という名目で存分に殺り合える機会も多くなる……母親のうるさい小言も聞かなくて済むと言う訳か……)

 銀行強盗や殺人犯やチンピラなどのゴミを一度だけ本気で殺そうとしたこともあったが、その時は悟空に止められ、母親の不本意な説教を喰らったのを覚えている……

 だが、あの時感じた血の匂い……高揚感も未だにオレの胸に刻まれ、記憶されている……

 もし、あのまま血を浴びればオレはどうなっていただろう……考えるだけで更に胸が高鳴ってくる……!!

 殺りたい





 闘りたい








 戦りたい






 やりたい






 ヤりたい!






 ○りたい!!




 ○●たい!!!


















(だが……)

 母親とベジータには育てられた恩がある故に、奴等との約束を破るわけにもいかん……

 あの時、オレは四つの誓約を交わされた。

『無闇に命を奪うな』

『殺す意志がない相手は殺すな』

『殺すにしても理由を聞いてから』

『むかついたら殺せ』

 最初の二つが母親で、あとのはベジータとの誓約である。

 母親は兎も角、ベジータまでもがこんな誓約を交わしたことには素直に驚いた。

 理由はベジータは教えてくれず、悟空に聞いてみると……

『本能に任せるだけでなく、ちゃんと己を律する心を持て……ベジータはそう伝えたかったんじゃないかとオラぁ思うぞ』

 最後のはどうかと思うが……たしかに悟空とベジータの言い分にも一理ある。

 本能に任せ、失敗した経験などベジータやブルマからよく聞かされた。

 そう思うと、この誓約を守ることにも何かしら得るものがあるのではないか?

 そうでなくても、オレは約束を破られるのもウソをつかれるのには我慢ができない。

 故に、オレも約束も破らないと内に決めた。

 そして、この旅はオレの試練なのかもしれない……ベジータが思いついたことなのだから一筋縄にはいかないだろう……

 そんな風に考えながらもオレは高揚していた。

 やかましい親元を離れ、退屈な地球からもようやく解放されるのだから……

「くくくく……はっはっはっはっは……」

 オレは抑えきれない興奮を抑えられず、誰もいない部屋で一人、言い表せぬ快楽に身を任せるのであった。

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