小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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期限は一年……それまでに自分の足で立ち、歯も生えて母乳以外の食物を食せなければならない。

人というのは自分とは違う者、強大な者を迫害して安息を得ようとする。

それこそが人としても正しく、生きるための知恵だとも思っている。

生まれてから一週間でハイハイをすっ飛ばして二足歩行を始め、一ヶ月間は筋トレに励み、生後三カ月で歯も全て生えた。

おかげで喋れるようになり、離乳食、生野菜、そして肉をも食べられるようになった。

自分でも驚くほどの成長速度に計画を早めて半年で一人立ちしよう……と考える。

後の三カ月は堅実に過ごしていこう









「そんな風に思っていた時期がオレにもありました……」

一歳が決別の時……その計画があっけなく頓挫した。

原因は今現在の親にあった。

本来なら人とは思えない成長に自分を恐れて捨てるのかと思っていたのだが……

「すごいわあなた!! この子ハイハイをすっ飛ばして二足歩行で立ったわ!!」

母親は何故か歓喜し……

「母さん!! カリフが今何か喋った!! さあ! もう一回父さんに喋っておくれ!!」
「このドグサレ野郎」
「母さん!! 今息子に罵倒された!!」

父親さえも自分が天才だと思って歓喜していた。

こいつらは馬鹿か?

こんな成長するガキがどの世界にいるのか目ん玉ひん剥いて世界中見て回れ。

そう思っていたのだが、同時に感謝もした。

DNAが違っていても息子だと言って喜ぶ能天気夫婦に呆れもしながら脱力してしまった。

ベジータともブルマとも違う親の形、自分に向けてくる嘘偽りの無い深い愛情

これなら理想通り六歳までは基礎修行もはかどれると狙いながらも恩も感じている。

自分の夢である悟空とベジータ越えの夢も捨てる気は無い。

この世界では自分のしようとしてることは立派な親不孝だが、立ち止まる気は毛頭ない。

ならせめて、残りの時間はブロリーのクローン、戦闘民族サイヤ人のカリフとしてではなく、新しい名字の鬼畜カリフのままでいよう。

心の中で誓いを立てた。















そして、五年の時が流れた。

「お袋、明日も山に行ってくる」
「あらまた? 修業って奴?」
「まあな」
「またかカリフ、お前もそろそろ友達を作りなさい。父さんのように」
「ふん。ここいらの奴等は生意気なくせに身の程って奴を知らねえ奴ばっかだからやだね。それよりも早く出世しろ」
「ぐはっ!」

五歳のカリフは鬼畜一家のリビングでプロテイン入り牛乳を飲みながら水戸○門のテレビを見て母親に毒づく。

母親も苦笑しながらキッチンで夕食の皿洗いをして父親は息子に心を抉られて吐血する。

そんなどこにでもある幸せな家庭だが、この親二人は心配事がある。

それは友達のこと

「聞いたわよ。また近所の子を家の屋上から吊るして泣かしたんですって?」
「野郎がこのオレに喧嘩ふっかけてきたんだ。殺されなかっただけ有り難いと思われるくらいだ」
「お前、最近じゃあガキ大将じゃなくて独裁者って呼ばれてるぞ?」

回復した父親がカリフの頭を撫でようとするが、気付いたら瞬間移動したカリフはキッチンの方へ歩いていた。

「あれ? 今さっきまでソファーに……」
「それに何度も言っている。オレは友じゃなくて強さが欲しい。それだけだ」
「でも……カリフのお友達を見たいわ……そしたらご馳走も作ってあげるのに……」
「あれ? 母さんはこの異常現象を無視?」

父親だけが置いてけぼりを食らう中、カリフは珍しく悲しそうにする母親に調子が狂う。

あのノホホンとして、自分が代わりに補佐しないと簡単に他人に騙されてしまうような母親が自分のことで悩んでいる。

「……もう寝る。すみ〜」
「えぇ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
「あなた? さっき何か言ってなかった?」
「うん。もう気にしたら負けかなって思ってる」

両親の会話を背にカリフは自分の部屋へと向かう。

「メンド……」

さっきの話を思い出して一人溜息を吐いた。

















翌日、カリフは近くの山へと朝早く出かける。

本来なら幼稚園に行っているはずなのだが、カリフは行ってない。

カリフにとって乳臭い他の子供と一日の大半を過ごすなど時間の無駄であり、我慢ならないことだった。

両親もカリフが相手じゃ幼稚園の先生も精神を病んでしまうと判断した。

とは言っても、息子にはやりたいことがあり、且つ、真っ直ぐ、純粋に育っているため両親は心配していない。

そんな感じでカリフの朝は日の出と共に始まるのだった。












「よし、今日は基礎トレでもすっかな」

山の中腹まで行った所でカリフは準備運動として柔軟を始める。

元々から身体スペックが高かったカリフは既に気の基礎を再び使えるようになっており、既に舞空術まで可能になっている。

握力も軽くトンは越している。

事実、三年前に父親とキャッチボールしたのだが、その際に力加減を間違え、野球ボールが父親の頬を掠め、トラックを貫通し、鉄筋コンクリートの建物にクレーターを作るほどだった。

このことはニュースとなり、しばらくの間はその公園は立ち入り禁止とされた。

結局はこの時はテロとされ、父親には鳩尾を喰らわせて気絶させて記憶を曖昧にさせた。

つまりは、カリフは五歳の時から既に強者として確立した。

だが、それでもカリフは満足せず、未だに気、体力、柔軟、技術の血の滲むような修業を繰り返している。

さらには他の生き物でさえもでき得ないような修業法もしている故に、その成長は止まることを知らない。

「軽くウォーミングアップとでもするか……」

そう言ってカリフはシャドーを開始した。


















四時間のシャドーは苛烈を極め、パンチだけでも木々が根っこから吹っ飛んだので場所を変えた。

場所は木々が存在しない、昔に工事現場にされた荒れ地だった。

その荒れ地には人も来ず、足場が悪いから常にバランス感覚も養えるという理由でカリフの秘密の場所となりつつある。

「ふー……」

現在、体中に生傷を作っているカリフはその場に腰を降ろして深呼吸している。

傍から見ればただ座っているだけに見れるが、その実そうではない。

深呼吸と共に気をゆっくり、それでいて力強く練り上げている。

普段なら周りに被害が出る様な余波を起こす気の量だが、カリフはまるで煙のようにゆっくりと出している。

気をハイペースで消費し続けて指定の時間まで耐える。

そして、慣れる度に気を消費する時間を伸ばしていく。

このようにして元々から膨大にあった気の量をさらに底上げする。

これが一段と疲れるのだが、これが一番手っ取り早い。

カリフはただ無心になって気を放出し続ける。

そして、しばらくの時間が過ぎようとした時だった。

「……来たか」

カリフは気の放出を一旦止める。

それと同時に汗が一気に湧き、呼吸も若干荒くなる。

カリフはそのまま横になって目を閉じる。

(今日はなんだ?)

そう思いながら眠りに付く。

修業の疲労からカリフはスヤスヤと寝息を立てている。

「……」

そんなカリフの近くに小さな影が近付いてきた。













「……ふぁ」

しばらくして気だるそうに起き上がる。

「夕方か……」

既に朱色となっている夕陽を見て呟き、辺りを見回す。

「お」

そして、カリフは見つけた。

若干遠い場所に置いてあるラップされた幾つかのおにぎりを……

手を使わず、足の反動だけで飛び起き、おにぎりの元へと近づいてラップを剥がす。

おもむろに匂いも嗅ぐ。

「鮭か」

中の具も匂いで確認して一つを頬張る。

疲れて塩分の足りなくなっていた体に沁み渡る。

体も心もなんとなく軽くなった気がして表情が綻ぶ。

「うまぁ……」

一言だけ言ってからまた一つ口へ運んでいく。

そんな間でも考察は続いていた。

(直前まで感じた気の質からいって人間ではないのは確かだな……他にも妙な気もあれば強い気も感じる)

この世界には人以外の何かがいる。

それに気付いたのは結構前のことだった。

気を取り戻して大幅な探索を行ってみたら、なんと人以外の気が見つかった。

それも一つ二つなんてものではなくて多数存在した。

中には住宅街からも妙な気と力が偶に顔を出す。

(流石といった所か……悟空め。味なことをしてくれる……だが!)

未だ知らぬ世界が目の前に広がっている。

そのことに歓喜しながらも同時に歯痒く思っていた。

今はまだ力を溜めることが先決だから動くことはできない。

しばらくは堅実に修業あるのみだった。

「だが、これはなんのつもりだ?」

カリフは疑問だった。

なぜ、人外の者が自分に毎日と言っていいほど食べ物を置いていくのか……

つい最近になってから起こり出したこの不可解な現象に首を傾げるが……

「……まあいっか」

気の質も覚えたから正体はいつでも割れる。

だが、そんなことすればこんな特典が消えてしまうだろう。

そう思ってカリフはおにぎりを全て平らげて修行場を後にする。

今日も絶好調のまま一日を終えたのだった。















帰っていくカリフの後を追う小さな影が一つ。

頭には白い猫の耳、お尻にからは細い猫の尻尾が生えている。

白い髪に幼いながらも整った可愛らしい顔が寂しさに染まる。

木陰からカリフの姿が見えなくなるまで見送ると、少女の背後に黒髪の女性が現れる。

その女性にも猫耳と猫の尻尾が付いている。

違いと言えばその尻尾とかが黒いことである。

「白音、今日もなの?」
「姉さま……」
「あなたの気持ちは分かるわ。この山には滅多に来ない同い年の子ですものね」
「……」
「友達になりたいということはいいことよ? そのためにあなたの大好きな食べ物やおやつをあの子に分け与えてるんでしょ?」
「黒歌姉さま……」

黒歌と呼ばれる猫は真面目な表情で白音と呼ばれる猫を見つめる。

「でも、あの子は人間よ?」
「そ、それは……!!」
「人間というのは自分とは違う生き物を恐れ、遠ざける……それは知っているでしょ?」
「……」
「それに、今私たちに関わればあの子の命が危ないわよ?」
「!!」

姉の一言に体を震わせる。

「私たち猫又の力を狙って堕天使の動きが活発になってる……悔しいけどまだ妖術も仙術も未熟な私じゃあ逃げるので関の山よ」
「……でも……あの子……」
「今回は運が無かったのよ……今回の堕天使は見た顔だから単独で行っている。逃げ切れば私たちの勝ちだから……その時までは我慢して……ね?」
「……はい」

頭では分かっているけれど、納得ができない。

なぜ猫又だからといってここまでされなくちゃいけないのか……

魔力が高いから? 妖怪だから?

それだけで親を亡くすのだろうか? 狙われるのだろうか? 友達も作れないのだろうか?

それとも、私が弱くて姉さまに迷惑かけてるから?

誰からも返されることのない心からの問いに白音はすすり泣きながら林の中へと戻っていく。

小さく嗚咽を洩らしながら今の住処に戻っていく妹の背中を見て黒歌は小さく呟いた。

「……ごめんね」

何もしてやれない自分の不甲斐無さに歯を噛みしめることしかできなかった。



















「うーむ」
「どうした? 悩んでいるようだけど」
「大変だオヤジ。山に人外がいる」
「マジでか?」

結局、家に帰ってからも目的が分からずに悶々としていた。ソファーの上で寝そべりながら最近になって起こり始めている異変を考察していた。

(住宅街にも人外がいるが、山にいるのとはまた別の種族ってやつか?……この時点で二勢力がある……そう思っていたが、さらに新たな気が最近になって現れやがった)

時折、山の方でこれまた異質な気が二つ蠢いていた。

しかも飛んでいる。

そして、動きも上空と地上から同時に散策しているような感じだった。

何かを探している?

そう思ったが、すぐに考察をシャットダウンさせた。

(メンド……)

相手がどうであれ、こっちに危害を加えたりちょっかい出さなければ問題はない。

そう思いながら床につこうとした時だった。

「!?」

部屋に向かう足を止めて表情が強張る。

(この気……まさか……)

不意に感じた気の流れ

気の量の起伏、激しくなった動き……只事ではない

「……やってくれたな」

カリフは自分の部屋へと戻り、窓を開けた。






















不味い……黒歌は思った。

遠い地からはるばる移動してきて逃れてきたのに……

「いたか!?」
「いや、だが、そう遠くへは逃げられまい」

木陰に隠れ、夜の闇の中で息を殺して気配を絶つ。

草むらの中で白音と一緒に隠れているが、白音は脅えて涙をポロポロ零しながら黒歌の服にしがみついている。

当然だ、妖怪とはいえまだ五歳の少女が命のやり取りに耐えられる訳が無い。

妹の頭を撫でて落ち着かせる。

「大丈夫、ここにいれば安全だし、もし見つかってもお姉ちゃんに任せなさい!」
「う……ぐず……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
「大丈夫、大丈夫だから……」

泣いてしまった妹をあやしながら頭を撫でてやると、すぐに男の声が響いた。

「いたぞ!! あそこだ!!」
「やばっ! 行くよ白音!!」
「!!」

小さい妹の手を引っ張って暗闇の林の中を全力で走る。

木の枝が体を引っ掻いて傷ついても立ち止まってはいられない。

「はぁ……はぁ……」

だが、そんな黒歌の体力も限界に近付いて来ていた。

「おっと」
「なっ!!」
「ふ…」

そのことを暗示するかのように二人の黒い羽の男が上空から降りて姉妹を挟みうちにする。

「このっ!」
「む?」

前方の堕天使と言われる者に対して手から閃光を放つ。

だが、男は手から光の槍を創り出して無造作に黒歌の閃光を弾く。

「くっ! やっぱり通らない!!」
「無駄だ、いくらお前が猫&#39752;(ねこしょう)と言えどまだまだ未熟。戦闘経験も充分に積んだ我等に勝てる道理はない」

そう言って後ろからも前からも堕天使がジリジリと迫ってくると、黒歌にしがみついている白音が大粒の涙を流して震える。

それを見た後方の堕天使が思いついた。

「なぁ、そのちっこい奴はどっかに売っちまおうぜ?」
「なんだと?」

前方の男が後方の男を光る眼で睨むも、睨まれた本人は大袈裟なジェスチャーで相方を抑える。

「んな怖い顔すんなって、その黒い奴は予定通りコカビエルさま辺りに献上して幹部の席のために使って、ちっこい奴はまだ役に立たねえからその筋の奴に売ったほうがいいって」
「ふむ……」
「猫又のメスガキなら需要があるからそっちの方がいいと思ったんだけどな〜」
「……不本意ながら貴様の言にも一理ある。良いだろう、ただしアザゼルさまにはバレないようにしろよ。我等の出世がかかっているんだ」
「任せなさいっと」

二人の会話を聞いて白音はさらなる恐怖に気が狂いそうになり、黒歌は毛をざわつかせて激昂する。

「ふざけるな!! お前たちのくだらない身の上話で私たちを好きにさせられてたまるか!!」
「おぉ!? こりゃすげえ!」
「これは……」
「堕天使に、運命にまで私たちの人生を狂わされるのはもうウンザリだよ!!」

黒歌の練り込む力はさっきまでとは違い、桁はずれな力を含んでいる。

力の余波で木々がざわつき、闇を照らすのだが、それを遮る者がいる。

「うあ!!」
「姉さま!!」

肩に光の槍が貫通して黒歌が倒れる。

鮮血をまき散らして後方の男から投影された光の槍の勢いで黒歌は弾き飛ばされて白音と離される。

「ふん!」
「あぁ!!」

地面に倒れる黒歌を前方の男が頭を押し付けて押さえる。

押さえられた衝撃に悲痛な声を上げる黒歌を楽しげに後方の男が見つめる。

「安心しな。すぐに妹さんも捕まえて一緒にしてやるよ。もっとも、短い間だけだがな」
「い、いや……」
「逃げなさい白音!! 今すぐ!!」

黒歌が必死に白音に声を張り上げるが、白音は迫りくる男に恐怖して動けない。

恐怖のあまり失禁する白音の様子を見て男が大声を上げて笑う。

「いいねその表情に挙動! やっぱそういう顔最高だわ!!」
「白音に近寄るな! 触るな!!」
「そう言いなさんなってお姉さん。できるだけ丁寧に扱ってやるから安心しなって」

ニヤニヤしながら白音に近付いてくる男を見て黒歌を抑えている男は「変態め……」と舌打ちしている。

(ぐっ! さっきので妖術も切れたから力はいんない……! このままじゃあ……!)

黒歌は妹に駆け寄ろうとするも、男の拘束をふりほどけない。

「姉さま……」
「白音……!」

姉妹に絶望の波が押し寄せる。



その時だった。


「ぐぼぁ!」
「!?」

突然、白音に近付いて来ていた男の頭に何かが当たって弾き飛ばされる。

白音もその様子に驚愕して体を震わせた。

「なんだ!?」

黒歌を押さえている男が相方にぶつかって地面に落ちたものを見ると……

「石?」

一握りくらいの石だった。

それが相方を弾き飛ばしたのは分かった。

ならどうやって飛んできた?

そんな疑問を頭の中に浮かべようとした時だった。

「こんばんわ」
「「「「!?」」」」

不意に聞こえてきた第三者の声

石が飛んできた暗闇の先から聞こえる声の主に向かって弾かれた男が立ち上がって怒声を上げる。

「誰だてめえは! 姿見せろ!!」
「とっくに見せている」」

喧嘩の売り買い言葉と共に闇から現れたのは子供

ラフなタンクトップ姿の幼い子供が悠々と姿を現した。

意外な存在の登場にその場にいる全員が目を見開いて驚く。

だが、その風貌はただの子供では無い。

滲み出る覇気、闘気、そして殺気

全てを孕んだ子供は不敵に笑って言った。

「今日はいい日だ」

子供……カリフはこの日、力の片鱗を見せる。

「死ぬには……いい日だ」

この日を以てカリフは新たな世界への第一歩を踏みこむ。

カリフの人生プランに変更は無い。

今宵も嵐が吹き荒れる。

-10-
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