小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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それは突然だった。

長きに渡って繰り広げていた堕天使との逃走劇はいつも命懸けで、誰も助けてはくれなかった。

自分も姉も頼る人はおらず、頼れなかった。

すごく寂しくて、いつも守られる弱い自分が嫌だった。

だからだろう……あの子に興味を持ったのは……

同じ歳なのにやることに一切の迷いも後悔も見せないで生きているあの子に……








それは突然だった。

暗闇の中から現れた一人の子供。

見た限り、まだあどけない子供が黒い羽の男たちを睨んでいた。

「やぁ、どうしたのかなボク? こんな時間にこんな場所で危ないぞ?」

石をぶつけられた男は白々しく造った笑みを浮かべてカリフの元へと歩み寄ってくる。

「こんな所で一人でいるとこわーいこわーいおじさんたちに食べられちゃうぞー?」

露骨に目を光らせて牙をチラつかせている。

そんな脅しにカリフは鼻で笑う。

「勝手に言ってろよ。オレが用があるのはそこのちっこい奴だよ」
「白音に?」

押さえられている黒歌は怪訝に思う中、カリフは話を進める。

「今日のにぎり美味かった」
「にぎり……あ…」

白音自身も言われてから気付くのに時間がかかった。

そして、その一言が意味するのは一つ、夕方のことを知っているということだった。

「き、君は……」

黒歌がカリフに口を開けた時だった。

今まで無視されていた堕天使がカリフの前へとにじり寄ってくる。

「なに俺たちを無視して話しこんでんだ? 嘗めんじゃねえぞクソガキ」

石をぶつけられたにも関わらず、今度は無視されていたことを根に持っていた堕天使がカリフに蹴りを入れようとする。

「あぶな……!!」

黒歌が言い終わる前にカリフの鳩尾に蹴りが入れられる。

「ひっ!!」

白音も蹴り飛ばされて飛ばされていくカリフに息を飲んだ。

軽い体がある程度の距離まで飛んで地面に倒れる。

「ふん。たかだか人間のガキが出しゃばりやがって」
「おい、そんなのに構うよりも速くこいつ等を捕縛しろ」
「りょーかい」

ある程度力は入れた。相手が悪魔や天使、人外の者以外なら即死は免れない。

それでなくても相手はまだ子供、あれだけやれば内臓か骨くらいはオシャカになって使い物にはならないだろう。

「よっしゃ! じゃあ速く帰って一杯キューっとやろうぜ?」
「それなら貴様の奢りだ」
「えぇ〜! そりゃないぜ〜!」

子供を殺した後とは思えないほどの男たちの冷酷さに白音の恐怖はさらに高まる。

白音はまた近寄ってくる男に目を瞑ってうずくまる。

男も醜悪な笑みを浮かべて白音に手を出す。

その時だった。



「一回は一回だ」
「は?」

突然聞こえてきた声に男は白音に近寄るのを止めて声のした方向を何気なしに見る。

瞬間、男の手に違和感が襲った。

「……あ?」

男の手に木の枝を突き刺しているカリフ。

何が起こっているのか、未だ痛みを理解していない男の手を突き刺した枝で引き寄せて手刀を作り……

「ナイフ」

男の手首に振り下ろした。

その瞬間、男の手が鮮血をまき散らして宙に舞った。

「は?」

男は訳が分からないという表情で自分の手があった部分を見ると……そこには手首から先が消えて鮮血が噴き出る。

「なに!?」

黒歌を押さえていた男は思わず黒歌を離して驚愕する。

一方の男は無くなった手を押さえて悲鳴を上げる。

「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 手がっ! 俺の手があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

後から襲ってきた痛みに悶えて地面を転げる。

その様子を見てカリフはやたらアッサリとした表情で言った。

「さっきの蹴り……あまりに遅くて避けていいのか迷っちまったよ……なまっちょろ過ぎてその足にキスしてやりたかったぜ」

チュっと愉快に唇を鳴らすと、手を切断された堕天使は体を怒りに震わせながら叫んだ。

「このクソガキがあああぁぁぁぁぁぁぁ!! たかだか百年くらいしか生きられない人間のガキが俺の手をおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「残念だが坊や……こいつのことはどうでもいいのだが、こいつの言う通りここで退けば我々堕天使が人間の子供に負けたなどと不名誉を背負わされるのでな。速やかに始末させてもらうよ」

黒歌の捕縛よりもカリフの打倒を決めた堕天使は二人で並び、相方の傷を魔力で止血する。

そんな光景を見てカリフは余裕そうに呟く。

「グッド……やっと相手する気になったか?」
「自惚れるなよガキ。こうなったらお前はもう死ぬしか道はねえんだよ!」
「知ってるか? そういうのをここでは死亡フラグっていうらしいぜ? オヤジがよく口にしてた」
「おやおや、やはりあなたは子供だな」
「は?」

男が静かに呟くとカリフが眉を顰める。

「我々はもう百年近くも妖怪狩りを生業にして生きてきた……つまり、経験でも実績でも我々に敵う道理はありませんよ」
「そういうことだ!! 俺たちに狩れねえもんはねえ!!」

舌を出してばか丸出しに笑うが、カリフはそれでも余裕を崩さない。

それどころか

「は」

完全に落胆したような声を出す。

「つまり言うとあれだ……お前等は百年も生きてオレは五年しか生きてないから勝てない……そういうのか?」
「えぇ」
「はん!」

その答えにカリフは唾を吐き捨てて続ける。

「貴様等が自分よりも弱い奴を捕まえて残飯漁るような惨めでくだらないような百年がオレの充実した栄光の五年間に勝てるとでも本気で思っているのか?」
「……ほぅ、言ってくれますね」

これを機に男も紳士的には振る舞うが、若干の怒気を放った。

普通なら立ちすくむような怒気であり、解放されて白音の元に戻った黒歌でさえも身を強張らせるほどだった。

そんな怒気にカリフは真っ向から受けて平然と立っている。

「正直言おう。貴様等のそのゴキブリと何ら大差ないしみったれた百年の人生を……オレの五年の人生で踏みにじり






虚仮にしてえ」

明らかに見下しながら笑うカリフに手の止血を終えた男がキれた。

「いつまでも調子こいてんじゃねーぞ人間がぁ!! そんなに死にたきゃ今すぐ殺してやるよぉ!!」
「そうですね……今回ばかりは見逃す理由はなくても討ち取る理由なら幾らでもある」

二人の男が臨戦態勢に羽を広げると、周りの空気が明らかに変わった。

歪に夜空が歪むのが目に見える。

だが、自分の体に影響が無いならどうでもいい。

「なら、お言葉に甘えさせてもらって、調子……こかせてもらうぜ!!」

瞬間、カリフの服がはじけ飛ぶと同時にカリフを中心に突風が吹き荒れた。

「ぐっ!」
「なっ!」
「にゃ!」

既に超常現象の連続で気絶している白音だけを除いて、三人はこの突風に飛ばされないよう踏ん張っていた。

だが、このとき黒歌は見た。

わずか五歳くらいの子供の雄大な背中を……

そして、背中の筋肉で形作られた鬼の顔を……









そして、これと同時に奇妙な出来事が起こっていた。


カリフの家からそう遠くない家で起こった。

「す〜……す〜……おっぱい……チュウチュウ……」

寝言で卑猥なことを口走る少年の腕に光が灯り……

『Boost!!』

突如として赤い籠手が発動した。

少年は全く起きる気配がないのだが、その籠手に宿りし魂は戦慄していた。

『何だ今のは!?』

永き眠りから目覚めし赤龍帝も突然の間隔の暴走に戸惑っていた。

『これはこいつ……宿主からではない……だが、ハッキリと感じたぞ。これは……』

そう言ってまた赤い籠手の姿は薄くなり、元に戻った。

突然我が身に襲ってきた謎の波動

この異常現象に赤龍帝も……















「どうした? 急に力など使って……なにかあったか? アルビオン」
『ヴァーリ……お前は感じなかったのか?』
「何がだ?」
『そうか……いや、いい』

強さを求める白龍皇も……








「……これは……なにが起こっている? 神さえも屠り去る神滅具(ロンギヌス)の原点……黄昏の聖槍(トウルー・ロンギヌス)が勝手に動き出しただと……?」

英雄の血を引く子孫が手にする独りでに震える最強の槍が……













「な、何が起こっている……神器(セイクリッド・ギア)が勝手に動き出しやがった……」

魔力を放出して震える神器

「いや、これは勝手に動いてるだけじゃねえ……何かを恐れているのか……何かを知らせているのか……」

堕天使の総督が創り出した神器が……











魔界、天界、冥界、様々な世界を問わず、確認されている神器が主の意志とは関係なく勝手に動き出すという報告が世界を賑わせた。

まるで、何かに恐怖するかのように……

また、何かを世界に知らせるかのように……

この出来事があったその時間

まさに、カリフが戦いの一歩を踏み出した時刻と同時に起こっていた。









山に吹き荒れる突風が止み、上半身裸となっているカリフを見据える堕天使はすぐに躍り出た。

「くたばれ!!」

光の槍を創り出して投影し、凄まじい速度でカリフへと向かってくる。

それに対してカリフは首だけを傾けて避けるだけだった。

避けられた槍は後方の木々をなぎ倒し、自然消滅するまでその威力を見せつけた。

「あっけなく避けるか……なら、これならどうでしょうか?」
「む」

後方から迫ってきていた男は光の槍を持って直接斬りかかりにくる。

それに対してカリフは振り向きすらもせずに後方に跳んで自ら男との間合いを詰める。

「!?」
「おら!」

意外な行動に目を見開く男にカリフは前宙の要領で体を回転させて男の顎を踵でカチ上げようとする。

「ぐあ!」
「反応良し」

重い一撃で男の顔が跳ねるように弾かれ、カリフは男の腹にパンチを叩きこもうとした時だった。

「後ろ!!」
「でやあぁ!」

黒歌の声と同時に片割れの男が背後から同じ様に光の槍を持ってこっちに向かってくる。

半ば狂乱になりながらも槍を大雑把に振るうと、あっけなくカリフに掴まれる。

「な!?」
「不意打ちで大声出す馬鹿が……ここにいたか」

そうとだけ言うと、カリフは光の槍に対して手刀を放った。

「ナイフ!!」
「!?」

手刀を耐えた槍だったが、そこから更なる手刀の嵐を浴びせる。

「ナイフナイフナイフナイフナイフナイフナイフナイフ!!」
「ば、馬鹿め! ただの腕力でこの光の槍が……!!」

ビシ

「なっ!? 罅が!!」
「ナイフぅ!!」

止めと言わんばかりに大振りに繰り出した刃が光の槍を断罪する。

「今度はこっちだ!!」

紳士風の男が至近距離から光の槍で止めを刺そうとした時だった。

カリフは流れる様な柔らかい動きで男の懐へ忍び込み、首に目がけて牙を見せた。

「がぼ!」

瞬間、男の首が抉られ、夥しい鮮血をまき散らした。

その光景に全員が驚愕する中、カリフが出血している男を見て言った。

「噛みつきは戦闘において基本の一つに過ぎない。狙いは頸動脈のみに絞るのが得策。尚、衣服の上から噛む際には布を吟味するがいい。急激に引き抜かれ、前歯を根こそぎもってかれる例は珍しくないからなぁ」

口周りを夥しい血で濡らして崩れる男を一瞥する。

「な……なにもんだよお前……」

黒歌はもちろん、片割れの男が震えながら聞くと、カリフは口周りの血を舐め取って無邪気な年相応の笑顔で答えた。

「今は人間だよ」

そう言いながら頸動脈を噛み千切られて動かなくなった男に手をかざすと、その男は独りでに浮く。

もう喋るどころか意識すらない男は上空へと浮かぶのを見てカリフはかざしていた手を握りしめた。

その瞬間、男の体は膨れ上がり……

一瞬で内部から爆発した。

「きたねえ花火だ」

カリフが舌打ちしながら上空で舞い上がっている煙を見ている。

その光景にもう一人の男は震えて動けなくなっていた。

(じょ、冗談じゃねえ!! こんな得体の知れない奴がこんな島国にいたっていうのか!?)

もう男にはカリフは子供としてではなく、化け物としか思えなくなっていた。

「あぁ……もう一匹いたな……」
「!?」

カリフが血に染まった微笑みを向けてきた瞬間、男は黒い翼を展開させて素早く逃げた。

あまりに速いスピードに男の姿は夜空の星となんら変わりないサイズにまでなっていた。

男としてはもうカリフの視界から一刻も速く消えたい一心だった。

だが、それでもカリフは見ている。

普通ではない視力と気の探知によって分かり切っている。

「堕天使……お袋から読んでもらった昔話によると、神からリストラくらって天界とやらから追い出された奴のことなんだが……合ってるか?」
「え……えぇ……」

突然の質問に黒歌は少し脅えながら答えると、カリフは口を三日月状に形を変えて笑む。

「そうか……故郷は天界か……いつかは帰れるといいなぁ」

呟いた瞬間

カリフは深紅の光の球を収束させて夜空へと投げ飛ばし……

赤い光が

夜空を盛大に照らした。

そんな光景に呆気に取られる黒歌を尻目にカリフは探知を行う。

結果、男の気が完全に絶たれた。

「んーふっふっふっふ……」

その事を理解したカリフは俯いて小さくほくそ笑み……

「はーっはっはっはっはっは!!」

感情を爆発させた。

「一体なにが……」

急に笑い出す子供からは二人の堕天使を遥かに凌駕する何かが感じられる。

本当ならここで逃げるべきだ……

だけど動かない……

いや、動けない。

黒歌はその場に座り込んで未だ気絶している白音を抱きしめながら笑い続けるカリフを見ていることしかできなかった。

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